第165話 ドリュアスのアンペロス
はあ、逃げ出してしまった…
後先の事なんて、考えてなかった。
こんなメンタルの弱い私が神だって? 冗談にも程が有るよ。
今までそう呼ばれるのを許していたのは、冗談というか、じゃれ合いの中であだ名的な呼び方をされている程度にしか思っていなかったからなんだ。
でも……、本当は自分でも、薄々気が付き始めていたのかも知れない。気が付かなかったと言うよりも、無意識に気づかない振りをしていたんだと思う。
家族が増えて嬉しかったなー。
村ではずっとリーンお婆ちゃんと二人暮らしだったから。
最初はお師匠、あの大賢者ロルフが、私の本当のお爺ちゃんだと分かった事が凄く嬉しかった。私にも家族が居たんだーって、安心したんだ。その次にお母さんみたいなヴィヴィさんがやって来て、エイダム王様も王妃のエバちゃまも凄く優しくしてくれている。
そして、ケイティーという大親友も出来た。
皆で一緒の家に住んで、凄く楽しい毎日を過ごしていた。
魔族のクーマイルマに竜のプロークに飛竜の一家、トロルのヴェラヴェラ、イフリートのイブリスと、人間じゃないのも沢山居たけど、皆大切な家族と思っていた。
時々、神様とか女神様とか呼ばれるのは、冗談とか、あだ名とか、親愛の情を込めて、相手を天使とか妖精とか言うみたいなものだと思って流していた。リーンお祖母ちゃんも天使と呼ばれていたから。鬼とも呼ばれてたけど……。
でも、聖地騒動の頃から何だか、そう呼ばれる機会が増えて行き、私の魂の中に神格が有るとか言われたり、神格を検知して作動する宝珠が作動してしまったりと、段々自分の中でも誤魔化し切れ無くなって来て、遂に昨日のアレで決定的になってしまった。
そう、あの不思議な光柱現象と、その後の竜達の態度、クーマイルマの態度で、無理矢理気付かされてしまった。
もう、誤魔化せ無い現実として、突き付けられてしまった。
家族だ、友達だと思っていた人達が、私に傅く。祈る、涙を流す。悪夢だ、何の悪い冗談なんだろう?
自分でもずっと薄々気が付いてはいたんだ……、でも気のせいだと誤魔化したかった。そういう気持ちの方が大きくて、素直に認められなかったんだ。
そして、今私はここに居る。生まれ育ったリーンの村に。
縁も所縁も無い土地へ行ってしまえば良かったのだけど、全部リセットしてゼロからっていうのも怖かったんだ。往生際が悪いと言われるかも知れないけど……
でも、やっぱりというか、案の定というか、それが裏目に出た。
来てるなー、二人が。
一人はケイティーに間違いは無いと思う、もう一人は、ヴィヴィさん……ではないな、多分、プロークか、ヴェラヴェラ、かな。ケイティーが連れて来るとしたら、時々コンビを組んでいたヴェラヴェラの方が、フットワークが軽いか。
追跡されない様に、鍵もハンター証も置いて来たんだけど、甘かったな。
居場所は特定されては居ないと思うんだけど、ここに当たりを付けてやって来るまでの時間が短過ぎる。どんだけ凄腕の探偵なんだよもう。
素っとぼけて、誤魔化せるか?
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
男の子2人が入って行ったのは、森の直ぐ浅い所にある一軒の家だった。
他の家とは違って、二階部分に塔の様な構造が有る。ここは、森からの魔物の侵入を見張る、見張り小屋の役目もしていたのだろう。
「なんなのあの子、本当に隠れているつもりが有るのかしら、詰めが甘すぎるのよ。こんなの、素人でも見つけるわ。」
さっき、一瞬だったけど、魔力でサーチされたのを感じた。ヴェラヴェラもそれは気が付いたみたいだった。
あれ、あの子って、こんなに間抜けだったっけ? 何か罠でも仕掛けられているのかな?
