第62話 ダンジョンじゃ無い

 ケイティーの飛行椅子の最高速度は、地球で言う所の時速400キロ程度。

 100キロ先のアルマーなら、ほんの15分程度なのだ。

 アルマーの上空を通貨する時に、アクセルは溜息を漏らした。



 「はあ、二泊三日の行程が、こんなに一瞬とは……」



 アルマーを越えると、前方のはるか先に山脈が見えて来た。



 「あの山脈の丁度丁度向こう側、前方に見えている高い尖った岩山がカーツェです。」


 「「了解!!」」



 それから四半刻程(約30分)して、カーツェの麓は辿り着き、アクセルが上空から地図を見ながら誘導してくれて、洞窟の手前へ着陸した。

 山脈を一つ飛び越え、それと平行に走るトランス山脈の中にカーツェはある。

 麓に降りると、人跡未踏の手付かずの大自然が眼前に広がっていた。



 「その魔道具の椅子、一般に普及したら旅の概念が覆りますね。」


 「これは特別仕様なので、一般販売されるのはこの速度は出ないみたいですよ。」


 「えー、そりゃぁ残念だな。」


 「太陽石のサイズのせいで、とても一般で買える金額に成らないらしいです。貴族が金に糸目を付けないでカスタムさせればこれ以上の物が出来る可能性もあるのだけど、そうすると、大きな太陽石をチャージ出来る人が居なく成ってしまうらしくて……。」


 「太陽石のチャージねぇ……」



 アクセルは、とても残念そうだった。ここまで半刻(1時間)も掛からずに来れるなら、研究も捗るんだろうなー。

 でも、私達が毎回送り迎えするわけにもいかないしね。



 「こっちに研究拠点作ったらどうなんです?」


 「それも今構想中なんだよね。いや、今回の探索の成果によっては、現実味も……」



 なんか、ブツブツ言って考え始めたよ。

 錬金術工房もカナルパの麓に拠点を持っていたのだから、一定の成果が有れば拠点を作って職員を常駐させたり出来ないのかな?



 「とは言ってもねー……考古学は、いまいち利益を出すような学問じゃないからなー……」



 まあ、そうだよね。地球でも学者個人が自分の財産を持ち出しで研究を続けている人はいっぱい居るよ。

 なかなか大変そうだよね。



 「さて、まだお昼には早い時間だけど、どうします?」


 「普通なら、キャンプ出来そうな場所を探して、炊事の準備をして、テントを張って、ってなるんだけど、これだけ間口の広い洞窟だと、中の浅い所にテントを張っちゃった方が安全かな。」



 洞窟というと、中に水が溜まってたりジメジメしてたりするイメージがあるけど、ここは比較的乾燥している地帯で、地球で言うと、砂漠の古代の壁画が見つかったりする大きな洞窟があるでしょう? あんな感じを想像してもらえるといいかもです。

 洞窟の中に入ってみると、結構ひんやりしている。

 壁も意外とツルツルの岩肌で、地面も整地したみたいに平らだ。一見してこれは自然の洞窟じゃない様に思える。



 「私は、洞窟の外に危険が無いか、ちょっと調べて来ます。ケイティーは、テントの設営を手伝ってあげて。」


 「わかったわ。」



 私は、魔力の探索範囲を300ヤルト程に広げ、洞窟の外を歩いてみた。

 うん、特にこちらに気が付いて向かってくる動物は……、居るな。

 このくねくねした動きは、トカゲか蛇系の魔物かな?

 あ、蛇だわこれ。結構大きいぞ。

 私は、倉庫から剣を取り出すと、開けた所で待ち伏せをする事にした。

 距離50……40……30……あれ?

 もう見えても良いはずなのに、来ないぞ? 距離20……



 「地面の下かああああ!!」



 目の前の地面が盛り上がり、巨大なミミズみたいなやつが飛び出してきた。

 お前はエイリアンか!

 そして、蛇じゃなくて、サンドウォームだった!

 頭の先端の開口部が開き、無数の細かい歯が同心円状に並んでいる。うわ、きっも!

