第6話 ロルフの過去

 登録が無事に済み、身分証を貰って、やっと開放された。


 しばらく歩いて、見送る役人が見えなくなった所で



 「「ふう!」」



 二人でため息を付いた。



 「彼奴等、毎度毎度面倒臭いわい。この老人を未だ働かせようとしよる。」


 「お師匠は引き篭もり過ぎなんだよ。」


 「わしは研究者じゃからのう、人に教えるという事は苦手なんじゃ。」


 「へー、だから私は何時まで経っても魔法が使えないのかー。」


 「それはお前が真面目に勉強せんからじゃ!」


 「へーい。」



 頭をポカリとやられた。あまり痛く無い。



 「それはそうと、お前の出身は、リーンの村と言ったか?」


 「あれ? 言ってなかったっけ? そうだよ?」


 「昔、同じ名前の魔導師の女を知っておってのぅ……」



 何? 思い出に耽っちゃって。



 「んん? お師匠はおばあちゃんを知ってるの? おばあちゃんの名前は、治癒魔導師リーンだよ。」


 「なんと! お前は、リーンの孫じゃったか! あやつは元気にしとるかの?」


 「あー、去年死にました。お師匠の所へ行く様に言ってくれたのは、実はおばあちゃんなんだよね。」


 「なんと……そうじゃったか……」



 え? 何? 何? この落ち込み様。

 何か昔にロマンスでもありましたか?



 「よく見れば、どことなくあやつに似ているような気もするのぅ。」



 私の顔を優しい目でまじまじとみてくるよ、このじじい。照れるぞ。



 「あやつの出身村はなんか違う名前の、なんとか村って言っておった気がするがのう。」



 覚えてないんかい!



 「ああ、それなら、昔はなんとかって名前の村だったらしいけど、おばあちゃんの治癒魔法を目当てに近隣の村や町から人が来るようになって、いつの間にかリーンの村って呼ばれるように成ったんだって。」



 私も覚えていません、はい。



 「あやつもお前の様に魔力量だけは多くての。 回復呪文だけしか使えなかったんじゃが、化物じみた魔力に任せて、1日にに500人とか治療しておったな。」


 「戦場では聖女と呼ばれていたんでしょう?」


 「いや? 暴力の天使とか、荒ぶる妖精とか呼ばれておったな。」



 話が違う。



 「何しろ、殴って魔力を注入する独自方式じゃったから、皆目の周りに青アザ作っておったよ。強く殴る程、回復量が多いとか。」



 ああ、それは知ってる。私も喧嘩して帰ってくると、相手の子と一緒によく鉄拳制裁されてた。

 あれは、怪我を直してくれてたんだと後で知ったけど、当時はとてつもなく怖かったよ。



 「あやつの力は、前線のパーティー向きではなかったのでな、後方支援へ回しておったんじゃが、邪竜との最終決戦では命の危険があったでな、わしが田舎へ帰した。」



 ほう、初耳。

 てか、同じ部隊に居たんだ。



 「邪竜との決戦前夜に、どうしても一緒に連れて行ってくれと泣いて駄々を捏ねよってな。わしも苦渋の思いで一晩中説得を試みたのじゃが……結局は追放みたいな形で追い帰す事に成ってしまって、去り際のあやつの顔は今でも忘れられん。」



 一晩中ねえ……

 しかし、私もあのくそばばあの泣き顔は見てみたかった。



 「しかし、村へは無事に帰り着いて、結婚して、幸せな生涯を送った様じゃな。」


 「……」



 ばあちゃんは生涯独身を通したんだよ。

 村へ辿り着いた時に身ごもっていた事に気が付いたらしいけど、相手が誰だったのかは生涯口をつぐんでいたらしいよ。

 だけど、これは言わぬが華かな。


 ね、おじいちゃん。



 「なんじゃ?」


 「なんでもない。あっ、肉屋」






 肉屋でロックドラゴンの肉を買い取ってくれるかどうかを交渉した。

 お師匠が書架から小さい方の一頭を取り出すと、店主はびっくりしていた。

 書架とかいう謎魔法もそうなんだけど、お師匠ならそれくらいの魔法は持ってても不思議ではない雰囲気はあるみたい。


 それよりも、傷跡が一切見当たらない、完璧なロックドラゴンに店主は驚いていた。



 「まさか、死んでいるのを見つけたんですか? 病死だと、食肉にはならないんですが……」


 「まさか、ちゃんとわしらで仕留めたんじゃよ。」



 そして、もう一頭取り出す。



 「こっちが、こやつが仕留めた物じゃ。」



 肉屋の店主はしばし考えた後で



 「一体、どんな魔法で?」


 「秘密じゃ、と言いたいところじゃが、口の中を覗いて見てみなさい。」


 「ははあ、成る程、口から槍か何かを突き入れたんですな。」



 そして、再び考え込む。



 「口から心臓を一突きですか。でもこの方法だと血抜きが上手く出来てないかもしれませんが……」



 おう、そこまで考えてなかったよ。狩猟の専門家じゃ無いからね。



 「ロルフ師たってのお願いですから、なるべく高く買って差し上げたいのは山々なんですが……」



 ああ、値切りたいのね。

 どうしようかと、お師匠の方を見ると



 「そうか、いきなり来て無理を言ってすまんかったな。」



 いきなり2頭を書架に仕舞いだした。

 そしたら、店主は慌てて



 「ちょ、ちょっと待ってください。そうじゃなくて、今店にはそんなに大金は置いてないんですよ。」



 なんでも、ロックドラゴンを一頭丸々買い取った経験が無いので、いくら位になるのか頭の中で計算していたらしい。



 「体内の状態が良く分からないので、試しに一頭だけ、……そうですね、小さい方だけを買い取らせて下さい。それでこちらで解体して、使える部位を判断して、金額を試算してみたいと思います。」