ノックもせずに、ドアをバンッと開けて入ると、そこには数人の子供達が居た。
下は5~6歳から、上は12~13歳ってところか、さっき入っていった子を含めて、女の子2人に男の子3人の、全部で5人だ。
「ソピア、帰るわよ。」
私は、5人の顔を一人ずつじっくりと眺め、一人の男の子の腕をむんずと掴んでそう言った。
「何すんだよ! 放せよ!」
「とぼけたって駄目、私の目は誤魔化せないわ。」
「チッ」
あ、舌打ちしやがった。
「ケイティー、凄いな、正解だよー。」
「何で分かるんだよ!」
「ふんっ! 大親友を舐めるんじゃないわよ!」
「あたいは、普通に神格の光が見えているからだよー。」
「ヴェラヴェラを連れて来たのは大正解ね。これであなたが何に化けていても見破れるわ。」
私がソピアの腕をぐいっと引っ張ると、子供達が一斉に私に掴みかかって来た。
私とソピアの間に強引に体をねじ込んできた年長の女の子によって、私の手は振りほどかれてしまい、その子はソピアの手を引いて裏口から出て行ってしまった。
それを追おうとする私の前には、男の子2人と女の子1人が立ち塞がり、行かせまいとする。
子供達3人は、魔力で私とヴェラヴェラを家の外まで弾き飛ばし、女の子とソピアが逃げるまでの時間稼ぎをしようとする。
私が魔力の身体操作で子供達の頭上を飛び越えて行こうとすると、子供達は連携をして障壁を張り、空中で私の体を捉えて更に遠くへ投げ飛ばされてしまった。
「何この子達、結構魔力が強いし、連携も凄いんだけど。仕方無い、大回りして追うわよ!」
「わかったよー。」
私達は一旦子供達から距離を取り、魔力サポートの速度で子供達を迂回して、逃げたソピアを追った。
ヴェラヴェラも、私の身体ブーストアップは習得済みだ。私と同じ速度で走る事が出来る。
子供の足では私達の強化速度に追い付けまい……と、後ろを振り返ってみたら目ん玉飛び出た。付いて来ているー。ソピアめ、子供達に教えてたな。
森へ入り、地面を蹴って立木の枝へと飛び上がり、枝伝いに移動をして巻いてやろうと考えたのだが……
追って来る子供達が、石を飛ばしたり立木を薙ぎ倒したりしながら猛烈な勢いで突進して来る。このままでは森林が破壊されてしまう。こっちは手出しが出来ないというのに。
「ちょちょちょ、ちょっとタンマ。降参! 攻撃しないで! 話を聞いて!」
私達は、木の上から降りて立ち止まり、両手を上げて降参のポーズをした。
悪者をやっつけているつもりだった子供達は、面食らった様にこっちを見ている。
「私達はね、ソピアの敵じゃないのよ、友達なの。話をしに来ただけなの! それに、あまり森の木を薙ぎ倒すと、来ちゃうから!」
「はあ? 何が来るってんだよ!」
森の奥からじーっとこちらを伺う視線を感じて、背筋が寒くなった。
「ほらー! やっぱり来ちゃったじゃないのー!」
子供達は、初めて見るドリュアスに硬直している。
私とヴェラヴェラは、ただひたすら平謝りだ。
聖地の植樹祭で見た、葡萄の木の精霊の人だ。確か名前は、アンペロス。
怒れる森の管理者を前に、子供達は今にも泣きそうな顔をしている。悪戯でうっかり家宝の壺を壊してしまって怒られている子供みたいだ。
「アンペロス様、ご無沙汰しております。聖地でお目にかかった事のあります、ケイティーで御座います。」
「あ、ああ、あの時の、確かソピア様の……」
「大親友の、ケイティーで御座います!」
「あ、あー、そうね、ソピア様の大親友の。」
「ソピアは、様を付けると怒りますよ?」
「あっ! いけない! 今のは内緒でお願い……します。」
アンペロスは、ちょっとヤバイと思ったのか、すっかり森林破壊の方の怒りは冷めてしまった様だ。
「この子達には私から、きつく言い聞かせておきますから、この場の事はどうぞ平に。」
「う、うん、分かったわ。子供のしでかした事では仕方ありませんね。きちんと人間が叱って教育しておきなさい。頼みますよ。」
なんだか複雑な顔をしながら、倒した樹木はきちんと利用する事、跡地には苗木の植樹をしっかりする事を確約させられて帰られた。
子供達は、ドリュアスに罰を与えられると思って萎縮していたのを、私があっという間に代わりに交渉してくれて、大した罰も課せられずに済んでしまった事に、呆気にとられてしまった様で、すっかり大人しくなっていた。
「さてあなた達、話は聞いていたでしょう? 倒した樹木はきちんと利用する事、跡地にはちゃんと植樹をする事。守らないと、ドリュアスの怒りを買って、……後は分かるわね?」
子供3人は、青い顔をして無言でコクコクと頷くばかりだった。
「あのう、お姉さん達、ソピアの親友って言っていたけど、本当なの?」
「そうよ、大親友よ。」
「俺達、ソピアが王都で悪い奴等に利用されて、こき使われて、ボロボロにされて逃げ出して来たと思った居たんだ……だから。」
「だから、ソピアを匿っていたんでしょう? 分かっているわ。」
「あんなに弱ったソピアを見たのは初めてだったから、ソピアは何時でも元気一杯だったんだ。だから、よっぽど酷い事をされていたんじゃないかって思って、お姉さん達がその悪い奴等の手下で、ソピアを連れ戻しに来たと思ったんだ。」
うん、まあ、そんなとこだろうなとは思っていました。
「あたいらが悪者に見えちゃうのかー? がっかりだぞー。」
「「「ご免なさーい!」」」
この3人とは無事に和解出来たので、ソピアの所へ案内して貰おうかな。
「お姉ちゃん達、ソピアを無理矢理連れて行ったりしない?」
「そんな事はしないわ。話をして、ここに残りたいと言うのなら、その気持を尊重します。」
私達は、ソピアの所に案内してもらう事に成った。
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