第90話 魔族とトロルのハンター試験
4人が目を丸くしてこっちを見ている。
4人? て、あれ? ケイティーもか? ケイティーには言ってなかったっけ?
「聞いてないわよー! ソピアが転生者だなんて!」
あれれー? おっかしーなー。言ってあった気がするんだけど、勘違いだったかなー?
アクセルが引き起こした事件の時も言ってなかったっけ? アクセルは古代からの転生者だって言ってたけど、私の事は言わなかったっけ? うーん、思い出せない。
じゃあ、改めて皆に自己紹介しておくか。今更だけど。
「私はね、異世界からの転生者なの。向こうの世界では、19歳の一応科学者の端くれでした。電力も、電力を生み出すリアクターも、心臓を動かした電気ショックも、全部あっちの世界の知識です。」
「えー、19歳なんだー。私より全然年上じゃない。だからか、時々ソピアが大人びた感じに見えてたのは。」
「異世界の文明とは、神の雷を操ったり、死者を生き返らせたり出来る程の、神の領域にまで到達した超文明なんですね!」
あー、もうー、これって、ドツボに嵌ったかな?
もう面倒臭いツッコミが来るのが目に見えてるから、本名とか男だったとか言う部分は伏せておこう。
「取り敢えずね、今言った通りに、私は女神じゃないんです。あなた達よりも若干色々な知識があるだけの、普通の女の子なんです。この家に住む以上、普通の人間のソピアとして応対して下さい。よろしくお願いします!」
「……」
「……」
「……」
「はいっ! じゃあそういう事で、皆良い? では、もう一つの問題の、ヴェラヴェラさんについてね。」
3人が若干腑に落ちないという様な顔をしているけど、ヴィヴィさんが強制終了させてしまったので、これでいいでしょう。
さて、後回しになっていたけど、トロルのヴェラヴェラについてだ。
「と、いう事なんだけど、ヴェラヴェラは納得してくれたかな?」
「お、おう、理解したぞー。お前は異世界の神だから、こっちでは勝手に信仰するなって事なんだろー?」
「全然理解してないじゃないか。まあ、それでもいいよ、もう。所で、この後ヴェラヴェラはどうしたい?」
「どうしたいって言われてもなー……、あたいもクーマイルマみたいに街に住みたいかなー。」
「オッケー、その方向で考えようか。」
好奇心が満足したら森へ帰ると言うのかと思っていたけど、こっちに住みたいというのなら何とか成るように考えないとね。
とはいえ、クーマイルマの場合と違って、少し面倒なんだ。というのも、魔族は准人間なのだが、トロルは魔物と定義されているんだ。多分、あの頭の固い学園長に直談判しても、入学は許して貰えそうに無いんだよなー。
トロルだと隠して人間に化けさせたまま入学させるか? でも、それだとバレた場合大問題になるの必至だよね。
「あ、ヴェラヴェラ、この家の中では変身していなくてもいいよ。外に出る時だけというか、この屋敷以外の人間に会うときだけ人間に変身していて貰えるかな?」
「わかったよー。変身解くよー。」
変身を解いたヴェラヴェラは、身長2ヤルト程もある、貞子みたいなウーだった。最初に見た、5ヤルト程もあった巨体は、変身した身長だったのかな?
「本体はその身長なの?」
「いやー? 別に定まっていないぞー。背の高さも姿形も自由自在だよー。」
「あ、特に魔力を使って無理に姿を維持しているんじゃなければ、人間の姿で居てもらった方が都合がいいかな。人間の家も街も、人間のサイズを基準に作られているからさ。」
「分かったよー。じゃあー、さっきの女の姿で居れば良いんだなー?」
「うん、じゃあさ、あなたは特に、飽きるまでここに居ればいいや。帰りたく成ったら私が森へ送って行くよ。」
「そうかー? 済まないなー。よろしくお願いするよー。」
その後皆でお風呂に入った。
風呂場では、ケイティーとヴィヴィさんの裸を見比べて、『人間も色々なんだなー』とかいって、体のサイズを色々変更してみていた。やはり、クーマイルマと同じに、生まれてこの方風呂なんて入った事が無いと言うので、三人がかりで丸洗いしてやった。クーマイルマが心底楽しそうだった。
風呂上がりに、食堂でよく眠れるハーブティーを出してもらい、皆で飲んだ。
「はぁ~、風呂って気持ちいいものなんだなー。あたい、生まれて初めてだよー。この体が温まる感じがいいよねー。」
その夜は、一日色々な事があったので、疲れてぐっすり眠れた。
翌朝、寝ぼけ眼で食堂へ降りると皆集まっていた。お師匠も居た。
「ヴィヴィから連絡を貰ってのう、お前は問題ばかり起こすな。」
「別に私が起こしているわけじゃないよ。問題が向こうからやって来るんだ。名探偵と同じだよ。」
「ううむ、まあそれはよい。しかし、魔族の次はトロルか……」
「あたい、びっくりしちゃったよー。お前、大賢者の孫なんだってなー。」
どうやら、トロルは人種、准人種とかいう以前に、生物種ではないらしい。
