第41話 アラクネー狩り2

 「実は、生け捕りにしたかったんだ。」


 「生け捕り? だったら最初からそう言ってよー。」


 「いや、実際に戦闘に入ったら、そんな余裕全然無かったぜ。こいつを生け捕りとか無理だろ。」


 「生け捕りにするとどう違うの?」


 「ああ、こいつが腹から吐き出す糸がな、高級な繊維になるんだとよ。大金貨5枚と言ったのは、生け捕り価格だ。」


 「じゃあ、殺しちゃったやつは?」


 「素材として、大金貨2枚ってとこだな。」


 「三分の一かー……よし、生け捕りに行こう!」


 「正気か!? お、俺達は手伝わないぞ!」


 「良いよ、私とケイティーで行くから。あなた達は仕留めた3匹を持って帰ってクエストをクリアしてきなさい。3匹分の売却代金はあなた達にやるよ。」


 「マジかよ、こいつら……。だが、俺達にしてみればそれで御の字おんのじだ。俺達はこれでずらからせて貰うが、後で文句言うなよ!」



 男4人で大蜘蛛3匹分持って帰れるのかなとは思ったけど、大きさの割に重量は軽いんだよね。

 親蜘蛛のサイズで人間の子供一人位の重さしか無い。

 まあ、何とか持って帰れるでしょう。


 さて、私達はアラクネー生け捕りにレッツゴー!

