第69話 テレパシー通信
スマホを作るつもりが、テレパシーの特訓になってしまった。
そして、私は出力が他の人よりかなり強いらしい。
例えるなら、皆が鉱石ラジオで遊んでいる所に、一人だけ放送局並のパワーで乱入したみたいな?
昔、未だ携帯電話も普及していない頃の話なんだけど、長距離トラックの運転手は、CB無線という、アマチュア無線の機械を使っていたんだよね。それも、違法改造して出力を上げた物を積んでいた人も結構居た。
それがどの位凄い出力だったかというと、街道沿いにアパートを借りて住んでいたら、部屋のインターホンから勝手に無線の声が流れてくる位すごかった。インターホンですよ? 無線の受信機じゃ無いのにですよ?
真夜中に寝ていると、家中のラジオやらテレビやらインターホンが、電源を入れてないのに、一斉に喋り出したなんて話もありました。輸送トラックは、真夜中に通るからなんですよね。電界強度が強すぎて、電源の入っていない機器の中に勝手に誘導電流を発生させて、スピーカーを鳴らせてしまっていたというわけ。
それくらい電波の強度が強かったのです。噂では、信号待ちの時に無線機のスイッチを入れると、嘘か本当か、目の前の信号が変わったとかいう話もあったくらいです。
どうやら、私のテレパシーの出力が、皆の平均よりもかなり規格外の大出力らしいという事が分かりました。
「あっ、そうだ!」
「通報しました。」
「未だ何も言ってない。」
私が何かを思い付くと、どうせ碌な事にならないのを皆悟っている様だ。
「ここから王都のヴィヴィさんにテレパシーが届かないかなと思ったの。」
「ほう、届くなら面白いぞ。」
「でも、途中にアルマーがありますよ? 邪魔にならないかしら?」
「多次元軸空間を通しているから、大丈夫な気もするがのう……よし、まずはわしからやってみよう。」
『--ヴィヴィ、ヴィヴィや、聞こえるかー?--』
『----』
「どう?」
「駄目みたいじゃな。」
「じゃあ、私がやってみるね。」
『!--ヴィヴィさん、聞こえる?--!』
『----』
『!!--ヴィヴィさん、聞こえますか?--!!』
『--……--』
『!!!--ヴィヴィさん、返事しろ!!--!!!』
『--……--』
『!!!!--ヴィヴィさん!!!--!!!!』
『--ぎゃああああ!--』
「あ、悲鳴が聞こえた。」
「悲鳴?」
『!!!!--ヴィヴィさーん、もしもーし!--!!!!』
『--うあああ! 頭がガンガンする! 倉庫を開けたら物凄い音が!--』
『!!--あ、ヴィヴィさん? 聞こえるー?--!!』
『--あ、その声はソピアちゃんねー? なにやってるのー?--』
『!!--テレパシー通信の練習だよー。今、エピスティーニに居るのー。--!!』
「--何?
「あのね、倉庫開けたらそこから聞こえたって。今来るって。」
「ほう? 倉庫か……、ああ、そう言えば同じ空間を利用しておるな。」
チーン。
エレベーターのドアが開いたら、息を切らせたヴィヴィさんが居た。通信を切って5分も経っていないじゃない。音速以上で飛ばして来たな。
「はあ、はあ、
「いや、アクセルに古代データベースを探ってもらって、出来るのかどうか試してみていただけだから。」
「それでも! です。何かやる時は、
うーん、決して仲間外れにしていた訳じゃないんだけどな。
ヴィヴィさんは王宮の仕事で忙しそうだったし。
「おほん、いいですか?
