第115話 修行の旅へ出発

 「こんな具合でしょうか?」



 クーマイルマは、角を引っ込めて人間の女の子っぽい姿に変身した。

 目がヤギの目っぽい、横に細長い瞳孔なのをケイティーに指摘されて、人間と同じ丸い瞳孔に修正した。これで、何処からどう見ても人間の女の子になった。


 ちくしょー! これで正真正銘、出来ないのは私だけに成っちゃったじゃないか!



 「あたいが思うに、ソピアさんが出来ないのは、心に何かブレーキみたいなものが掛かっている気がします。」


 「多分ね、私もそう思っていたのよ。飛行術の時に、ウルスラさんが出来なかったのと同じ理由なんじゃないかなと思うの。」



 ウルスラさんが飛行術をなかなか出来なかった理由というのは、魔導を防御主体に扱う自国の教育で、障壁展開した時の障壁に加えられた衝撃から受ける反動や反作用を、徹底的に受けない様に訓練されてきたため、それが身に染み込んでいて、飛行術に必要な反作用を体に受けるように切り替える事が、本能的に恐怖を生み、無意識に拒否していたからなんだ。


 それと同じ理由だとすると、この場合はどう考えれば良いのだろう?

 変身術の場合は、魔導による身体強化の反対だ。

 体を強化して頑丈にするのではなく、逆に柔らかくするという事を、私は無意識に拒否している? 魔力による防御に絶対の自信を持っているが故に、一時的とは言え、弱くなる様にする事を怖がっているというのだろうか。



 「うむ、精神に嵌められている枷は、そう簡単に外せるものではないからのう。時間はかかるかも知れぬな」



 何時の間にか後ろに来ていたお師匠が、そう言った。

 精神的な制約が原因とすると、体の修行鍛錬みたいに一筋縄ではいかないよね。いくら勉強をしても入って来ないんだ。まず、自己暗示でも掛けて、そのつっかえ棒を取り外してやらないといけないのだと思う。



 「そうだ! ウルスラさん、一緒に修行に出よう!」


 「えっ? はっ、はい! お供致します!」



 ウルスラさんとは歳が離れているという理由もあって、今まであまり1対1で付き合って来なかったから、調度良いや。

 エリ○ベス・モン○メリーみたいな大人の女性と一緒に旅に出たら、親子に見えるかな?



 「と、言う訳で、私達二人で10日位、修行の旅に出ようと思います!」


 「「「「「ええーーーー!!……」」」」」


 「修行なんだから、付いて来ないでよね。」


 「「「「「ぶーーぶーーーー!!」」」」」



 ブーイングが凄いぞ。どんだけ過保護なんだよ。



 「わしは孫の保護者として、付いて行く義務があるぞ。」


 「女二人旅なんだから、付いて来ないでよ、助兵衛じじい。」


 「う、うむうー……」



 お師匠撃沈。



 「わ、わたくしなら構わないわよね。大人の保護者が付いていないとー……」


 「私が付いて居ますので、大丈夫で御座いますよ、ヴィヴィ様。それに、マンドレイクちゃんの面倒を見る人が居ないと。」


 「ぐぬぬ……」



 ヴィヴィさん撃沈。



 「私は大親友なんだから……」


 「魔導師の修行なので。」


 「あたいは一緒に始めたから……」


 「クーマイルマはさっさと習得しちゃったし、今は学校の勉強が最優先だよ。」


 「神様ー、あたいは?」


 「ヴェラヴェラは、ケイティーと一緒にクエストやってて。」



 各個撃破。



 『--気を付けて行くのだぞ--』


 「あ、プロークは一緒に来て。」


 「「「「「えええー、ずるいよ(ぞ)!」」」」」



 プロークに言語発声を覚えさせないとならないので、修行者側です。

 それに、一応身体魔力操作の達人っていうか、達竜なので、付いて来て貰うメリットがある。変身は今覚えたばかりだけど、元々の素養的な部分で、一番習得は速かったし、多分、教えてもらうには上手いと思うんだよね。変身能力的には本当は、ヴェラヴェラが一番上手なのだろうけど、あの人は人に教えるのに向いていない。プロークはケイティーに一晩で魔力操作を教えたらしいので、そこに期待だ。


 少数精鋭で行くよ!

