第166話 ケイティーvsソピア
「ねえちょっと、こんなに森の奥にまで子供達だけで入ったら危ないんじゃないの?」
「大丈夫だよ、僕達はよくこの辺りまでは来て遊んでいるから。でも、大人達には内緒だよ。」
「この先に小屋が有るんだ。」
いや、子供だけで遊び場にするには、森の中は危険だと思うのだけど、本当に大人達は知らないのだろうか?
子供達に付いて行くと、やがて森の中に石垣が見えて来た。
「あそこだよ。」
子供が指差す先にあるものは、小屋と言うよりも、小山?
近寄って見ると、石積みの避難小屋なのかな。それに土が被さって、小山みたいに成っているんだ。
森の中で魔物に襲われた時に、逃げ込むのだろうか。
入り口は私達の居る場所と反対の、向こう側に有るみたいで、その小山の周囲をぐるりと向こう側へ回ってみた。
ぐるりと回って行くと、そこにソピアが居た。
私の顔を見るなり、案内してくれた男の子と喧嘩を始めてしまった。
「裏切り者! 何でケイティーを連れてくるのよ!」
「だって、このお姉ちゃんは、悪い人じゃないよ。ドリュアスにやられそうになったのを助けてくれたんだから。」
ドリュアスはそんな事しない。
やられそうになったって、何だ? 酷い誤解です。風評被害です。
でも、一般人にとって、ドリュアデスはそれ程怖い存在だという事なのかな? 特に子供にとっては。
「酷い誤解だとアンペロスから苦情言われたよ! 私はサポセンじゃありません!」
ソピアが何を言っているのかは分からないけれど、きっと、さっきのドリュアスから苦情のテレパシーでも受信したのだろう。
「ソピア、何で大親友のこの私からも逃げたのかなー?」
「うっ、だって、仕様が無いじゃない! 誰かに言って出たら、家出に成らないじゃない!」
「あっきれた! そんな子供みたいな理由で?」
「だって、私、子供だもん!」
あれっ? 何だろう、ソピアってこんなに子供っぽかったかな? そりゃあ、肉体年齢は12歳かも知れないけれど、19歳とか32歳とかの魂が合体してるんじゃなかったっけ? 何か、素の12歳の子供に戻っちゃってるみたいに見える。
「ケイティーのバカー! こっち来ないで!」
ソピアの祖力障壁で弾き飛ばされた。
相変わらず超が付く馬鹿力。50ヤルト近く吹っ飛ばされた。
ソピアは、弾かれた様に垂直に飛び上がり、上空で水平に音速飛行で飛び去った。遅れてソニックブームが地上を襲う。
「ふええ、何あれ、すっごい。」
子供達が驚いている。ソピアの飛行術は初出だったのかな。
さて、私達も追わなければならないけど……
「もうすぐ日が傾くから、あなた達はお家へ帰りなさい。良いわね?」
そう言い置くと、私は倉庫から飛行椅子を取り出してそれに乗り、直ぐにソピアを追いかける。
「この飛行椅子の速度じゃ、あの子に追いつけない。」
「あたいが引っ張っるよー。」
ヴェラヴェラが腕を伸ばし、椅子の肘掛けを掴むと、音速で追跡する。
しかし、ヴェラヴェラの飛行術は、やっと音速を超えた程度。お荷物を引っ張っていてはそれ以上の速度は出せない。歯痒い。
「僕が力を貸すよ。」
私に語りかけて来た声があった。
この声は、イフリートのイブリスか。
首に掛けていた、ソピアの魔導鍵を取り出して見てみると、僅かに光っている。
「イブリス! あなたなのね。何故私に力を貸してくれるの? あなたはソピアの味方なんじゃないの?」
「僕は何時でもお母様の味方ですよ。でも、今回の一件はお母様が悪いです。それと……僕を置いていった事を後悔させます!」
「うっわ、流石ソピアの子だわ!」
「僕のジンを貸します。飛行椅子に力を与えよ!」
イブリスがそう唱えると、光の玉が魔導鍵から飛び出し、肘掛け部分から中へ入って行った。
すると、飛行椅子全体が光を発し始め、いきなりスピードがアップしだした。
「きゃうっ!」
あまりの加速に私は息を呑んだ。
今までの最高速度が毎刻500リグル(時速400キロ)程度だったのが、いきなり音速を越え出した。しかも、未だ余裕がありそう。ヴェラヴェラが追い付くのに必死になっている。
「ジンが魔力を供給するから、もう魔導キャパシターをチャージする必要は無いよ。」
なにそれ便利!
