センター試験の帰り道とチョコレート色のコーティング

第14回(10月1日~)

お題・茶色 ・金木犀 ・少しだけ寒くて、 ・用意したはずなのに ・「すっかり忘れてた」







 金木犀の香りも消えて、すっかり冷め切った空気の中。暗闇の中、茶色い葉っぱを踏みしめて、誰もいない道を行く。

 真っ直ぐ、真っ直ぐ。

 吹き抜ける風は少しだけ寒くて、でも働き疲れた脳は暑さを帯びていて。まだ冷たいという感覚が残った手を、ポッケに突っ込んだ。指先が、こつんとまあるい何かに触れる。掴もうと弄ると、クシャっと音を立てビニルが擦れた。

 温もりを捨て、三本の指でそれを拾い上げる。つんとした風の中、照明に照らされた球体は、チョコレート色のコーティング。

「……すっかり忘れてた」

 ぽいと口に放り込んだ。体温に染まったそいつは、ころりころりと舌の上を跳ね回り、歯とタッチしてはカツンと言った。

 そうして幸せに満ちたなら、じわりじわり、外側が溶けていく。名残惜しそうに、舌に甘味を押し付けて。最後はサクリ。歯と歯が出会って、そいつは消えた。

 舌は喪失を悲しむように、余韻をずっと引きずってくる。甘い温もりは影を変えない。唾で甘味を洗い流してやると、あとに残るのは酸味のような舌のざらつき。すっぱさと苦さの中間で、口の内は再びのそいつの訪れを待つ。

 仕方ないな、とまたポッケを弄る。カサッと空虚な音がした。

 帰り道で無くならないよう、用意したはずだったのにな。

 すっぱい唾をごくりと飲み込んで、また歩を速める。

 明日の朝も、きっと早い。

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