 って、ケイティーを見ると、青い顔をしている。



 「ななな、なんで、あんな事言っちゃったのー?」


 「え? 駄目だった? 生け捕りなら汁付かないよ?」


 「そういう問題じゃなーい!!」



 嫌だー! 嫌だー! と愚図るケイティーを引きずって奥へずんずんと進んでいく。

 なんでよ? 元々アラクネー狩りに出たのはあなたじゃない。

 最初はそれ程嫌そうな顔してなかったじゃない。



 「実物見ちゃったら、恐怖感が急に出てきちゃったの!」



 うーん、わかる。ハロウィンの飾り付けで蜘蛛の玩具を触るのは全然OKでも、実物を見るのは怖いもんね。

 じゃあ、こう考えたらどうかな? あれは蜘蛛じゃなくて、金貨の塊だと。



 「無理ー、絶対に無理ー!!」


 「まあまあ、私にちょっと考えがあるんだ。上手く行くかどうか分からないんだけどね。」


 「上手く行かなかったらどうなるのよー!」



 絶叫しながらも付いて来てくれるケイティー良い子。

 魔力の索敵範囲は最大500位はいけると思うのだけど、精密さに欠けるので、200位に押さえている。

 それに今、感知が有った。



 「うん、やっぱりこっちで正解だった。親蜘蛛が一直線にこちらから走って来たから、こっちに巣があると思ったんだ。」



 ハエトリグモとかアシダカグモの様に、徘徊系の蜘蛛は、巣を作るわけでは無いのだけど、子供を産む時は別だ。

 特にアラクネーの様に子蜘蛛に狩りの仕方を教える習性が有るのなら尚更だ。

 何処か近くに拠点と成る場所が有るはずだと踏んでいた。

 アラクネーは、一度に数十の子蜘蛛を産むが、今回は偶々大きく育っていた2匹を連れて来たのだろう。

 という事は、巣には未熟な子蜘蛛が沢山居るはず。


 そう考えて、サーチしていたらビンゴ。

 1、2、3、…………全部で27匹。一箇所に固まっているね。



 「うえええええー。27匹もの蜘蛛に囲まれるのかと思ったら卒倒しそうなんだけどー。」


 「まあまあ、それでね、作戦なんだけど。」



 見えて来た。

 森の中に、白い巨大な繭みたいな物が見えて来た。

 糸が森の木々の間に縦横無尽に掛けられ、その中央に大きさが20ヤルトは有りそうな、巨大な白い球体が吊られている。

 半透明な膜の向こう側には、小さな、と言っても人間の子供位の大きさは有りそうな子蜘蛛達が蠢いている。



 「まさか、あの中に入るなんて言わないでしょうね?」


 「え? 入らないと捕まえられないじゃない。」


 「聞くんじゃなかったー。こうなったら嫌だなと考える方向へ方向へと向かって行くよ。」



 ケイティーも既に諦めモードの様だ。

 もし、ここで拒否っても、私が単独で突入するに決まってるので、ここはお姉さんとして見捨てる訳には行かないという、妙な責任感に駆り立てられている。



 「それで、作戦というのは?」


 「あのね、魔導倉庫を使うの。」



 その作戦というのは、魔導倉庫の扉を開きっぱなしにして、片っ端から放り込んでいくという、作戦とは言えない作戦だった。

 ケイティーは絶望している。やっぱり、倉庫の中に蜘蛛を入れないと駄目なのかと。



 「だけどね、心配な点もあるの。生き物って、生きたまま入るのかなーって。」


 「確かめてないの!?」


 「うん、ぶっつけ本番。」


 「却下却下却下ーーー!!」



 ケイティーが腕でバッテンを作って激しく拒否の意を示した。



 「じゃあさ、私が先に突入して見るから、大丈夫そうだったら後から来て。」



 そう言って躊躇無く前で出ようとしたら、ケイティーにタックルされた。



 「行かせないわよ! 一人でなんて!!」



 涙で顔がぐっしょりに成っている。



 「じゃあ、一緒に飛び込もう。大丈夫だって。」


 「うえええええー。こんな事なら、あいつらに騙されて荷物持ちやってた方が良かったよー。」


 「大丈夫だって、それじゃ、魔導鍵出して、飛び込むよ、一、二の、三!!」



 私達は、蜘蛛の糸で作られた膜を切り裂いて中へ走り込むと、直ぐ様魔導鍵に魔力を注入した。

 サントラム学園の校章が開き、魔導倉庫の扉が開く。

 何が飛び込んで来たのかと一瞬動きが止まった子蜘蛛達が、一斉にこちらへ向けて動き出した。



 「ぎゃーーーーーーあああああ!!!」


 「ケイティー、片っ端から倉庫へ放り込んで!」


 「一度入れた蜘蛛は出て来ない? ねえ、出て来ない?」


 「大丈夫大丈夫! 多分、向こうからは出られない様になってるから!」


 「本当に!? 絶対!?」



 私とケイティーはギャーギャー言いながら、目に入った蜘蛛を片っ端から倉庫へ放り込んで行った。

 多分、私が20匹位、ケイティーはその残り。クモ糸の壁も入れちゃったりしたから、繭は所々穴だらけに成っている。

 全部入らないんだ? と思った。

 多分、指定した箇所に繋がっている糸しか入らないんだ。繭は一本の糸で出来ている訳じゃなくて、何百本もの糸で編まれているのだろうから。



 「ふう。ね、大丈夫だったでしょう。」


 「こんなの、偶々だよ! 失敗した時のリスクも考えるべき!」



 うーん、この点に関しては、ケイティーの方が正論。



 「でも、上手く行ったからよかろうなのだ。」


 「倉庫の中で生きているのかなー、ワサワサ動き回っているのを想像したら……」


 「考えない、考えない。」


 「あっ! 倉庫の中に高価なドレスが入ってるー!」


 「ああ、それは私もだ。だ、大丈夫でしょう、きっと。」



 私達は、帰路に着いた。



 「1匹大金貨5枚として、27匹だから、135枚にもなるよ! 一人67枚と小金貨2枚ずつ。大儲けだよー!」


 「えっ? 私、殆ど活躍していないよ。山分けなんて悪いよ!」


 「良いって、良いって。これが上手く行ったという事は、今後の捕獲系クエストは楽勝って事だよ。ヤバイでしょ。」


 「そう考えたら、確かに……本来なら捕獲費と輸送費込でこの価格なんだろうけど、魔導倉庫が広まっちゃったら、価格は暴落しそうよね。」


 「学校が出来るまでは、内緒、内緒。先行者利益だよ。私達二人で荒稼ぎしてやろう!」


 「うふふ。すごい!」


 「あはは、ケイティーは倉庫の出し入れをもっとスムーズに行える様に、練習しておいてね。」



 ケイティーがちょっと考えて、それが凄い事だという事に気が付いた様だ。

 学校が出来たなら、倉庫持ちは引っ張りだこなんだろうな。

 逆に言うと、倉庫を持っていないパーティーは収入減になるのかな? それはちょっと可愛そうかも。

 ちょっとどころじゃなくて、かなりか。


 でも、技術革新って、どの世界でも同じ様な問題をはらんでいるものだ。

 インターネットが出来て、テレビや新聞のニュースが衰退して来ていたり、本の通信販売のせいで本屋が次々と閉店したり、ダウンロード販売のせいでCDが売れなくなったりと、業界を守るためにその技術を広めるなとは言えない。








 王都へ着いて、ハンターズギルドへ行ったら、先に帰った連中が待ち構えていた。

 私達の顔を見るなり、安堵の顔をし、私達を指さして何やらギルドのお偉いさんに訴えている。


 心配してくれていたのかな? と一瞬思ったのだけど、どうやら女の子のメンバーを見捨てて逃げ帰ってきたのか卑怯者と、糾弾されている最中だったらしい。

 クエストを受注したメンバーで、一人欠けて帰ってきた。ハンター証も回収しないで。しかも、その一人はハンターに成りたての女の子。これでは糾弾されても仕様が無いよね。大騒ぎになっていたみたい。討伐隊を編成するかどうかって。


 そこへのこのこ帰ってきたものだから、ハンターズギルド内はちょっとした騒動になってしまった。


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