ジンの魔力供給に寄ってスピードアップした飛行椅子は見る見る先を行くソピアに追い付いて行く。
そして、遂に横に並んだ。
私は、新しく貰ったレプリカ剣改の延長剣の峰打ちで、ソピアの背中とかお尻をペシペシ叩いた。
そう、私も魔力は徐々に増えて来ているんだ。魔力での延長は、最初1パルム(約16センチ)程度だったのが、今はその倍の、1アルム(約33センチ)位まで伸ばせる様に成っている。
体の鍛錬と同じで、魔力も使い続けていれば、徐々に強化されるのだ。私は魔力の身体操作を剣術に組み込んで、日々鍛錬を続けていたおかげで、今では初期の頃と比べて倍程にも魔力量を増やす事が出来た。
魔力量から言えば、本職の魔導師の平均の百分の一から二程度ではあるのだが、それでも私が編み出した、瞬間的にオンオフを繰り返してピンポイントに効率的に使う方法ならば、魔力量に飽かせてダダ流れにしている本職さんにも、かなり肉薄出来ているのではないかと自負している。
とはいえ、飛行術みたいに、魔力を燃料にしているみたいな魔導は、ちょっと無理なんだけどね。延長剣みたいに、当たる瞬間だけ出現させられれば用を成すものなら、限りなく省力化出来るのだ。
王宮近衛兵レプリカ剣は、ショートソード丈なので、長さは約2アルム(およそ66センチ)、そこに延長術(仮称)で更に1アルム追加されれば、長さは1ヤルト(約1メートル)程度と成るのだ。
隣で飛んでいるソピアに近寄って、ペシペシ叩くには、丁度よい長さだ。
ペシペシ
「いたたたた。」
ペシペシ
「痛い痛い痛いよー!」
ペシペシ
「痛いから、止めて! 叩かないでー!」
止めない。言っても分からない悪い子には鞭だ!
ソピアがどんなにジグザグ飛行しようが、隣にピッタリ張り付いて、ペシペシを繰り返す。
「下に降りなさい! さもないと、何時までも痛いわよ!」
「やだー!」
「飛行中は防御が弱い事位お見通しなんですからね!」
ソピアは、分が悪いと思ったのか、開けた場所を見つけてそこへ降りて行った。私もその後を追った。
地面に降りたソピアの近くへ私の飛行椅子も降ろし、椅子から立上ろうとしたその時、ソピアの魔力によって、近くの大木の幹に押し付けられ、貼り付けられてしまった。
「うっ……ぐっ!」
「なんで! 放って置いてくれないの!?」
そう言うソピアの顔を見ると、怒った様な表情なのに、目からは涙が流れていた。
ソピアが何となく幼い感じがしていたのだが、その姿は本当に幼い少女の様に見える。
「なんで、ですって? 本当に分からないの?」
「分からないよ! 私は、私を普通の女の子として扱ってくれる所で暮らしたいの!」
「大親友の私を捨ててでも? 本当にそうしたいの?」
「……それは……」
ソピアの顔に少し動揺した様子が浮かんだ。
自分でも本当は分かっているのだ。
現状から逃げて、自分の事を誰も知らない別の土地へ行っても、きっと同じ状況になる。そしたらまた逃げるのか? 姿を変え、魔法を使わない様にして静かに暮らしていれば大丈夫なのか?
いや、ヴェラヴェラが言っていた様に妖精も精霊も、竜達も神格の光は見えるのだ。魔族も見えるし、トロルも見えると言う、人間の中にもウルスラさんの様に見えてしまう人が居る。見えなくても察知する人が居る。何処へ行こうときっと直ぐに看破されてしまうに違いない。この地上で私は人として幸せに暮らせる場所は……何処にも無い。
「そうよ、何処へ逃げ様と同じ。なら、私達の所へ戻って来なさい!」
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
どうすれば良いのか分からない苛立ちの叫び。頭の中で、思いがぐるぐるループしてしまって、考えが纏まらない。
「ソピア! 私の手を掴みなさい!」
魔力で押し付けられている力に逆らって、手をソピアの方へ伸ばす。
だが、手を掴まない。苦しそうな表情を浮かべる。理性では掴むべきだと思っていても、感情がそれをさせないのだ。
ソピアは自分の肩を抱いて、その場に両膝を着いた。
魔力が一瞬弱まり、その隙きに脱出を試みるのだが、ソピアは逃すまいと魔力を強める。最早自分がどうしたいのか、分からなくなってしまっているのだろうか。
あと一息だというのに、ソピアの拘束から脱出出来ない。
「くっ、イブリス! この魔力を振りほどいて!」
「だめだ、お母様の魔力に対して、僕では無力なんだ。魂に制限が掛かっている。」
「じゃあ、私に魔力を貸して!」
「それも駄目だ。ジンは生き物に憑依させる事は出来ない。ジンは僕の命令しか聞かないのだから。出来るとしたら、僕が直接ケイティーの体に乗り移り、ケイティーの力で僕を制御するしか……」
「じゃあ、今すぐそれをやって!」
「駄目だよ、炎の精霊を生身の人間が宿したら、その体と魂魄は焼き尽くされてしまう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます