僕が卒業できないのはどう考えてもこの女と大学が悪い!

 僕が朝起きた時、聞いた音はなんだったと思う?

 それは、ギターの音。

 この部屋には、僕以外住んでいないはずだったのに。だから、音の原因を探しに行った。

 もちろん、誰が出しているかなんてわかっていたけど。

「あのさ、今何時かわかってる?」

 僕はそう言って、部屋の扉を開けた。

 髪は真っ黒、腰まで伸びた髪の毛、LONDONと書かれたシャツ、近くに脱ぎ捨てられた黒の革ジャン。まつげはマスカラで真っ黒。そういう尖った硝子みたいな、美人の女だ。

 弾いてるのは聞き慣れたUKロック、それも一昔前。

「昼の一時」、ぶっきらぼうな低い声。

 僕は額に手を当ててから、上へ押し上げた。

「なんてこった」

最悪だ。二限を余裕で逃した。

「長野、今日どこ行く?」

「いや、授業でようよ」

「うるせー」

「は?だから先輩六年生なんでしょうが。八年生以上にはなれませんよ?4留して退学って最悪でしょ」

「あんたも五年生になったでしょ。あたしと地獄まで付き合ってもらうけど」

「いや、勘弁しろよ・・・・・・」

 先輩の名前は、星野南。

 僕が大学の単位を落とし続け、永遠に卒業できないような気分の原因の8割がこの女のせいだ。残り二割はクソ大学のせいだ。

 僕の名前はちなみに長野っていう。

 昨日も星野はギネスビールを飲んで、ライブハウスでロックを弾いてきた後、うちでも弾き始めた。

 ガールズバンド、ロンドン・ボンバーのリーダーのボーカル兼ギターだ。酷い名前のバンド。酔った勢いで決めて、引き返せなくなったらしい。

 弾いてる曲は、UKロックばかり。しかも、古い。

 ギブソンのエレキでどんじゃかやっていて、僕はライブに強制参加だ。僕は音楽なんてかけらもわからないけど。

 いつもマネージャー役でこき使われて、飲み会では一番飲まされる。

 アルハラって言葉を知らないんじゃないかな。

「じゃ、今日はスコットの車で三重の長島まで行こ」

「は?全ぶっちする気?」

「あたぼうよ」

 星野はからからと笑って、ギターを置いた。スコットは、浅野真央のことだ。北海道出身だから、イギリスの北海道みたいな場所の、スコットランドとかけてスコット。星野は東京生まれだからロンドン、後は港区出身のリヴァプール、通称リバー。サッカーのチェルシーFCというクラブが好きなチェルシー、通称チェリー。星野に服を捕まれて、家を引きずり出された。

 昨日酒で寝落ちしたから、用意はしなくてもよかった。

 外に出て、下を見ると、スコットのワゴンが止まっていた。

「もう行けるー?」

 浅野はワゴンの横からこっちを見ていた。

「おう!今日は長島で遊ぼうぜ」

「いいねー。今日は講義全部サボるよ」

 何を隠そう、スコットも六年生であったのだ。リバーもチェリーも六年生。どうなってんだ一体。

「そう来なくっちゃ」

「ちょっと!?ねぇ大学行こうよ!マジで」

「えー。でもうちら皆必修取ってるし後遊びだからいいじゃん」

「そういうこと。まだ法学の必修でくすぶってるあんたと違って、うちらは経営だから全部楽勝ってこと」

「ふざけんなお前!元はと言えばそれのテストの時あんたらがうちでギター弾きまくってたからだろうが!」

「へへ、絶対あたしより先に卒業させてやんないからね」

 星野が鼻を指でこすって笑った。

「いや学費がかかるんですけど!?」

「は?あたしらで出してやるよ。あたしら金持ちだし。FX最高-!」

 そして、二階から飛び降りた。

「おいおい、嘘だろ!?」

 急いで下を見ると、もうしっかりと着地を決めている。

「早くしなよ、長野。時間は待ってくれないよっ!」

 星野が言うと、車からリバーとチェリーの声も聞こえはじめた。

「しょうがないな、先輩達は」

 そう言って、僕は階段をゆっくりと下りた。

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