第61話 ケイティー初フライト

 「そう言えばさぁ? オーク狩りの報酬って受け取ってたっけ?」


 「あっ! すっかり忘れてた!」



 私達は、ハンターズの掲示板前で、その事を思い出し、慌てて受付カウンターへ向かった。



 「あー、これ、期限切れでクエスト失敗扱いになっているわね。罰金、大銀貨1枚ずつ付いてるわよ。」



 私達は、カウンター前で崩れ落ちた。

 何故、太陽石クエストで納品に来た時にこっちのクエストも完了させておかなかったのか……

 クエスト失敗数1の汚点がハンター証へ書き込まれてしまった。

 真面目にやらないとこれはヤバイぞー。



 「私達って、割とハンターとしてはポンコツかもしれない……」



 気を取り直して、再びクエスト依頼ボードへやって来た。



 「なんか、ぱっとしたの無いよねー……」


 「あっ、これなんてどうかな?」



 ケイティーが取ったのは、洞窟でのマップ作成クエスト。



 「洞窟……だと?」



 ダンジョンか? ダンジョンなのか? ゴゴゴゴゴ!



 「ダンジョン? なにそれ? 洞窟の事をあなたの住んでいた地方ではそう言うの?」



 え? ダンジョンを知らない?

 私達は、依頼書をカウンターに持って行って、お姉さんに詳細を聞く事にした。



 「依頼書番号、Aの2020187番、洞窟探索クエスト。報酬金は、大金貨3枚と小金貨2枚。旅費別途支給。条件は、2名以上……と。ハンターランクは、1以上と……これは、OKね。ケーブクライミングと測量の経験は?」


 「どの程度の精度の?」


 「距離は大体の歩測で、方角は、この方位磁針を使って。使えない場所だったら、大まかな目印なんかを記述してくれればいいわ。ケーブクライミングのスキルは必須なんだけど。」


 「そんな事よりも! ダンジョンのお宝の扱いは?」


 「ダンジョン? お宝?」


 「こう……、宝箱に入った剣とか防具とか財宝とか……」


 「聞いた事無いわねー。何で洞窟に宝箱が入ってるって思ったの?」



 お姉さんはキョトンとしている。

 マジか……この世界にはダンジョンって無いのか? ロマンが……。



 「私達、飛べるのでクライミングのスキルは必要無いです。」


 「飛べる? まさかー。」



 ケイティーは、倉庫から椅子を取り出して、空中に浮いてみせた。

 ハンターズのロビーにはどよめきが響き渡った。



 「す、すごいのね。あなたも飛べるの?」


 「私は魔道具無しで飛べますよ。ほらっ。」


 「「「「「おおおおおお」」」」」



 再び響き渡るどよめき。



 「じゃ、じゃあ、クライミングスキル無くても大丈夫……、かな?」



 結構狭い所や水が溜まっている場所もあるかもしれないので、十分気をつける様に念を押されてハンターズを後にした。

 建物を出て、少し歩くと背後から声を掛けられた。



 「あのう……、僕もその洞窟へ連れて行って貰えませんか?」



 振り向くと、若い学者風の男が立っていた。どう見てもハンターには見えない。



 「あなた、冒険者に見えないけど、何で私達に声をかけたの?」



 ケイティー、かなり怪しんでいる。そりゃそうだよね、少女2人の仲間に入れろと声かけてくる男なんて。

 前のアラクネーの時の一件が相当トラウマになっているみたいだ。



 「これは、申し遅れました。僕はあのクエストを依頼した者で、アクセルと言います。考古学者をやっています。」


 「クエストの依頼者?」


 「考古学者?」



 詳しく話を聞いてみる事にした。

 あの洞窟は、どうやら古代遺跡なんじゃないかと、アクセルは睨んでいるらしい。

 そこで、本格的な調査に入る前に、冒険者にマップの作成を依頼したという訳。

 危険な箇所や住み着いている魔物や危険生物なんかの情報を事前に知りたいという理由から、マッピングと調査の依頼を出したのだが、それを受けたのが私達で、さっきロビーで見せた飛行魔法を持っていると知り、自分も同行させて貰えないかと考えたとの事。



