ガリアの騎士見習い

ある王国の都に騎士見習いの少年が住んでいました。少年は細くて小さく、女のようだと馬鹿にされていました。少年の剣のうではからっきし。他の見習いにも負けてばかりでした。今日も少年は負けて、とぼとぼ都を歩いていると、美しき少女を見つけました。

「ああ、美しい人だなあ」

少年は呟いて、少女の後を追いかけていました。

そうしていると少女が柄の悪い青年達にぶつかっているのを見ました。青年達は少女を押し飛ばしました。

「おい、姉ちゃん。かわいい顔してるね。ちょっと一緒に来てもらおうか」

青年は短剣を抜きました。

少年は少女を助けるかどうか悩んでいました。しかし、少年は短剣を抜きました。

「その手を離せ」

青年達は笑いました。

「手も声も震えてるぜ」

そのとたん、少女が放った緑の光が少年に当たると、少年は体がとても軽く感じました。

手と体の震えも止まり、跳ねるように歩き始めました。

少年は軽々とあしらい、青年達は倒れています。

「衛兵が来る前にここを離れよう」

少年と少女は少し離れたところで、休憩しました。

「ありがとう。助けてくれて」

「それよりも、あの緑の光はなんだったんだい?からだがうそみたいに軽かった」

「あれは、強化の魔法なの。わたし、魔法は下手だけど」

「魔法?魔法って、王家の人しか使えないんじゃなかった?」

少年は驚きました。魔法は秘術として禁忌の扱いを受けていたのです。

「そうなの。わたし、ルイーズ。王女よ」

少女は王家の証である首飾りを見せました。青い宝石にライオンの模様が刻まれています。

少年はすぐに驚いて、膝をつきました。

「ははぁ、王女様。これは失礼を働いてしまいました。どうかお許しを」

「やめてよ。きょうはただの町娘として歩いてるんだから」

「わ、わかりました。王女様。普通にしてればいいのかな?」

「うん、それでいいよ。あなたの名前は?」

「ただの王立第三学校にいる騎士見習いだよ。シャルルっていうんだ」

「シャルル、いい名前ね。今日は街を案内してくれるかしら。シャルル」

二人は楽しく都をまわりました。夕日が沈む頃、ルイーズはシャルルに手を振りました。

「じゃあね、シャルル。また今度」

「さよなら、ルイーズ」

シャルルは家に帰った後も、ずっと王国一の美少女と呼ばれているルイーズのことを考えてほほえんでいました。少年は恋に落ちたのです。

ルイーズも、シャルルのことを考えていました。シャルルはどの王族よりも美少年でした。そして、シャルルのすがたにときめいていました。

ルイーズは、騎士団長に求婚されていたのですが、ルイーズはシャルルの方が好きでした。

次の日、ルイーズは騎士団長ピエールにまた求婚されました。

「ルイーズ様。どうかこのピエールめと結婚してください」

「いやよ」

「なぜあなたは断り続けるのです!」

「心に決めた人がいるのです」

「誰ですか」

「シャルルよ」

「どこのどいつだ」

ピエールははげしく怒りました。ピエールは戦争の英雄でした。彼は戦争に行っていなければ、きっと大量殺人鬼になっていた、恐れを知らない無慈悲な最強の男です。

ピエールは、戦争で敵の王子が使っていた、魔法がほしかったのです。そしてピエールはこの国の王になり、大陸を征服し、東へ、南へ、異教徒の地へ進みたかったのです。

ルイーズはシャルルに迷惑をかけてしまうことに気づき、後悔しました。

ピエールはルイーズをつかみあげました。

衛兵を呼んでも、ルイーズと衛兵はまたたく間に殺されてしまうでしょう。

「王立第三学校の騎士見習いのシャルルです」

ピエールはルイーズを離すと、顔を真っ赤にしました。

「あのやろう。おれのおいを傷つけた上に、国と魔法と姫まで俺からとるきか。決闘だ!殺してやる」

街の青年は、ピエールのおいだったのです。もうピエールはかんかんになって、剣をふりまわしました。

その次の日、シャルルは学校にピエールが来ていたのを見ました。

「シャルル!シャルルはいるか!」

「は、はい。ここにいます」

シャルルはピエールを尊敬していたので、おどろきました。ピエールはシャルルに手袋を投げつけて、戦争用の大きな剣を抜きました。

「私のおいを傷つけ姫様を惑わし国を滅ぼそうとした貴様に決闘を申し込む!昼に、どちらかが死ぬまでだ」

シャルルはふらつきました。ピエールは敵の精鋭・黒色騎士団20人を切り伏せた大陸最強の男です。シャルルがかなうはずもありません。シャルルは学校の屋上で遺書を書き始めました。

そうすると、後ろから少女が声を掛けました。ルイーズです。

「シャルル、ごめんなさい」

「いいよ。今までありがとう」

シャルルはかんぜんに死ぬ気でした。

「魔法とこれを使えば、勝てるかもしれないわ」

ルイーズは袋に包まれた大きく長いものを持っていました。

シャルルとルイーズは話し合い始めました。

そして昼になり、ピエールは校庭で待っていました。

「逃げていたら、殺しているところだった」

シャルルは剣を抜きました。緑色に光っています。剣先から更に緑色のものが伸びている戦争用の剣です。

「それは、王家の剣デュランダル!だが、貴様には扱えまい」

ルイーズがシャルルを魔法で緑色に光らせました。合わせて普通の騎士の30倍は強くなりましたが、これでもまだピエールには及びません。

シャルルとピエールが戦い始めました。剣と剣がぶつかりあっています。

シャルルは押され始めました。シャルルがピエールの蹴りで倒されたとき、ピエールはとどめの一撃を放とうとしました。ルイーズはピエールの目に石を魔法で飛ばし、ピエールは一瞬止まりました。シャルルは緑色の剣を更に伸ばし、ピエールの足を斬り払いました。

ピエールは倒れました。

ルイーズとシャルルは喜んで、手を取り合いました。最初から、この予定だったのです。

ピエールは病院で一命を取り留めましたが、団長は引退することになりました。野望も潰えたのです。

数年たって、シャルルはルイーズと結婚式を挙げました。

「ルイーズ、きみは世界で一番美しいよ」

「シャルル、あの時あそこでわたしを助けてくれなかったら、わたし、ピエールとこうなってたわ」

「そんなことにならなくてよかった。きみのことは、ずっと幸せにするからね」

シャルルはルイーズを抱き上げて、魔法で空を飛びました。

それはそれは豪華で、大陸一の幸せ者と呼ばれたそうです。

シャルルは王になり、ルイーズはきさきになりました。戦争は無くなって、ずっと平和で豊かな世がつづいたそうです。

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