夏への写真

君は誰かの写真を見たことがあるかい?

写真というのは、いつも出来損ないだ。皆、ヘンな表情で映っているしね。むすっとしてるか、ヘンに笑ってるか。

ま、ほとんどの写真は酷い顔で映ってるって事だね。

なにかを写しているようで、その実なにも写していやしない。

これは僕の話なんだが、僕はある写真を持っている。

この写真に映っているのは僕と海だけなんだ。

この写真を見ると、僕の心はあの時へ帰る。

おかしいだろ?僕がこんな笑った顔でセルフィーが出来る人間だと思うか?



これは、僕の話だ。



他の誰かの話じゃない。





去年の話だったかな。

僕はビーチに来ていたんだ。99だとか、なんだとか。そういう大きな数字がついてるわりには、そこまで広くない場所だ。

そこである女の人と知り合った。

麦わら帽子に、白のシャツだったかな?ドレスっていうのか知らないが、それはもう肩から足首まで伸びる奴さ。

白くて、綺麗で。




その日は、どこまでも続く青空と、照りつける太陽、そしてちょっとしたアクセントみたいに雲が流れていた。カモメが飛んで、消えていく青い空だ。

まるでカメラで撮った写真みたいに、空に光の線が射し込んでいるような気さえした。

その日、僕はコンクリートのどこかに座ってぼーっとしていたんだ。

海で泳ぐのも、砂浜で砂まみれになるのも好きじゃないしね。

なぜビーチに来たかって、会社で嫌なことがあったからさ。

ただ上司の野郎をサファリパークに裸一貫で放り投げてやりたかったのに、どうしようもなかったから、ただ座っていただけなんだ。それはもう、とんでもなくひっくり返りたかった。まるでハムスターの砂浴びみたいにね。



そうしたら、桟橋の方の先に、ある女の人が立っていた。

そいつは、白い服に麦わら帽の少女だ。

背中だけを僕に向けて、ずっと立っていた。白い背中に、長い黒髪がかかっていて、髪の一本すら見えるみたいに、やけにくっきりとしていた。

いくらか躊躇していたんだ。ま、お察しの通り僕は恐がりだからね。

でも、まるで話しかけて欲しいような背中をしていたから、僕は話しかけたんだ。


「君は、ええっと」


なにも思いつかなかったから、それで僕は黙ってしまったんだ。僕はしどろもどろして、ただ黙っていた。


それで、彼女は振り返った。

太陽みたいに笑って、こう言った。


「わたしは、向日葵」




それで、いちころさ。

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