第87話 トロル討伐

 「せっかくマヴァーラまで来たんだし、こっちのハンターズでクエスト見ていく?」


 「そうしよっか。」



 私達は、時間を持て余したのでマヴァーラのハンターズ支所へ来てみた。

 建物の構造は、王都のと殆ど一緒で、少し建物が小さい位。ロビーの横にはちゃんとラウンジもあって、ケーキや紅茶も楽しめる。


 「私ねー、昔は冒険者のギルドって、酒臭い荒くれ者がたむろする、女子供の近づけない雰囲気の所だと思ってたんだ。」


 「学園で習った歴史だと、昔はそうだったみたいよ。なんでも、昔は何とかっていう名前の酒場がルーツで、腕に自慢の有る狩人達が、獲物を持ち寄って自慢し合ったり、道具自慢したり、賭けの勝負をしたり、仲間を探したり仕事を分け合ったりしてたのが始まりで、次第に酒場が取り仕切るようになって……っていうのから発展していったんだって。」



 なるほどねー、だから冒険者のギルドはどこも酒場が併設されているんだね。

 ケイティーの話によると、先の大戦(邪竜のやつ)以降、人間側の戦闘力の底上げとか教育育成をお師匠が中心と成って勧めていった結果、荒くれ者の酒場は、国境を超えた連携を持つ巨大組織に発展して行ったそうだ。今では女性ハンターも数多く進出してきたので、ハンターズギルドの中もそれに合わせて清潔に明るい感じに成って来たんだって。


 仕事依頼用のボードを見ると、王都よりも外の世界に近いだけあって、討伐とか狩りの依頼が多い気がする。



 「へー、トロル狩りだって。ハンターランク3以上、2人以上推奨。」


 「この辺出るんだ? 私達なら楽勝かも。」


 「ねーねー、トロルとオグルは、どっちが強いの?」


 「んーとね、オグルはデカくて知能が低くて凶暴。トロルは、デカくて知能が高くなくて邪悪。」


 「で、どっちが手強いの?」


 「んーー、説明読んでも良くわからないな。」



 ボードからクエストカードを外してカウンターに持って行く。



 「ねーねー、お姉さん、オグルとトロルはどっちが難しい?」


 「あなた達ねー、子供が遊びで狩れる様な相手じゃないのよ? ハンターランク3以上って書いてあるでしょう?」



 私達は、首の所から服の下に隠したハンター証ハンターズライセンスを取り出してみせた。



 「私達、ハンターランク4と5でぇ~す。」


 「あらまあ、驚いた。お嬢ちゃんがランク4で、こっちののおチビちゃんがランク5なのね。」



 成り立てだけどね。

 ケイティーがお嬢ちゃんで、私がおチビちゃんかよ!

 それにしても、『でぇ~す』は恥ずかしかったかな。後で黒歴史になるのか?



 「そうねー、オグルは知能が低くて凶暴、トロルは知能が高くなくて邪悪。」


 「それは知ってます。学校で習ったから。」


 「トロルはね、邪悪っていうくらいだから、少々ずる賢いのよ。それと、再生能力が高いのと、変身能力があるらしいわ。」



 あー、特殊能力を持っているのか。じゃあ、トロルの方が梃子摺りそうかもね。

 オグルはあっちの世界の日本では、鬼と訳されている。実際、鬼っぽい角もあるし、鬼で良いんだろうけど、じゃあトロルは何だろう? 巨人だという話もあるし、小人だと言う話もある。角の無いオグルみたいな感じなのかな? とも思うんだけど、これだという形状が定まらない。トトロもトロルって話だし、ムーミンもムーミントロールと言うそうなので、トロルなのだ。良いやつだという話も有るし、邪悪だという話も有る。本当に実態が掴めない。

 良い機会だから会いに行ってみようと思う。



 私達は、町を出て西側に広がる森の奥へ分け入ってみた。

 途中にあった村で、情報を収集してみる。

 第一村人発見。私達は、マヴァーラのハンターズから討伐依頼を受けて来たハンターだと名乗ると、胡散臭げにジロジロ見てきた。こんな小娘二人で大丈夫なのか? とか言われた。感じ悪いな。

 ハンターランク4と5のライセンスを見せると、信じられないという表情をしたけど、ようやく信じたみたいでぽつりぽつりと愚痴混じりに話し出してくれた。


 愚痴が多すぎて話が見えない、愚痴が七分で情報が三分、愚痴が七分で情報が三分だ!

