第42話 アラクネー換金
「お前達、大丈夫だったのか!?」
ハンターズギルドのお偉いさんが駆け寄って来た。
顔は知らないけど、ギルド長だとケイティーが教えてくれた。
「新人の女の子が2人だけで、アラクネーの巣に突っ込んで行ったと聞いて、慌てたんだぞ。そうか、途中で諦めて引き返して来たんだな。懸命な判断だ。初心者の内は、功名心に駆られて無茶をする者が居るから、心配したんだぞ。」
なんか、自分でかってにストーリーを組み立てて、納得しだしたぞ。
「いえ、捕獲してきましたよ。子蜘蛛ですけど。」
「は? どこに? あ、魔導倉庫持ちだったな。子蜘蛛の方が生きているなら価値があるぞ。飼い馴らせて長く糸を採取出来るからな。戦闘の傷で弱っていて、万が一移送中に死んでしまっていても、素材として大金貨1枚と小金貨2枚を出そう。小さい分、安くなってしまうのは申し訳無いのだが。」
「蜘蛛を出すので檻を用意して下さい。」
「おう、そうだな、これ位でいいか?」
ギルド長は、大型犬のケージみたいなのを持って来た。
「あの、これじゃ入りきれません。」
「なんだと? あ、スマンスマン。一匹ずつか? おーい、もう一つ檻を持って来てくれ!」
ケイティーの言葉にギルド長は私も居ることに気が付き、奥の係員へもう一つ檻を持って来る様に声をかけた。
「いえ、そうじゃなくて、数が多くてこれじゃ入りきれないんです。」
「一体、何匹捕獲したと言うんだ?」
「あの、全部で27匹。」
「は?」
「27匹です。」
ギルド長は、半信半疑でギルドの建物の裏の解体場の更に裏手にある、捕獲した魔物を入れておく、動物園の檻みたいな大きさの檻を見せてくれた。
「これで間に合うか? これは、大型獣用の檻で鉄格子の間隔が広すぎるから、ちょっと待っててくれ。」
飼育員に指示をして、檻の内部を金網で覆う応急処置をする間、ラウンジで待っている様に言われた。
ケイティーと一緒にお茶を飲んでいると、ケイティーを騙した男達が声をかけてきた。
「なあ、お前が居ないとクエストのクリア報酬が貰えないんだが、ちょっといいか?」
ケイティーが一緒に受付カウンターへ行くと、報酬が一人大金貨2枚ずつ支払われた。
ケイティーは、約束通りその金貨を男達へ渡すと、戻ってきた。
「もうさ、ああいうのに騙されちゃ駄目だよー。」
「うん、勉強になったわ。もうこりごり。色んな意味で。」
「変な事に巻き込まれそうになったら、すぐにヴィヴィさんか私に相談する事。」
「わかったわ。でも、変な事に巻き込むのはソピアちゃんも一緒なんだけどな。」
「私のは、ちゃんとハンターの経験になる事なので、いいの!」
「なにそれー、あはは。」
歓談をしていたら、工員みたいなつなぎ服を着た人が呼びに来た。
檻の工事が完了したとの事。
裏手を回ると、ギルド長と係員が強度等細部をチェックしていた。
「ここへ出せば良いんですね。どっちから行く?」
「私、私! 蜘蛛が充満した檻に入るの嫌ー!」
私を押し退けて入ろうとしたので、その肩をむんずと掴む。
「よく考えたら、それは私も嫌。一緒に入ってパッと出して、直ぐに外へ出よう。」
数人の係員が、鉄の棒を持って、一人が鉄扉を押さえて構えてくれている。
私達二人は、中へ入って直ぐ様魔導倉庫を開き、檻の中に蜘蛛を放出する。
蜘蛛が出切るまで、ケイティーはギャーギャー叫んでいる。
それを聞いて、逆に私は冷静に成った。
私の倉庫に入っている数の方が多いので、時間がかかる。ケイティーはさっさと扉の外へ退避した。
私も全部出すと、最初の方に出した蜘蛛がこちらへ向かってくるのを見て、慌てて出口へ飛び付いた。
