第4話 作戦会議
「今日の反省会ーーーー!!」
お師匠と私は、家に帰ってから魔法の威力向上の作戦会議をすることにした。
チーム「魔導攻撃力向上委員会」の委員長は私、ソピアが務めさせていただきます。
「わしは?」
「お師匠は、相談役ね。」
「それだと、会員がおらぬではないか」
まあ、そのへんはおいおい考えていきましょう。
まずは今回の反省会から。
1.碌な用意もイメージも無しに、ぶっつけ本番だった事。
2.危険予測、ヒヤリハットを十分に考えていなかった事。標語『0災でいこう!』。
3.敵の習性、生態は十分に頭に入れておこう。『敵を知り己を知れば百戦危うからず』。
「まあ。こんなとこかな」
1に関しては、とりあえず試してみた程度なので、今回は良しとしましょう。
2と3に関しては、相手を舐めてかかったせいで大怪我をするところでした。
これはお師匠も同罪です。しっかり反省をしましょう。
「んあ、まあ、すまんかった。ロックドラゴンは意外と脳が小さくて、目の間を撃ち抜いた程度では重要な器官にダメージを与えるには至らなかった様じゃ。」
「そこに関しては私も同罪なので、不問といたします。」
さて、本題に入りましょう。
「魔導による攻撃力を上げるにはどうすれば良いか、です。」
「それはやっぱり、炎熱系の魔法とか、氷雪系の魔法とかの属性魔法を覚えて、敵の弱点属性を攻める、かつ、魔法此処の威力を高めるしか無いんじゃないのか?」
「はい、そこ! そこです!!」
私は女教師のように伊達メガネを掛けて、指し棒を片手に黒板をパンパンと叩いた。
あ、黒板とかチョークは私の知識を元に、有り物で作成しました。
黒板は煤で黒く塗った板。チョークは、石膏で作りました。
「私は魔導による攻撃力は、魔法の属性には依存しないと考えています。今回の実験は、それの証明実験でもあります。」
つまり、弱点属性を突いてチマチマ削るよりも、十分に強力な打撃力を打ち込めば、丸っと解決でしょって事。
「うーーん、言いたい事は解るんじゃがの、それでもその打撃力に属性を乗せれば、更に威力は増すじゃろう?」
「いえ、オーバーキルレベルの物理打撃力を打ち込めば属性など関係無いです! 鍵になるのは、力では無く、質量と速度だと断言します。」
「そんな事が出来るのは、馬鹿力魔力のお前さん位なもんじゃろうて。」
某拳法漫画では、スピードが速いだけは雑魚扱いされていたけど、実際は運動の第二法則で
【F=ma】
となっています。(力)=(質量)×(加速度)という意味です。
力の大きさは、質量と加速度を掛けた大きさである。という公式。
「魔力をゴムの様に使うイメージで、弾体を打ち出す実験をしました。」
「はい先生。ゴムとはなんじゃろうか?」
「あ、こっちにはゴムが無かったの? えーと、こう、弾力のある素材で、引っ張ると勢い良く戻る性質があって、南方に生えているゴムの木という木の樹液に酸を加えて硫黄と……ゴニョゴニョ」
「それは、バネみたいなものじゃろか?」
「あー、そうそう、バネみたいな弾力の有る素材で、って、イメージはバネでいいや。」
魔力操作は概念的なイメージで行うものなので、ゴムを知らなければバネでも全然問題無いです。
速度さえ十分に速ければ、人間の指程度の大きさしか無いライフル弾で象をも倒せる所以です。
僅か数ミリサイズの宇宙デブリで人工衛星が破壊されてしまうのも速度が速いから。
どんなに小さな弾丸でも、十分な速度があれば、たとえ魔王でさえも倒せる事でしょう。
「本気か、こやつ。」
おや、お師匠は呆れ顔ですか?
「しかし、面白い、実に面白い。」
ガ……某天才物理学者か!
まあ、このじいさんもこっちでは天才魔導学者なんだけどね。
私の新しいアプローチは、さぞ面白かろうて、ふっふっふ。
さて、こっちの世界には魔法が実在する。
それを利用して、あっちの世界の道具を再現できないか、が私の命題であります。
大賢者ロルフ師の知恵を借りて、なんとか形にしていこうと考えております。
パチパチパチ。
拍手、そしてご清聴有難うございます。
さて、考えるのは明日にして、お腹が空きました。
おや? こんな所にロックドラゴンのお肉があるぞ?