 修行の必要なこの3人で10日間の合宿修行の旅を決行します。








◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇








 次の朝。



 「さて、この旅は修行の旅であります。私は、変身術。ウルスラさんは、飛行術。プロークは、音声発声です。」


 「ソピアさん、お気をつけて。」


 「クーマイルマは、飛び級試験頑張ってね。一緒に高等学院に通える事を願う。」


 「はい!」



 クーマイルマには、『一緒に~』っていうフレーズがよく効く。なんか、友達を操っているみたいで気分は良くないけど、一緒の学校へ通えるのが楽しみなのは本当なので、ここは心を鬼にするのだ。自分の修行の為にね。



 「ところで、どこへ修行に行く気なのじゃ?」


 「未だ決めていません。飛び立ってから適当に決めようと思います。」


 「チッ」



 ヴィヴィさんが舌打ちしたぞ? こっそり付いて来ようとしてたな? そうは問屋が卸さないぞ。

 飛んでからランダムに行き先を変更して、追跡出来ない様にしないと。


 私は、屋敷の玄関前の前庭で、ウルスラさんとプロークを持ち上げ、そっと空中に浮かび上がる。

 屋敷の上空の十分な高さまで上昇し、そこから飛行体勢に入った。



 「さて、どちらに行こうかな?」



 神様の言う通り、あっぺっぺ~のぺ~。

 東西南北を順番に指差しながら、適当に決めて行く。



 「よし、こっちだ!」



 西だ。取り敢えず、そっちへ飛んで見る。

 50リグル(80キロメートル)程飛んで、王都がすっかり見えなくなった頃を見計らって一旦地上に降りる。



 「どうされたのですか?」


 「ヴィヴィさんの追跡防止をしようと思う。」



 私は、首から下げていた魔導鍵を取り出し、魔力を込めた拳で空間壁を殴って穴を開け、鍵をその中へ放り込んだ。



 「私の鍵もでしょうか?」


 「そっちは大丈夫かも。私のだけ特別製って言っていたので、確証は無いんだけど、念の為にね。」



 多分、ピンポイントで場所を特定する事は出来ないのだろうけど、方向とか、会話の盗聴位は出来るのかもしれない。

 渓谷行方不明の時とか、カーツェ山で拉致された時とか、ピンポイントで場所が分かるなら、あれ程大騒ぎはしていなかった筈だから。後からこっそり追加された可能性も無くは無いけどね、用心に越した事は無い。


 ウルスラさんの鍵は、外国の要人に盗聴器付きの道具なんて持たせたら、バレた時に国際問題に成りかねないので、それは無いと思いたい。



 「さて、ここから本当に、どちらに行こうかな? まず、南に行ってから、ウルスラさんの国の方向へ飛んでみましょうか。」


 「まあ嬉しい。一時帰国ですわ。」


 『--そんなに用心しなければならないのか?--』


 「悪い事される訳ではないのだけど、なんとなくね。修行は誰にも干渉されたくないの。必要ならこっちから話すし。」



 私達は、南に向かって飛び、100リグル(160キロ)も飛んだ所で東へ進路を変えて、ウルスラさんの母国へ向かった。



 「どう? 飛行術の感覚はなんとなく分かる?」


 「はい、この速度での移動は、是非習得したいものです。ですが……、体に反作用を戻すという感覚がどうにも……」


 『--翼で飛ぶのとはまた違って、揺れも少ないし、この矢の様な速度はとても良いな。--』



 魔力での飛行術は、私の考案したもので、空中に浮かぶ『浮上式フロート』、速度を生み出す『推進式ジェット』と、体を風圧や温度から守る、ティアドロップ型の『防殻シェル』を同時展開したものだ。

 以前は、この複数の魔導を同時展開出来なくて、お師匠と一緒に飛んで、シェルと空調はお師匠に任せていたのだけど、練習の末に1人で出来る様になった。

 お師匠とヴィヴィさんは、複数の現象を同時にこなすのは、元々得意だったみたいで、一時的には考案者の私を差し置いて先へ行っていたけど、出来るように成った今では、魔力量の多い私が、搭乗員数も速度も勝っている。

 とはいえ、あの人達も曲がりなりにも大賢者と賢者の称号持ちなので、その変態的器用さで直ぐに私を圧倒してくるんだよね。

 力の1号に技の2号、両方を兼ね備えた∨3って感じ。


 クーマイルマとウルスラさんには未だ、浮上式までしか教えてないので、まずそこが完璧に出来てから推進式を覚えて貰う。

 クーマイルマは、浮上式のままでも毎刻62リグル(凡そ時速50キロ)は出せているみたいで、学校までは直線で移動出来る上に、走った場合の倍程度の速度は出せているので、行き帰りの時間が半分に短縮されて喜んでいる。



 さて、ウルスラさんの故郷が見えて来たよ。




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