係員が、鉄の棒で蜘蛛を押し込んで、その隙きに扉を閉め、カンヌキを掛けて、でかい南京錠を閉める。
「1、2、3、4、……はい、確かに27匹受け取りました。」
ケイティーは、もう倉庫の中に一匹も残っていないか目を皿の様にして確認している。
私も一応確認しておく。よし、居ないな。
「ケイティー、ケイティー、中で卵産んでいたらどうする?」
「ぎゃーー! やめてよー!!」
「冗談冗談、子蜘蛛だから卵は産まないでしょ。でも、数え間違いしてて、実は倉庫の天井に一匹……」
「もう、やめー!!」
中、荒らされて無いかなー、体毛とか落ちてたら最悪だよね。ドレスは、よし、無事だ。
ケイティーもドレスを取り出して、まじまじと確認している。
倉庫の中に入れておいた食料は、ちょっともう食べる気はしないな。
「子蜘蛛は1匹あたり、大金貨6枚で買い取ろう。それにしても、魔導倉庫とは便利なものだな。どうやったら手に入るのだ?」
それは、半年後に開校する、サントラム学園の上級学校を卒業したら云々かんぬん。
「なるほどなー、俺は今更子供に混じって学校へ通うのはちょっとな……、まあ、パーティーに一人居れば済む事だからな。それはそうと、子蜘蛛の巣の場所を聞きたいのだが、いいか?」
「どうするの?」
「糸を回収するんだよ。高く売れるんだぞ。」
「それってこれ?」
ケイティーが狙いが悪くて、巣の一部を倉庫へ転送していた物。
「おお、それだそれだ。重さ辺りいくらで買い取るぞ。」
うわ、しくった。ケイティー、怪我の功名じゃん。
ギルド長は、私達から詳しい位置を聞いて、アラクネーの子蜘蛛の巣の回収クエストを新たに出していた。
売れると分かってたら、全部回収してくるんだったよー。
「私達って、毎回ちょっとずつ損してるよね。」
「うん、ちゃんと下調べしてから行こうって前回思ったのにね。」
なんか、色々と卒が有る。
そう言えば、私は近距離戦闘に難が有るので、それをなんとかしようと思っていたんだった。
前回のタイラントの時だって、長距離射撃が出来なくて、いきなり近距離の格闘戦に成ってしまって慌てたんだ。
青玉も、発射までにちょっと溜めが必要なので、近距離と言うよりも中距離向きだ。
というか、魔法は殆どそうか。
だから、近距離戦闘要員の剣士が居て、長距離火力の魔導師が居るんだ。
家へ帰ったら、近距離戦闘術をちょっと研究してみよう。
ラウンジに戻って、お菓子を食べていたら、買い取りカウンターから名前を呼ばれた。
買い取りの査定が終わったらしい。精算してもらった金額は、子蜘蛛27匹、糸の塊少々で、大金貨162枚と、小金貨3枚、大銀貨1枚となった。大漁大漁。私達、既に大金持ちですよ。
私は、大金貨81枚と小金貨1枚と大銀貨3枚と小銀貨2枚を貰った。
「ケイティー、大金持ってると物騒だから、ちゃんと倉庫に仕舞っておかないとだめだよ。」
外に出ると、もうすっかり日は落ちてしまっていた。
「こんなきっちり分けなくても、大金貨だけでも良かったのに。」
「ううん、駄目。寧ろ、私の方が殆ど何もしていないのに貰っちゃって申し訳ない位なんだから。今度ご馳走させてね。」
「うん、楽しみにしてる。それじゃ。」
私は、ふわっと飛び上がると、眼下のケイティーに手を振って、闇夜の空を亜音速で飛んでいった。
人家の上空で音速出してソニックブーム撒き散らしたら駄目だもんね。
私はちゃんと、気を遣える女なのさ。
「ソピアちゃんって、空まで飛べるんだ……」
小さくぼそっと呟いた。
もう、何が起こっても驚かないケイティーであった。
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