第116話 いいえ、これは美容術です
「あらあ、もうバレちゃったのかしらぁ?」
ヴィヴィは、屋敷の食堂で紅茶とお菓子で寛いでいた。片手で自分の魔導鍵をくるくる回しながらそう呟いた。
案の定である。
側で一緒にお茶をしていた、ケイティーとヴェラヴェラとロルフが、ヴィヴィの方を見た。
「やはり、追跡出来る魔導でも仕込んでおったのか?」
「当たり前ですわ。あの子は我が国の国宝なんですから。しかも、立て続けに行方不明事件とか拉致事件とか引き起こされては、何も対策を立てていない方がおかしいですわ。」
ケイティーとヴェラヴェラがちょっと引き気味に見ている。
「あ、あなた達の鍵にはそんなのは仕込んでいないから大丈夫よー。おほほ。あの子は魔力量が多すぎて、多少魔力消費の大きい魔導式を仕込んで置いても全然気が付かないから、追加魔導を記述出来る
「それで、位置を知らせる魔導式を遠隔で書き込んであったと言うわけじゃな。」
「ロルフ様なら正確な位置を知らせる魔導を組めたのでしょうけど、
三角測量である。
距離の分かっている1辺と、その両端の角度が分かれば、幾何学的に残りの1点の位置を特定できる。測量術の基本なのだ。
伊能忠敬が日本地図を作成出来たのも、この三角測量である。現代地球では、GPSを使った測量法も有るのだが、精度的にはまだまだ三角測量で作った地図には敵わない。
「でも、まあいいわ。あの子なら西へ向かった様に見せかけて、他の方向へ行っていますわね。恐らく、大回りして東へ。ウルスラの国へ立ち寄っているかも知れません。」
「はくしょん!」
『--大丈夫か?--』
「うう……なんか、悪寒がした。」
ベタな反応だけど、意外と当たっているから恐ろしい。人間は、微弱ながらテレパシー的な何かで意外と他人の悪意とか好意の様な強い思念を察知しているのかもしれない。
「あっ、ウルスラさんの国の王都が見えて来たよ。」
私達は、一旦都市の外殻門前に降りて、入国手続をした。
「き、貴様は誰だ!」
門を守る衛兵さん達がワラワラと集まって来た。
あれ? 私達何かやったっけ?
「お前だお前! 我が国の宮廷魔術師長官の名を騙るとは、身の程知らずめ!」
あ!
「あらいけない、変身したままでしたわ。」
ウルスラさんが変身術を解くと何時もの見慣れたおばさんに戻った。
門衛の皆さんが、剣を構えたまま固まってるよ。ビックリしすぎて尻餅を突いている人も居るよ。
私はハンター証を見せた。前回来た時に顔を覚えて居てくれた人が居て、助かった。こらこら、膝を着くな!
プロークは、身分証が無い、田舎の娘という事で、ウルスラさんが保証人に成って仮の身分証を作成してもらった。
「いやー、しかし驚きました。あちらの国では姿形を変える事の出来る魔導があったなんて。」
まだ出来たばかりのほやほやの魔導だけどね。
ヴィヴィさんかお師匠が、ちゃんとした魔導として、感覚的にやってた部分もきちんとした言葉で論理化して、一つの魔導として記録する事になると思う。
門を抜けたら、ウルスラさんは再び変身術で姿を、奥さまは魔女に変えた。
もうずっとこの姿で行くつもりなんだろうか?
私は12歳なので、美容に関しては未だピンと来ていない。
ところで、変身術で若い姿に変わった場合、寿命も伸びるのだろうか?
見た目だけ若くなっただけで、実は老化現象は進行しているのだろうか?
テロメアとか言うのが短くなるんだっけ?
遺伝子の端っこに、テロメアというタンパク質がキャップの様に付いていて、細胞分裂を繰り返す毎に短くなって行く……だっけ。
そのせいで、動物の細胞分裂回数には上限が有るとかなんとか。上限に達したら、寿命なんでしょう?
だとしたら、よく美容で代謝を促進して若々しくとか、成長ホルモンを出してアンチエイジングとか言っているけど、代謝で細胞分裂を促進したら、寿命が縮んでしまうのでは? と思うんだけど、どうなんだろう?