どちらかというと、ドリュアデスみたいに精霊とか妖精とかの部類になるみたいだ。なので、人間の学校へ入れる訳にはいかない。でもさ、こういう人達が学びたいって来た時に、無碍に追い返してしまうのもどうかと思うんだよね。特別枠を作って、どうにか出来ないものなのかな。ドリュアデスの方で学校作ってくれれば問題無いのにな。
最も、ヴェラヴェラは女神に会いたかっただけで、別に学校へ行きたい訳じゃないのだからいいのか。
「まあ、ヴェラヴェラの場合は、観光客みたいなものだから、飽きたら帰るんでしょ?」
「そうだね、女神はここに居たしねー。一緒に冒険もしてみたいなー。」
「ハンター登録は出来ないけど、一緒に行動して手伝ってくれれば、私が報酬を分けてあげるよ。」
「わーい! やったねー! 嬉しいよー。」
「ヴェラヴェラを見ていると、本当に伝承は間違っていたと思い知るわね。」
皆で笑い合っていると、視界の隅でもじもじしている姿が写った。あ、クーマイルマだ。
「……あのう、めが、ソピア様。あたいも一緒に冒険したいです。」
「うん、いいよ。一緒に行こう。って、あれ? 今日は学校は?」
「はい、今日はお休みの日です。」
そうだった。今日は国民の休養日だった。
じゃあ、4人で冒険に行ってみよー!。
「まずは、二人に武器を調達しないとね。」
「あたいは、弓を。」
「あたいは、棍棒かな。」
「二人共、魔法は使えないの? 魔族は魔法が得意って聞いたし、トロルは妖精なんでしょう?」
「使えるけど、弓の補助的なものが多いです。あと、回復や解毒を少しだけ。」
「あたいはねー、棍棒と、変身と、後なんだっけー? 治癒再生能力(自分だけ)と、物を腐らせられる。」
「腐らせる?」
「うん、森の死んだ動物とか狩れた木なんかを腐らせてた。やる気なら、生きてる生き物でも腐らせられるよ。」
「「「うわー……邪悪ー……」」」
「えー、酷ーい。森の大事な仕事なのにー。」
うん、そうだね、森の生態系のサイクルでは、大事な部分だね。でも、そういうのって、腐朽菌とかカビとかの仕事じゃないの? トロルがやってたの? そこに驚いちゃったよ。あと、生き物を腐らせるのは、ちょっと止めておこうね。怖いから。
まあ、そんなこんなで私達は、まず最初にハンターズへ行ってクーマイルマの冒険者登録をする事にした。
ヴィヴィさんとウルスラさんは、マンドレイクちゃんのお世話に、お師匠は、再びエピスティーニへ向けて飛んで行った。
「ケイティーは自分の椅子で飛ぶ? じゃあ私は、二人を持ち上げていくね。」
お屋敷からハンターズまでは、ケイティーの飛行椅子でもひとっ飛びでほんの数秒だ。
建物に入って受付カウンターへ行くと、何時ものお姉さんが応対してくれた。
魔族の女の子だというので、ちょっと怪訝な顔をされたが、サントラム学園の学生証を見せたら納得してくれた。
「そちらの方も登録しますか?」
「あたい? あたいは、うーんと……」
助けを求める様に私の方をチラチラ見てくる。
「あ、この子は遠い外国から来た観光客なんで、身分証が無いんです。」
「大丈夫ですよ、身元保証と今住んでいる所が明確ならば、仮登録できますよ。」
「そうなん? じゃあ、身元保証人は私で、現在住んでいるのは、大賢者ロルフの屋敷です。」
「まあ、大賢者様の。確かあなたは、大賢者様のお孫さんでしたね。でしたら、身元保証も現住所も申し分ないわ。ランクを決めるので、番号札を持って奥の通路から一旦外へ出て、左の屋外闘技場へ行って下さい。」
「ありがと、私達も見学していいですか?」
「大丈夫よ。行ってらっしゃい。」
そういえば、屋内の訓練場は私が壊しちゃったので、新たに屋外に闘技場兼魔法の試射場を建設したんだった。
なんか、新しい施設って、何故かワクワクするよね。
ハンターズ建物の裏口から外へ出て左に行くと、結構大きな屋根付きの施設が見えた。これがヴィヴィさんが新しく作らせたやつかー。
入り口を探してウロウロしていたら、職員に手招きされた。そちらへ行ってみると、私の顔を見るなり嫌な顔をされた。ああ、この人前回の試験官の人だ。
「また、お前かー。」
「いや、私とケイティーは今回は見学だよ。こっちの二人が新たにハンター登録したので、その試験なんだ。」
見学だよと言った所で、ホッとした顔をされた。
中へ入ると、凄い広い空間でびっくりした。東京ドーム位広いんじゃないの、これ? 屋根はどうやって支えているんだろうと上を見たら、屋根は無かった。外周に日よけの庇がぐるりと取り囲んでいるだけだった。東京ドームというよりは、国立競技場って感じかな。石造りだけどね。こんな巨大な建造物をこんな短期間に作ってしまうなんて、魔力土木工事すげー。
闘技場の真ん中には、いつもの記録係りのお姉さんが居た。
「あらー、ソピアちゃん、いらっしゃい。またランク上げるの?」
「いや、今回はこの二人。私達は見学。」
「そうなのね、ふむふむ、あらぁ、魔族の子に外国の子なのね。変わった取り合わせねー。」
おねえさん、魔族には反応しないぞ。流石プロだ。
それぞれ、自分の得意な得物を取って、試験開始。
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