ランダムお題ショート
麻倉葉月
第1話 パピコ連星
パピコは不完全な食べ物だ。一本を食べている間、もう一本をこぼれないよう馬鹿みたいに握りしめていなければならない。欠陥があるとしか言いようがない。
「それ、もらっていいですか」
そう声をかけられて、誰かがいればその限りではないということに気づいた。
こうして俺は帰り道にパピコをはんぶんこする相手に恵まれた。巨大なリボンをつけた彼女は俺がコンビニでパピコを買うと必ず現れ、俺のパピコを半分奪い、家までの帰途、パピコを食べきる間だけ話をし、そして去っていった。パピコを買わない日に彼女を目撃したことはない。いかにして俺の動向を察知しているのかは皆目検討がつかない。
ご想像の通り俺は彼女に対してパピコ以外のものもはんぶんこしたいしできたら彼女のこともちゅーちゅーしたいという下卑た願望を抱いていた。だが、彼女はプライバシーに関する情報を巧みに回避し、「一番強い念能力はなにか」とか「まんがタイムきららのキャラクターを使ってスマブラみたいなゲームを作りたい」とか、そういうしょうもない話題をこちらに振ってくる。困ったことに俺もそういう話題が好きなので、気づいたときにはパピコの殻を残して彼女は消えているのだった。希望的観測を何度繰り返しても、彼女が俺に対してパピコ半分以上の価値を見出しているようには到底見えなかった。
そうして夏が過ぎ、秋を経て、冬になった。パピコの季節は終わった。
「シリウスというのは本当は連星らしいです。強い光は複数の星で出来ているのです」
珍しく理知的な会話をしながらパピコをくわえる彼女を見て、自分が今から言おうとすることを反芻していた。複数の星が一つの光を作る→一つになりたい!という思考回路に至ったのは俺の頭が沸騰しているからで、連日のパピコ猛勢によって体調はボロボロであった。だから、次の一言が出てきたのだろう。
「さむいから、おれのへやにこないか」
彼女は俺の顔をじっと見つめてきた。パピコは口にくわえたままで、いつものリボンだけが風を受けて動いた。
「いいですよ。でも、」
もういいんですか?
言葉の意味に気づく前に、雪が一つ落ちてきてた。
目を奪われて一瞬、気がつくと彼女の姿はなかった。あとにはパピコを2つくわえ、巨大なリボンを頭につけた俺が残されていた。
お題:シリウス・通学路・多重人格者
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