第50話 ジェットエンジン改
家へ一旦帰って、必要な物を倉庫へ全て放り込んだら、さあ、出発。
といっても、飛んで行くだけだけどね。
ケイティーは私が持ち上げて、一旦空中で待機。
「ここから王都外郭城壁の南門前まで競争じゃ。」
「あれ? いつもの王城正門前じゃないの?」
「ああ、一応、王都へ入った記録は付けんとマズイじゃろう。」
「それもそうねー。特にケイティーは、出都記録は付いているのに、いつの間にか中に居たら、何処から入ったって騒ぎに成りかねないものね。」
「あ、それからマヴァーラ上空を音速で飛行するのは駄目だから、一旦精錬所方向へ飛んで、川沿いを王都まで行くよ。」
「了解じゃ。」
「わかったわ。」
「では、カウントダウン、3、2、1、ゼロ!」
「きゃああああああああ!!」
あ、そういえば、ケイティーは音速飛行初めてだった。ま、いっか。
私は、そんどん加速して行き、およそ1分程度で音速を越えた。
私とケイティーは、流線型の魔力の鞘の中に入っているので、風の影響は全く受けない。
今回も私が一等賞だね、と高を括っていたら、後ろからものすごい速度で追い抜いて行く物があった。
なんと、それはお師匠だった。
競争すると、何時もびりっけつだったお師匠が!? なんで!?
私は、魔導ジェットエンジンを双発にし、更に加速する。
前方にお師匠を捉えた。
見ると、お師匠は単発ジェットなのに、この速度。なんでー?
お師匠はちらっと後ろの私達を見ると、にやっと笑った。
くやしー! なんで追いつけないの!? こっちは双発なのに!
「ソピア、頭に血が登ってるよ。相手が何をやっているのか、よく観察しないと!」
ケイティーの言葉にちょっと冷静になった。
私の速度だってマッハ2は出ているはず。お師匠はそれを越えて来ている。
青い炎、いや、透明! まさか!
そんな考察をしている間に、もう王都へ到着。
南門前で反転逆噴射制動。速度がゼロに成った所で、そっと着陸。
門衛さんと、手続き待ちの商人さん達が、びっくり仰天している。
しばらく待っていたら、ヴィヴィさんがやって来た。
「そんな馬鹿な! 私がビリですのー? これでも音速以上は出ていたはずですのに!」
「魔導は常に工夫じゃ。あらゆる知識を蓄え、応用する。イメージが大事じゃな。同じ方法で満足して止まっていたら、すぐに他者に出し抜かれるぞ。」
やっべ、流石大賢者。水面下で爪を研いでやがったですよ。
でも、私大体解っちゃったもんねー。
「じゃが、おまえは真似出来んのじゃったな。」
「ぐぬぬ、そう、仕組みはわかったのに、真似出来ない。くやしい。」
「ちょっとぉー、それ、
「それは、お師匠に言って、おねがい。」
いくら仕組みが解ったと言っても、それを出来ない私が教えられる理由が無い。
お師匠に丸投げだ。
「さて、入都手続きを済ませてしまおう。」
お師匠とヴィヴィさんは、王宮発行の金色の身分証、私とケイティーは、水晶のハンターズライセンスを見せて入都完了。
「で? お師匠の家って何処に有るの?」
「ああ、こっちじゃ。」
王城の正門前は、公園広場になっていて、その先は凡そ1リグル、幅100ヤルトは有りそうな大通り広場が、南門のすぐ近くまで続いている。
つまり、南門を入って、貴族専用の高級商店街を抜けて少し歩くと、素通しで王城まで一直線なのだ。
はるか向こうに真っ白なお城が小さく見えている。
大通公園の両側が、貴族区というわけ。
大通公園をずんずん歩いて行って、公園広場に入る手前の左側にある、一際大きな屋敷の前でお師匠は足を止めた。
「ここじゃ。」
「「「ふええぇぇぇ……」」」
私達3人は、仰天した。
まさかこんなに立派なお屋敷だったとは!