 「ああ、それでも良いよ。では、2頭とも置いて行くから、後日もう一度寄りますわい。」



 お師匠は、店内の熟成庫に2頭を出すと、預り証を書いて貰って店を出た。

 手付に前金として、ダルク大金貨25枚を手渡された。

 はっきり言って、これだけでも私が想像していたよりも倍位多かった。

 なんか、儲かっちゃった気がした。



 「ロックドラゴンの肉は希少じゃからな。貴族等が高く買うんじゃろう。」



 あの店の店主は良心的なのかもしれない。

 最も、大賢者ロルフに対して詐欺を働いたなんて噂になったら、死活問題なのかもね。


 大金貨一枚で大人一人が節約すれば、一月は暮らせる。

 今度は、宿を何処にしようか。


 すぐ近くの安宿に行ったら、断られた。

 あの、ロルフ師をこんな所へは泊められませんって事らしい。

 支配人に案内されて他の所へ案内されたのだが、なんとそこは国賓用の迎賓館だった。

 たまげたー! お師匠の名声って凄いんだね!


 いやいやいや、こんな所落ち着かない。

 あなたの宿に泊めて下さい。



 「いやいやいや。」


 「いやいやいやいや。」


 「いやいやいやいやいや。」



 何度も押し問答の末、支配人は渋々泊めてくれる事に成った。

 あんまり断って、機嫌を損ねるのも困った事になりそうだと判断したらしい。



 「この宿の最上級の部屋で御座います。」


 「普通の部屋が良いんじゃがのう……」


 「勘弁してください。」



 支配人は泣きそうな顔で訴えてきた。



 「ほらもう、支配人さん可愛そうだから、もうこの部屋に決めようー。」



 私がそう言うと、支配人は安堵した様に笑顔を見せた。

 料金は、一人ジェーン小金貨2枚だそうなので、とりあえず2人で7日分を支払った。



 こちらの通貨単位は、アンドラ小銀貨(銀貨の肖像になった女性の名前らしい)4枚でロマーナ大銀貨1枚、大銀貨6枚でジェーン小金貨1枚、小金貨4枚で、ダルク大金貨1枚という事になっている。

 大金貨ダルク1枚が、およそ10万円相当な感じがしたので、小金貨ジェーン1枚は2万5千円相当、大銀貨ロマーナは、4千2百円位、小銀貨アンドラは、千円位という感じだ。

 その下に銅貨リリーナもあって、やはり6枚で小銀貨アンドラ1枚という事なので、銅貨リリーナ1枚でおよそ170円位な感じ。

 銅貨1枚で黒パンが2個買えるので、よく子供が子守や留守番のアルバイトをして、銅貨1枚とか2枚とか貰っているよ。



 ロックドラゴンの前金が、約250万円相当になったので、私の想像よりもかなり多かったというのはご理解いただけたと思う。

 この部屋の料金が一人およそ1日5万円という所から、そこそこ良い部屋だろうと言うのも想像出来るのではないでしょうか。


 さて、今日は森の中を歩いて来て疲れたので、夕飯を食べてお風呂に入ったら寝てしまおう。

 お買い物は明日から。


 風呂上がりに、明日の予定をお師匠と打ち合わせする。

 まず、金属製品を買うのに、武器屋、生活雑貨屋、農機具屋、鍛冶工房、錬金術工房、なんかを回ってみる予定。

 それから、時間が有ればお師匠の学校の魔法科の見学。

 あれ? 私に余計な知識を入れたくなかったんじゃなかったっけ? と聞いてみた所、なんか、もういいやって感じになっちゃったんだって。

 まあ、私は独自路線を突っ走りますよ。


 ところで、お風呂での描写が無いけれど、なんとも無かったのかって?

 よく、男の魂が女の子に入ったり、男と女が入れ替わっちゃったりする漫画やドラマがあるでしょ。

 そして、自分の裸見て、うひょーって興奮したり、鼻血ブーとかいう描写はよく見るけど、そういうの全然無いからね。


 何故なら、というか、私の場合は、12年間女として生きてきた記憶も有るわけで、私がいかに美少女だとしても、自分の裸を見て今更興奮なんてしませんて。

 私が思うに、あれって、男女の意識に関係無く、単純に体の生理的反応が脳の思考にフィードバックされている反応なんじゃないかと思うわけね。

 という事は、去勢された猫とか宦官とかが、性的興味を失ってしまう様に、例え思考ベースが男であろうと体が女である以上、女が女の裸を見たとしても性的興奮事態が引き起こされないのでは、とか考察してみる。

 もしかすると、将来、私が男を好きに成る事があるのかな?

 なんか不思議な感じがする。

 

 では、また明日。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る