初雪
今年初めての雪。
今日はベッドから出るのを諦めてしまおうかと思ったほど。初めての雪にしては、深い海みたいに降り積もっている。
雪を蹴って、足を取られて、転んでしまった。
転んでしまった後、灰色の空を見上げた。笑えてきて、そのまま自嘲するみたいに笑った。
凍ってしまいたい。そうしたら、フランダースの犬みたいに、皆が笑いものにしてくれるでしょう。
自分で自分を笑いものにするのをやめて、立ち上がった。
私は歩かないといけない。
この坂の向こうまで。
いつもの部活。
教室の片隅で、静かに本を読む。
窓の外で、雪がまばらに降っている。
なによりも静かなこの教室。
二人は私を置いて、どこかへ消えてしまった。
彼には沢山の友達と、あの子がいる。
あの子には沢山の友達と、彼がいる。
私はひとり。
二人とも卑怯だ。
私に友情を教えてくれたあの子と、恋を教えてくれた彼はどこかへ二人で消えてしまった。
雪が融けるみたいに、残酷だ。
教室の扉が鳴った。彼とあの子が扉を開けたみたいだ。
「ごめん、遅れた」
うるさい。そんな気持ちを抑えて、口を開いた。
「遅かったわ。待っていたのよ」
あの子は私に飛びついて、抱きしめてきた。あの子の茶髪が私の目にかかる。大嫌いだ。彼もあなたも。
「はぁ。その飛びかかる癖、どうにかならないの?」
「やだもーん。治してなんかあげなーい」
そんな風に笑ってた。幸せなんでしょうね。祝福なんてしてあげないから。
「人の嫌がる事はしない方がいいよ」、彼が言った。
別に、嫌なわけじゃない。
ただ、もっと別の人がいいというだけ。一番それをしてほしいのは、あなたなのに。
言えない気持ちを飲み込んで、胸の中にしまった。
部活が終わった後、一人で教室に座っていた。
大丈夫。昔に戻っただけよ。
自分に言い聞かせた。
昔なんて、嫌いだ。
坂を下りて、歩道橋に上った。
私はどうしたらよかったのだろう。
彼との恋か、あの子との友情か、どちらも選べなかった。
そうしたら、どちらも無くしてしまった。
私みたいなのは、最初からずっと一人でいればよかった。
自分の気持ちすらわからず、なにをしていいかもわからなかった私は、なにも出来なかった。
出来るのは、こうやって、雪を見るぐらいだ。
今年初めての雪は、まだずっと降りしきり、降り積もる。
雪が誰かの足首まで積もってる。
ずっと冬みたいだった、私の人生が、この二年で春夏秋冬、逆戻りになっただけ。
欄干の雪をかき集めて、小さな雪だるまを作った。
こんな人形作ったって、どうにもならないのに。
二人分を作って、そっと置いた。
三人じゃ、似合わないよね。
二人の雪だるまと、一人の私。
「神様。私は皆大好きで、皆嫌いです」
雪が降り積もる。この雪だるまも、雪の中に消えてしまうだろう。
二人分の足音が聞こえた。
澄ました顔で答えた。
「まだ、帰っていなかったの?」
そして、いつもみたいに笑った。
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