なんか、寿命を前借りして力を手に入れたバ○ル2世のヨミみたいな結末になるんじゃなかろうか。
「そこの処、どうなん?」
『--我はそういう小難しい事はわからぬが、竜族は脱皮を繰り返す毎に肉体年齢は巻き戻されて、長生きしておるぞ。--』
「竜族、便利だなー。」
話を聞くと、竜族の脱皮というのは、体を大きくする為の古い殻や鱗を脱ぎ捨てるのとはわけが違う様だ。
どちらかというと、蝶なんかの蛹みたいな完全変態に近いのかも知れない。
脱皮が近付くと、体は体表が白く硬化して蛹の様な状態になる。その蛹の中では、体の細胞は、ドロドロのスープ状に溶け、脳細胞を中心に再構築されるのだという。
一旦液状化して再構築されるので、欠損部分も元通りになるというわけか。つまり、蛹の中で変身術を行っているみたいなものだ。
だったら、今なら変身術で欠損を補ってしまっても構わない様に思えるけど、そういう訳にもいかないのかな?
竜族の脱皮という現象の中で行われている事と変身術では、似ているけど何かが違っているのかも知れない。
ダラダラと歩いて王宮へ向かっていると、きれいに整えられたメインストリートと、その両脇に並ぶ高そうな店が目に付く。
あった! スイーツ屋。
「ウルスラさん、スイーツ屋寄っていこうよ!」
「はい、宜しゅう御座いますね。ここの店は、貴族の間でも人気の店なんですよ。」
『--我もスイーツとやらは気になってたぞ。--』
迷わず直行。女同士なので、反対する人は誰も居ない。変身術が有るので、体型の崩れなんかも誰も心配しない。
「旬の果物をふんだんにあしらったタルトで御座います。」
「「『おおおおおおおお』」」
流石に貴族御用達の食べ物は美味しい。
ウルスラさんも今まで気にはなっていたけど、体型を気にして食べられなかった物を思う存分ぱくついていた。
プロークも、人間の食べ物には興味津々みたいだ。美味い美味いと、思念がダダ漏れです。
スイーツ屋で腹ごしらえをして王宮に向かうと、早馬で先回りして来訪の知らせを受けていた、王宮の女性魔術師と女性近衛兵やらメイドさん達が待ち構えていた。皆、ウルスラさんを見ようと集まって来たのだ。
恥ずかしいから、早く王宮内に入れて欲しい。
王宮内では、女性連中にもみくちゃにされていた。
他にも魔導倉庫とか、飛行術とか色々大事な魔法が有るでしょうに、女性陣の興味の的は、変身術のみですか。そうですか。
ちょっと、取り巻きの輪の中に、王妃様も混じってない? あなた、十分若いでしょうに。
王様の方を見ると、やれやれというジェスチャーをした。
「そなた達、今回はゆっくりして行けるのであろう?」
王妃様が、頬をピンク色に染めて、ウルスラさんを取り巻く輪の中から走って来てそう言った。
「私達は、修行の旅に出た所なので、ちょっと挨拶をしたら出立しようかと……」
「まあまあ、そう急くな。1月でも2月でもゆっくりして行くと良いぞ。」
それだけ言うと、また輪の中へ走って行ってしまった。
うーん、これは、変身術を教えて行けという意味ですね。
最悪、ウルスラさんだけ残してプロークと2人で行こうかなと考えていたところ、それはいけません! 私は何処までもお供するつもりですと、輪の中から転がり出るようにして走り寄って来た。
後ろで私を非難する様な目で見ている女性達が怖い。
じゃあ、1泊だけさせてもらって、変身術は、数時間で皆覚えられたのだから、宮廷魔術師の実力の有りそうな人を中心にさっさと教えてあげて、後はその人に先生になって皆に指導してもらう事にしよう。そして、私達は翌朝出発しようという事になった。
「「「「「「「「「「きゃーーーーーーー!!!!!」」」」」」」」」」
大歓声だよ。どんだけだよ。王都の女子並にウザいぞ。いや、それ以上だ。
あっちの王宮でもヴィヴィさん、同じ目に合ってるんじゃないのかな? ご愁傷様。
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