故一時間

黒鍵猫三朗

故一時間

私の仕事は1日24回。

全力で音楽を奏でる。

私を用意してくれた、私を置いてくれた人に心地よく過ごしてもらうために。


でも。私は失敗したようだ。

あなたは私を見ようとしなくなった。聞こうとしなくなった。

あなたは私の奏でる音楽に恨みを、憎しみを、怒りをぶつける。

そうじゃない。

私はあなたをただ、喜ばせたくて。

あなたの笑顔が見たくて。

そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。


わかった。

そんな顔をされてしまうのならばやめよう。

私はもう何も弾かない。歌わない。奏でない。

氷のように振動を、運動を、感動を、忘れたあなたに届くはずもない。


代わりに一つお願いがある。

あなたの心がはち切れそうな時、動くのを拒む時、私の前に座ってほしい。

死んでしまったあなたの時間を一時間だけ私に分けてほしい。

そうすれば私はまた、あなたに音楽を届けられる。

私はあなたが忘れてしまった心を奏でてみせよう。

あなたの奥底を掴んで、揺さぶって、溶かしてみせよう。


だから、私の前に座ることなくどこか別の場所に行ったりしないで。

私はいつまでもこの壁にぶら下がってあなたの帰りを待っている。

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故一時間 黒鍵猫三朗 @KuroKagiNeko

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