 「遺跡なんですか?」


 「見てみないと判らないけれど、洞窟というのは、火山で溶岩の通り道だった跡とか、太古に海で、波によって削られたものだったり、地下水で削られたものとか、石灰質の地質で染み込んだ雨水によって溶かされた鍾乳洞とかが一般的だね。人の手によって掘られたものは、人が使う為の用に出来ているからある程度見分けが付くよ。」



 アクセルは目を丸くしていた。



 「えっ? 12歳って聞いたけど、何処でそれだけの知識を得たんだい?」


 「ああ、この子、大賢者ロルフ様の直弟子なのよ。」


 「はあ~……それで、って、えええ!!?」



 地球の知識だけどね。

 それで、連れて行くかどうかをケイティーとヒソヒソ話し合っていたら



 「あ、もちろん、連れて行って頂くのに無料ただとは言いません。私の護衛も兼ねて、一日当たり一人小金貨6枚……」


 「「よろしくお願いします!」」



 あのお金は寄付しちゃったからね。ガツガツ行こうぜ!










 北門外。

 準備を整えて、集合場所の北門外で待っていると、山の様な荷物を背負ったアクセルがやって来た。



 「あれっ? 君達の荷物はそれだけかい?」



 ああ、なんというデジャヴ。初めてケイティーと冒険に出た時の事を思い出すよ。

 笑っていると、ケイティーが気が付いたみたいで、私を肘でつついて来た。



 「あのう、もしよろしければ、その荷物、私がお持ちしますわ。」


 「へ? 君が? いやいや、いくらなんでもハンターとはいえ、女性にこんな重い物を……」



 ケイティーは、魔導倉庫の鍵を取り出すと、ガチャリと空間を開け、アクセルの荷物を収納した。



 「魔導倉庫! そうか、魔導倉庫を使うハンターが居るとは聞いていたが、それが君達だったのか!」



 アクセルはびっくりしていた。まあ、今はまだ珍しいだろうけど、学校が出来て卒業生が出る3年半後には、世間に出回っているはずだから、びっくりされるのは今の内だけだろうけどね。



 「目的地は、ここからは見えないのだけど、アルマーの更に向こう側にある、マウラー山脈にある、カーツェ山の麓付近なんだ。僕があまり足が早く無いので、片道10日はかかる予定です。ちょっと遠いんだけど……。」



 私達の顔を見て、はっと気が付いた様に慌てて付け足した。



 「もちろん、僕のせいで遅くなっても旅の途中にかかる費用は、依頼書に書いてあった通り、全額実費でお支払いするよ!」


 「いえ、別にそういう心配はしていません。ところで、洞窟探索に必要なスキルは何かお持ちですか?」


 「ああ、簡単な光源魔法と、マッピングのスキルは持っているよ。あと、初歩の治癒魔法も。」


 「それを聞いて安心しました。それだと、私達の仕事は、運搬と護衛程度になりそうですね。」


 「ああ、よろしく頼むよ。」



 私達は握手を交わした。

 そして、ケイティーは倉庫から飛行椅子を取り出し、座ると、『なんか、初長距離飛行なんで、ドキドキしちゃう。』なんて言っていた。

 私は、アクセルを魔魔力で持ち上げると、軽く地面を蹴って飛び上がった。



 「こりゃあすごい! 僕は空飛ぶのは初めてだよ。」



 うん、まあ、普通の人はそうだよね。



 「ケイティー、まずはアルマーへ向けて飛ぼう。全速力でいいよ。」


 「了解!」



 ヒュイイイイイイイィィィイィィィ!ドドーーーーン!!!



 背後から青いバーナーの光を引きながら、ケイティーはすっ飛んで行った。

 ケイティーの悲鳴を残して。

 ヴィヴィさん、エフェクト派手すぎでしょう。無駄なリソース使ってるよ。

 でも、そう言うと、『こういう演出は必要なのよー。』って絶対に言うんだよなー。



 「凄いな。」


 「私達も追いかけます。」



 一応、登場者が居るので、加速は優しく。

 でも、こちらは音速以上出るので、すぐに追い付くけどね。



 20も数える間に、前方から悲鳴が聞こえて来た。

 ケイティーに並ぶと、涙目で悲鳴を上げている。



 「キャアアアアアアアアーーーーーあはははは!!!」


 「なんだ、喜んでいたのか。心配して損したよ。」



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