「えっ? そうだったんですか?」
「はー、私も知らなかったわー。」
アクセルとケイティーが顔を見合わせた。
「それにです! この遠隔通信は、とんでもない代物なんですよ!?」
「うむ、情報を制するものは、世界を制する。……からのう。」
「そう、ここのデータベースしかり、それらはとんでもない軍事機密に匹敵する代物なのです。それが我が国に2つもある。こんなアドバンテージは神の思し召し以外の何物でも無いのです。」
そう、データだけあっても、その価値も利用方法も解らない者の元に有っても何の意味も無い、宝の持ち腐れなのだ。
データベースと、それの使い方、応用できる知恵が組み合わされなければ、全く意味を成さない。
誰しも、中学生位の時に現代の知識を持って江戸時代とかにタイムスリップしたら無双出来そうだとか妄想した事はあるだろう。
だけど、知っているだけでは、無価値の情報なのだ。その知識を使う方法、応用力。実現する知恵が揃う必要がある。更に言えば、協力してくれる人脈も必要だ。それが無ければ、ただの誇大妄想狂として何も成せずに一生を費やしてしまうだけだろう。
だが、ここには、古代ライブラリーのエピスティーニ、それを知り、応用できる知恵のソピア、実現に協力できるヴィヴィとロルフというこの世界の賢者達が揃っているのだ。
「世界! 取ったるどー!!」
「おー!」
「「ええええー……」」
ヴィヴィの勢いに、ちょっと引き気味のケイティーとアクセルであった。自分達だけちょっと場違い感が否めないと内心思うのであった。
「いやいや、あなた達も私達のチームよー。民間に降ろす技術を橋渡しするのに必要な人材なんですから。」
ところで、テレパシー通信の件だった。
ヴィヴィさんが来たという事は、何か良いアイデアが有るのかもしれない。
「これね、魔導倉庫と同じ空間を使っているのよね。あの空間に音声信号を通している、という事は、魔導鍵の技術を応用出来るのではないかしら?」
「じゃが、その声を発信したり聞いたりする能力は、個人個人の資質じゃぞ?」
「そう、だから、その声を通す回線だけを提供してあげれば良いんじゃないかしら。」
ああ、そういう事か、電話機は魔力を持つ人間自体。だから、電話回線を提供してやろうというわけだ。
今のままでは近くに居る、声の届く距離の範囲に居る人にしか話しかけられない。これでは、大声で呼ぶのと対して変わらない。内緒話をするには良いかもしれないけどね。
通信距離をもっと劇的に伸ばすには、的確に多次元軸空間(魔導倉庫のある空間)を通ってくる信号を捉えなければならない。だけど、その為には常にその空間を認識していなければならないのだ。エピスティーニと王都みたいに190リグル(300キロ強)も離れていたり、間に山脈があったりして、お互いに意識を同調させるのが難しい場所に居たりすると、相手が呼びかけている事に気が付けない。今回は、偶々ヴィヴィさんが倉庫を開けたから良かったものの、そうでなければ同時に呼びかけたり聞いたりといった同調は不可能だろう。
だから、魔導鍵の技術を応用して、魔導倉庫の空間に小さな穴を開けてアクセスし、通信が来ている事を監視出来るデバイスを作れば、超遠距離通信が可能になるのではないかと考えたのだ。
そのうち、文字や映像なんかも送れるように成れば、インターネットに進化するかもしれない。
「そのツールには、太陽石を組み込むのか? 常時作動している形だと、魔力の少ない者にはきついじゃろう。」
「そうね、魔力を持っている者限定のツールだけど、常に魔力を流し続けるのは魔力の少ない者には辛いだろうから、その方が良いでしょうね。」
「それのチャージはどうするの?」
「そうねー。それ程大量の魔力を使う物でも無いから、寝ている間に自分の魔力でチャージ出来るようにしようかしら?」
その案件は、ヴィヴィさんが王宮の開発室に持って行って丸投げ背負投げしてくるとの事。
完成したら教えてくれるって。
「じゃあ、私達は王都に帰るけど、お師匠はまだこっちに入り浸るの?」
「そうじゃな、しばらくはここに居ようと思う。」
「アクセルー。御免ね。お師匠がご迷惑をお掛けします。」
「いいえ、僕も寂しくなくていいです。」
「何か必要な物があったら遠慮無く言って頂戴。それじゃ、また後でね。」
ヴィヴィさんは、音速ですっ飛んで行った。
私達は、ケイティーの飛行椅子の速度に合わせてのんびり帰った。
のんびりと言っても、時速400キロは相当に速い速度だと思うけどね。
『--そうだ、ハンターズへ寄って、何かクエスト出てないか見て帰ろう。--』
『!--そうしよう!--!』
早速、覚えたてのテレパシーを使っているのだった。
王都、ハンターズギルド前。
「あ、いけね。また門から出入りするの忘れちゃった。怒られたばかりだっていうのに。」
「私、それ見て無いんだけど、ヴィヴィさんも怒られたらしいねー。」
そんな話をしながら依頼ボードの前へ行くと、めぼしい依頼は全く無く、一枚だけ隣国への配達依頼が貼ってあった。
王宮からの依頼で、外交文書の一通を運ぶ依頼らしい。
「なんでそんな物をハンターに運ばせるのよ。」
「あー、なんか聞いた事が有るよ。大事な外交文書は、同じ文書を複数のルートで運ばせるみたい。使節団に1通、行商人に1通、ハンターに1通、って感じでね。どれかを奪われても大丈夫な様にしてあるの。どれか1通でも届けば大丈夫なんだ。」
「え? それって、奪われて中身見られちゃっても大丈夫って事?」
「うん、例えば、条約締結の文書とかね。相手にきちんと届けば良いんだよ。届かないで破棄されちゃうのが問題なの。」
「ふうん、うわっ報酬安っす! 大金貨2枚だって。どうする? 受けてみる?」
報酬、大金貨2枚。旅費、最大10日分まで支給。
これって、隣国まで10日で往復して来いって事?
いや無理でしょ。隣国の首都まで500リグル(800キロ)はあるよ? 急いだって片道20日の行程じゃん。赤字じゃん。
こんなの受ける人居るわけないじゃん。
「でもさ、私達なら、ピューっと飛んで行っちゃえるよ。」
「そうねー、よし! やってみよう! 私、外国見てみたい!」
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