これを今夜の晩餐にすることにしましょう。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「アサーーーーーー!!!」
頭に日の丸立てた変な鳥では無い。
今朝の朝食は、昨日の残りのお肉で作ったスープです。
食卓でお師匠と食事をしながら、今日はどうしようか相談をする。
「私は町に下りて、ちょっと弾丸の材料を買いに行きたいのですよ。」
「じゃがー、家には大した金は無いぞ?」
「そっかー、何か売れるものは無いかな?」
「山で採れる山菜とか珍しい肉なんかが有れば高く売れるんじゃがのう」
「本は?」
「絶対ダメ! 知識の切り売りなぞ、以ての外じゃ。魔導書が大事な物なのはソピーも知っておるじゃろう。」
「でもさ、ここに有る本は全部お師匠が書いた物でしょう? 書いた本人が持っててもしょうがないじゃない。本とは、知識を人から人へ受け継ぐ物なんだよ? 人に読まれなければ意味無いじゃん。」
正論である。流石のお師匠もぐぬぬと言わざるを得ない。
「しかしのう・・・実は、アレはあまり表に出したくは無いんじゃよ。」
え? 何か禁呪でも書いてあるの?
「それも無い事は無いんじゃが、今一定の秩序を構築した今の魔法界にちょっと混乱を齎すと言うかー……」
禁呪ってあるんかい!
それにしても、なんか、歯切れが悪いな。
「え? 知らない。私、お師匠以外の先生知らないし。」
キョトンとした。
お師匠の魔導って、他の人の使う魔法と違うの?
「いや、違うというか、わしの魔導はもっと根本理解から始まる魔術でな、今の魔道と比べると、ちょっと過激というか、危険な術も含まれているんじゃ。」
「はあ? じゃあ、私が魔法を使えないのは、お師匠の魔導が特殊だからって事なの?」
「いや、わしの魔導を極めれば、もっと魔法を自由自在に発動出来るようになるのじゃが……うむ、例えばのう、剣術を習うのに型から入るじゃろう?……」
お師匠の言う事を要約すると、俺、京介の方の世界で言う所の剣術と剣道、柔術と柔道みたいな相違があるという。
『術』の方は、殺人術。『道』の方は、スポーツな訳だけど
例えば、古武術等は人体の構造を理解し、何処をどうすれば効率的に人体破壊出来るか、血液の流れ、筋肉の動き、力の流れ、気の流れ、人体はどの様にバランスを取って成り立っているか、どうすればそれらのバランスを崩す、または壊して、人を効率的に殺す事が出来るのか、という事を究極に突き詰めた学問であり技術。
それは、武術であり、医術であり、人体工学である、人体構造に対する総合的な学問・技術であるのに対し、現代武道は、その何故そうすればこうなるのかという根本理解、理屈は知らなくても技を発動出来る様に、エッセンスだけを抽出した、【型】というものを体に徹底的に覚え込ませる事によって、上達者と同等の強さを得られる様に考え出されたもの。
そこには危険な技、それに伴って知らなくても良い動きは徹底的に排除され、誰もが習うことの出来る安全なスポーツとして確立されている。
つまり、お師匠の魔道は、原初の魔法であり、危険で強力、かつ習熟が極端に高難易度という物なのだという事らしい。
習熟が高難易度であるならば、もしそれ極めれば市井の魔道士など敵では無い程の威力を持つ事が出来るという事。
その術を伝授するからには、お師匠のお眼鏡にかなった人物である必要が有るという事。
お師匠の魔導には、決まった呪文の詠唱は無い。
炎とか氷とかいう、所謂属性という物も無い。
エネルギーの流れや7次元空間(俺の知っているこの世界の4次元空間の他に3つの方向の概念を示すので、俺の脳内変換で勝手に7次元空間と呼んでいる。)の把握と知覚、そしてその構造の理解。
難易度高けー!
こんな事なら町の魔法学校にでも通った方が遥かに楽だったかも。
でも、実に面白い。
「で、私は合格というわけなんでしょう?」
「うーーーーーーーーん……」
なんだよー、もう!
「ソピーよ、お前はな、魔力の量は大したもんじゃ、わしの現役時代を凌駕しておる。
そして、未だ余計な常識に汚染されておらぬからな。
一から鍛えるのに最適な器と見込んだのじゃ。
ゆくゆくはわしの後継者にと……」
「いや~それ程でも~」
思わずニヤける。
「考えておったんじゃがのぅ……とんでもない知識汚染が異界から降って来おった。」
え~~~~~、あれは事故みたいな物じゃん。
「あ~~~……もう駄目なの?」
私はがっかりしてそう聞き返した。
「駄目という訳では無いのじゃがー、うむ、魔法の無い世界からの知識の様じゃし、事無きを得た?」
よっぽど他の魔法の知識は邪魔になるみたいだね。
「逆にお前さんの知識にわしは興味津々なのじゃが?」
私をエロい目で見るんじゃねーよ、くそじじい!
「誰が見るか! 半人前の糞ガキめが!」
「まあ、良いです。お互いに知識を交換しましょう。ギブ・アンド・テイクだ。」
「うむ、『ギブ・アンド・テイク』が何かは解らぬが、取引は成立じゃ。最短ルートでワシの知識の全てを叩き込んでやるぞ。厳しく鍛えるから覚悟せいよ。」
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