 私が横方向へ飛び退くと、今私の立っていた位置にドスーンとその吸盤みたいな口がのしかかった。

 私はすぐさま、延長剣(仮名)を伸ばし、その口の付いている頭の部分を切り飛ばした。

 口さえ無ければただのキモいミミズの親分だからな。

 巨大ミミズは、体液を派手にぶちまけながら、暫らくのたうち回って動かなくなった。


 切り取った頭の方を持って、ケイティーとアクセルに、これは食えるのか聞いた所、ギャーと悲鳴を上げて逃げていった。



 「そんなの、捨てて捨てて捨ててー!!」


 「それ、駄目です! 寄生虫がいるから食べられませーん!」



 そっか、寄生虫がいるのか。でかいから食べられれば食いでがあるのになー。

 胴体の有る所に頭を捨てて、青玉で炭にしておいた。


 他に食えそうなやつは居ないかな? と再び魔力でサーチしてみると、トカゲっぽいのが居るな。

 ロックドラゴンの半分位の大きさで、4ヤルト級のトゲトゲトカゲ、スォーニー・デーモンだ。

 これは、魔物じゃないのでちょっと可愛そうだけど、私達のお昼ご飯に成ってもらおう。


 私は再び伸縮剣(仮名)で頭を切り飛ばすと、しっぽを持って血抜きをしながら洞窟へ戻った。



 「これなら食べられるでしょう?」


 「やった! 美味しいやーつ!」


 「おお!」



 今度は喜ばれた。

 ケイティーが、洞窟の外で良い手際で捌いてくれた。

 トゲトゲの外皮を丁寧に外し、倉庫へ仕舞う。売れるんだって。

 内蔵を捨てて、肉を切り分けようという所でナイフが止まった。



 「丸焼きにしようか?」


 「いいね! そうしよう!」



 洞窟で大きめの焚き火起こして、その中に横たえる。

 いい感じに焼けてきて、美味しそうな臭いが立ち込めた。

 私達は、それぞれナイフを持って焼き上がったあたりの肉を銘々に削いで、好き勝手に食べていく。

 ロックドラゴンのよりも少しパサパサする感じだけど、かなり美味しい部類の肉だった。

 流石に4ヤルト級もの大きさがあるので、全部は食べきれなかったけど残りは夜に回そう。


 腹ごしらえが済んだので、さあ、ダンジョンの探検だ!



 「洞窟だってば。」


 「ケイティーまで心を読む様になったのか!」


 「いや、だってあなた、口に出して喋ってるよ?」


 「……!」



 衝撃の事実! 私って、考え事を喋ってたのか!



 「ほら、あなたしか魔力探査出来ないんだから!」



 落ち込む隙きすら与えてくれないなんて、鬼だ、鬼がいる!



 「はいはい、わかったから。」



 ちくしょー!



 「宝箱有るといいですねぇ。」


 「お、アクセルはロマンが分かるのか!」


 「え? 何で人の入っていない洞窟に宝箱があるの?」



 この時、ケイティーは結構鋭いツッコミをしていたのだけど、私は全く気が付かなかった。


 取り敢えず、探査範囲は100ヤルト。

 何故探査範囲を狭めたのかと言うと、その方がより精密に把握出来るから。

 何時もの様に、先頭をケイティー、一番後ろを私が歩き、アクセルを真ん中にする。この方が守りやすいからね。

 ケイティーが戦闘、アクセルがライトとマッピング、私が探査という役割分担だ。いざ戦闘になったら、アクセルを一番後ろに下げて私も戦闘に加わる。



 「20程行くと、左に5つ刻方向(10時の方向)に折れます。100範囲に危険性生物ナシ。」


 「了解。」


 「ライトお願いします。」



 自分の進行方向を時計の文字盤の12時として捉え、時刻で方向を示すやり方の現地時間単位変換版で指示を出す。

 奥に入ると流石に暗くなるのでアクセルにマジックライトを灯してもらう。簡単な光源魔法って言っていたけど、結構洞窟内を明るく照らしてくれる。この魔法いいな、帰ったらヴィヴィさんに太陽石で作ってもらおうかな。ああ、太陽石を持ち歩いているだけで明かり要らずだったわ。

 それにしても、危険生物が居ないのは有り難いけれど、普通の生物も全く住み着いていないのはどういう事なのだろう? 洞窟の外には結構生き物は居たのだけどな。



 「20行くと、1つ刻半(3時の方向)折れます。その先30で5つ半(11時方向)。」


 「うーん、実際に歩かなくても君の探査魔法だけで地図出来ちゃいそうだね。」


 「でも、実際の地質とか生息生物とか洞窟内の目印なんかは、自分の目で見ないと分かりませんから。」



 そのまま、折れ曲がり地点まで行くと、20行って今度は1つ刻(2時)方向、20行って4つ刻半(9時)、30行って半刻(1時)と、左右逆になっていた。だけど、進行途中は特に何に遭遇するという事も無く、普通に進んだ。



 「突き当り2又に分かれています。」


 「さて、どっちから行く?」


 「先がどうなっているか分かる?」


 「えっとね、左は暫く通路が続いているね。右は、100先で竪穴に成ってる。」


 「じゃあ、右を確認して、竪穴の先に道が無いかを確認してから左へ行こう。」



 マッピングしながら慎重に進んで行くが、通路内部には特にこれといった特徴は無く、曲がり角や二股といった、通路の形状の変化が唯一の特徴だった。

 右の直線通路に入ってからは、所々壁床天井に、1フィグル(約4センチ)程度のスリットが入っているのに気が付いた。スリットの奥は、暗くて見えない。



 「これさあ、遺跡だと思う?」


 「遺跡かどうかは分からないけど、人工物っぽい感じはするね。」


 「やはり、そう思いますか?」


 「うん、ここは褶曲山脈だから、火山性の溶岩洞窟というのは無いよね。鍾乳洞だとすると、鍾乳石や石筍が何処にも無い。地下水が削ったにしては、水が何処にも無く乾燥しすぎているし、道が平坦過ぎる。普通、鍾乳洞では、上下にも曲がりくねっているんだよね。だから、ケーブクライミング技術が必要になってくるんだけど、ここの地面は均したみたいに平坦でしょう?水の流れた跡も無いし、何かの目的の為に人が造ったみたいに見えます。」



 前方を見ると通路の100ヤルト先は明るくなっている。

 80も歩くと、明かり無しで周囲が見える様になって来た。

 通路の先は垂直に、直径凡そ30ヤルト程もある立坑に見えた。

 底は深すぎて見えない。上はかなり上の方に青空が見えている。



 「噴火口のわけは無いよねー……」



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