自殺から始まる契約改革(プロトコルカタストロフィ)
姫宮未調
プロローグ
弱い自分とさよなら
━━肌寒い樹海、新緑に見惚れたら最後、似た景色に惑う。
まるで神秘の森。キレイな緑の葉や苔が出迎えてくれる。
自殺のメッカと言われたこの場所も、GPSがあるこの時代では、自殺目的以外の人たちも訪れる。
他殺や死体探索など。
まさに
異臭は死体に誘う薫り。
臭いを辿った先、臭いの途切れた場所に死体があるそうだ。それ自体には臭いがないのだという。
そして今、新しい死体が生まれようとしていた。
疲れ切った表情の少女がフラフラと。
手には縄のみ。
歩けなくなるまで彷徨い、近くの手頃な枝に輪っかを作りながら結いてゆっくり首を通す。
ゆっくりと自らも力を入れて締めていく。
両親はとうに他界。
頼れる者はいない。
産まれてから1度だって幸せなんかなかった。
見事なまでに小中高は生粋のいじめられっ子。
古典的な靴に画鋲から始まり、トイレには閉じ込められ、教室に入ると頭上からチョークたっぷりの黒板消しが落ち、机にはご丁寧に花瓶に入れられた菊の花、うっかり座れば牛乳雑巾を下敷きにし、放課後呼び出されればサンドバック。
別にブスでもデブでもない彼女は、これまた典型的に、大人しいからとターゲットにされ続けた。
階段から突き落とされて、運悪く骨折して松葉杖。
焼却炉までゴミを捨てに行けば頭上から植木鉢を落とされ、見事ヒットして入院。
あるあるオンパレードも、度を越していく。
何故そうなったか。
"泣かなかった"からだ。
泣き叫べば相手は軽度で満足した。
子どもだから。
しかし、彼女は耐える選択をしてしまった。
だから相手方は境界線の境目があやふやになり、後に引けなくなる。
子どものときにつけた優劣では大した大人になれないだろう。
一時的なストレス発散だから許される? 耐え続ければいづれ終わる?
優しければいいのか? 見て見ぬふりをし、関わらなければいいのか?
すべて不正解だ。
子どもの頃のこういった行動は、大人になっても取ってしまう。
性格は子どもの頃に作られる。
子どもの頃に起こした行動は成長とともに無意識下で繰り返してしまうもの。
更に進化した形で。
ならば悪いのはどちらだ?
いじめられっ子が悪いのか?
いじめっ子が悪いのか?
正解は、どちらも悪い。
いじめられっ子は耐え続け、相手が諦めなければ諦めてしまうから。
いじめっ子はただ自分が愉悦に浸りたいから。更に、自分がターゲットになりたくないから。
抵抗すれば悪化するから怖い?
抵抗されるとムカつく?
ならば、何が正解か?
必要悪の需要高まるこの世界に、必要正義なるものはない。正義感は偽善と罵られるのが関の山、身を滅ぼすだけ。
それが現実。ならば、ならば目には目を、歯には歯を。
━━悪には悪を。愚者には愚者を……。
どこにも正解などない。
……微かに何か鼓膜を振動させる。
━━力の抜けた制服の内ポケットから、ゆっくりと白い物がぱさりと落ちた。
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