 話が長かったので要約すると、トロルの目撃情報は、1体。人の身の丈の3倍位ありそうな巨体だという。

 村人の何人もが怪我をさせられており、自分も腕に怪我を負ったと、腕まくりをして傷を見せてくれた。



 「ふうーん、怪我をさせられた人は多数だけど、死人は出ていないのね?」


 「そうだな、縄張りに入ると攻撃してくるんだが、村まで逃げると何故かそれ以上は追って来ない。」


 「人間と争うつもりは無いとか?」


 「さあなあ、大勢の人間と戦うと負ける程度の強さなのかと思って、村人総出でやっつけに行った事もあるんだが、全然敵わなかったよ。これはその時の傷だ。弱いから村まで来ないのではなくて、あの場所から動きたくないのか、単に面倒臭いのか、とにかく迷惑な話だ。」


 「だったら、その場所へは近づかない様にして、お互い共存すれば良いんじゃないの?」


 「いや、後から来たのはあっちの方だしな。あの辺りはうちの村の良狩場なんだ。狩猟で暮らす俺達にとっては、死活問題なんだよ。だから、ハンターズへ依頼を出したんだ。」



 第一村人は、忌々しげに吐き捨てる様に言った。だから討伐依頼なのか。食い扶持を奪われた村人の恨みは凄そうだな。

 でも、話を聞いた限りだと、そんなに悪い奴って感じもしないんだよなー。なにか目的が合って居座っているのかな? もっと奥地の方へ移動願えれば、無駄な殺生をしなくても住むのにな。


 百聞は一見にしかず、村人に教えられた森の奥地へ入って見よう。

 魔力サーチを500に設定し、進んで行く。500にも広げると精度は劣るのだけど、そんなに図体のでかい奴なら見逃しは無いだろう。



 「おかしいな、そろそろ第一村人に教えられた場所の近くのはずなんだけどな。」


 「ソピア! 危ない!」



 ケイティーにタックルされた。私の立っていた場所に、漬物石位の大きさの石が命中した。

 え? トロルの攻撃? ……じゃないよね。村人の仕掛けた罠かこれ。

 あいつー、こう言うのが仕掛けてあるなら言っとけよな。後でいてこます。第一村人許すまじ!

 他にも有ると危ないので、ケイティーと手分けして罠を取り除いていく。


 あらかた取り除いた所で、再度魔力サーチを掛けてみると、あ、居る。



 「5つ刻半の方向、220にでかいやつが居る。」


 「じゃあ、音を立てない様にゆっくり近付くよ。」



 私達は、そろそろと身を隠しながら、反応の有る方へ歩いていった。

 ところが、後100位に近づいた所で、向こうもこっちに気がついたみたいだ。変身能力があるという事は、魔力持ちだという事を忘れていた。あっちも魔力サーチも出来るのかも知れない。

 すごい勢いでこちらに向かって走って来る。ヤバイな、話に聞いた印象と違って、好戦的な奴なのかも。魔物指定されているだけはあるのか?


 ドスドスと足音を響かせて木々の間から見せた姿は、何ていうのかな、そうだ、地球で言う所の雪男だ。

 ビッグフットとか、イエティーとか、サスカッチみたいな雪男系。

 それか、ウーみたいな感じ。



 「ウー、ウーよー!」



 返事は無い。

 全身長い毛むくじゃらで、胴に対して細長い手足が付いている。指も細長く、爪は尖っている。顔は長い毛に覆われて、良く見えないが、尖った鼻と長い耳が見える。手には棍棒というか、ちょっとした丸太を掴んでいる。

 第一村人の情報通り、身の丈は5ヤルト位はあるかな。以前に戦ったオグルと同じ位の身長があるね。


 トロルは、私達の姿を見て取ると、『ボエー』みたいな鳴き声を上げて、手に持った丸太を私達の方へ振り下ろしてきた。

 私達は、周囲の立木を利用してそれを避ける。



 「ケイティー、オグルの時と同じに前後で挟み撃ちにするよ!」


 「了解!」



 私達は左右に別れ、ケイティーはトロルの後ろ側へ、私は倉庫から鉄球を3つ取り出すと、音速で回転させる。



 ヒュイーーーン

  パーン!

   パーン!

    パーン!



 鉄球が音速を越え、ソニックブームが発生する。


 しかし、ここでトロルはオグルの時とは違う反応を見せた。

 振り上げた丸太を振り下ろそうとせず、後ろへ飛び下がったのだ。

 トロルの後ろへ回り込もうとしていたケイティーの頭上を越えて、その後ろへ着地した。

 驚いて振り返ったケイティーとトロルは、しばし見つめ合って動かない。

 私は、まずいと思い、鉄球の回転を止めて、ケイティーを魔力で引き寄せると共に、トロルを祖力で向こう側へ突き飛ばした。



 トロルは、藪の向こう側へ倒れ込み、姿が見えなくなってしまった。

 私とケイティーは顔を見合わせ、様子を伺っていると、藪の中から立ち上がったのは、もう一人のケイティーだった。



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