でも、よく考えたらそうか。邪竜大戦の英雄の一人なんだもんね。粗末な屋敷に住まわせるわけにはいかないか。
でも、お師匠はそんな生活が嫌で、一人森の中で暮らしていたんだっけ。
「ここに来るのは何年ぶりじゃろうかのう。」
「
ケイティーは、さっきから魂が抜けてフリーズしている。
お師匠は管理の衛兵に挨拶をすると、衛兵に先導されて玄関の鍵を開けてもらった。
「ふえー、自分で鍵を開けたり扉を開けたりしないんだね。」
「そりゃそうよ。これだけのお屋敷に住んでいる大貴族ですもの。全部使用人がやるわ。」
「わしゃ、そういうのは好かんのじゃがのう……」
屋敷は、白い大理石造りの四階建てで、南側に開いた浅いコの字型をしている。
王城側正面から見ると、小さめのお城というか、なんだろうこれ、国会議事堂というか、絵画館というか、ホワイトハウスというか、真ん中に低い塔みたいなのがくっついた形をしている。これって、個人で住んじゃいけない建物でしょ。いったい部屋数幾つあるのよ。
「部屋は腐るほどあるから、皆好きな部屋を見つけて住めばよいぞ。」
「わーい! ケイティー、部屋見て回ろう!」
「あ、う、うんっ。」
やっとフリーズから再起動したケイティーを引っ張って、各部屋を見て回る。
どの部屋も豪華な調度に高そうな絨毯、高そうなシャンデリア、高そうな絵画が飾られている。
客室にはそれぞれバスルーム、ウォークインクローゼットが付いており、寝室のベッドはもちろん、天蓋付きだ。
「うそー、夢みたいー。私、お姫様になった気分……」
「1部屋だけで、森の中の家より広いよねー。」
「私、この4階の角の部屋にしようかな。見晴らしが素敵!」
「じゃあ、私は、反対側の角部屋にしようかな。」
「
「玄関ホール2階横の部屋がわしの書斎じゃから、その隣を寝室にしようかのう。食堂は、1階ホールの奥じゃ。1階は使用人達が住んでおるからの、何か用事があったら言いつけると良いぞ。」
私達、一晩で貴族になっちゃいました。
正確に言うと、貴族と同じ生活を始めちゃいました。
そして深夜……
さて、寝ようと床に入ると、何か、しーんとし過ぎていて、逆に耳が痛い。
森の中だと、虫の声とか、草擦れの音とか、なんらかの音があるのだけど、ここは何の音もしない。
意外と寝付けないものだな、と窓から見える月明かりを眺めながら考えていたら
コンコンコン!
私のドアをノックする小さな音がする。
ちょっとビクッとなった。
でも、ベッドから出てドアまで遠い。
部屋の隅の真っ黒な暗がりとかが急に気になり出す。
嫌だなー、怖いな怖いなー、と稲○淳二のフレーズが鳴り響いたので、気のせいだと思う事にして、布団を被った。
そうして無視していたら
コンコンコン!
また鳴った!
枕元のテーブルにあった銀の燭台を手に持って、そろそろと抜き足差し足で扉の所まで行って開けてみると、そこに居たのは、枕を抱えたケイティーだった。
「どうしたの? こんな夜中に。」
「部屋が広い、静か過ぎる、回りに誰も居なくて怖い。寂しい! うわあああん。」
「何よもう、だらしがないわねー。」
人の事は言えないのは黙っておこう。
「私も、見晴らしで4階を選んじゃったけど、毎日の上り下りが結構きついかもと思い始めていた所だったんだ。そうだ、一緒に、2階のお師匠の部屋の近くに引っ越そう。」
今思い付いた適当な理由を説明する。
では、善は急げと、荷物をまとめて長い廊下を燭台の乏しい明かりを頼りに2人で歩いていると、曲がり角の先にぼやーっと白い服を着た、長い髪の女の人の姿が……
「「ぎゃーーーーーー!!!」」
「ぎゃーーーーー!!」
向こうも悲鳴を上げた。
よく見ると、白いネグリジェを着て枕を抱えたヴィヴィさんだった。
何で皆枕を抱えて来るんだろう?
私達は、2階に降りて、お師匠の書斎と反対側の空き部屋で3人同じベッドに固まって寝た。
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