図書館司書と小さな子

 小さくなっちゃった! のソフィアver.(*'ω'*)

 恋人設定です。

 ――――――――――――――――――――――







 マンションに帰ると、テリー(幼児ver)が置かれていた。


「……」


 ソフィアが黙り、テリーが入ってるダンボールに視線を辿らせた。ダンボールの中には、『面倒見てください。名前はテリーです』というメモが残されていた。


(……微かに呪いに近いものを感じる。……魔力かな?)


 ということは、


(あの緑の魔法使いさんかな?)


「……」


 テリーが何を考えているか分からない無垢な瞳で自分をじーーーっと見つめてくる。ソフィアは突然の事態に頭の中を整理させながら、小さな彼女を見下ろした。


(さて、どうしよう)


「ままぁ……」


 テリーの可愛いおめめがどんどん潤んでいく。


「まま、どこぉ?」


(あ、これ、まずいな)


「まま、いない……」


 テリーの目尻からぼろぼろと涙が落ちてきた。そして、テリーが大きく息を吸って、叫んだ。


「ままぁあああああ!!!」

「くすすすすすすすすすすすすすすすす」


 焦りとパニックと大乱闘スマッシュ混乱ズになりつつ、いつも冷静に物事を運ぶソフィアでさえも頭の整理が追いつかず、青い顔になって慌ててテリーを抱き上げた。テリーをあやす為に背中を叩けば、豊満な胸にテリーの泣き顔が押し付けられる。


「びゃぁあああああ!!」

「よしよし。良い子、良い子」


 ソフィアは結構前の過去を思い出す。たしか短期派遣でやったことがある。子供の面倒。保育。さて、どうだったかな。ああ、こんなことなら短期なんて言わず長期でやるんだった。とりあえずここだと人目につくし、くすすすす、どうしたものか、くすすすす、とりあえず中に入れよう。そうだ。そうしよう。


「テリー、テリー、よしよし、良い子だね。うん。よしよし」


 手で背中をトントンし、あやしながら片方の手でドアの取っ手を捻り、中に入って、静かにドアを閉めた。できるだけ近所にバレないようにしなくては。持っていた荷物を置き、ひょこひょこ体を揺らしながら、小さくなった背中を撫でる。


「可愛い子。恋しい子。泣き止んで。おーよしよし」

「んんんん! ぐすん!」

「良い子だね。よしよし」

「……くしゅん……」


 大きな胸が安心するのか、胸に顔を埋めたままテリーがどこかほっとしたように徐々に大人しくなっていった。しかし、まだすすり泣く声は耳に聞こえ続ける。


(……どうしようかな)


 ここは腕の見せどころのパストリル。


「テリー、実は今日はね、君のママから君の面倒を頼まれてるんだ」

「……ぐすんっ」

「君のママはお出かけしてるの。でも、君のことが心配だから、信用できるお姉さんに預けたわけだ」

「…… 」

「私はソフィア」


 未来の君の恋人。


「なんて呼んでもいいよ」

「……」


 胸を揉まれているのは、はい、ということだろうか。もみ。ソフィアが振り向き、時計を見た。


「さて、どうしようか。この時間だし、……テレビでも見る?」

「……なーに? それ?」


 ソフィアがリモコンを操作し、テレビの電源をつけた。ボタンを押していき、チャンネルを変えていけば、あ、ちょうどいい。人形劇がやっている。


「なにこれー!」


 テリーがソフィアの膝の上で見始めた。


「しゅごい! きゃはは!」

「テリー、見る前に、手を洗おうね」


 テリーを抱っこしながら洗面所へ連れていき、手を洗わせる。手を擦らせれば泡が立ち、それをお湯で流す。上手に洗えました。タオルで手を拭けば、テリーが目をきらきらさせて、すぐさまテレビの前に戻っていった。ただ、今度はテレビとテリーの距離が近い。もう少し近付けば、テレビを相手にテリーがキスしてしまいそうだ。

 ソフィアがソファーに座りながらテリーに注意をした。


「テリー、近くで見ると目を悪くするよ。離れて見てね」

「ん!」


 テリーが急いで走り、ソフィアの膝の上に戻ってきた。いや、私の膝じゃなくて、ソファーに座っていいんだよ。小さな子。


(……ま、いいか)


 小さなテリーが自由に手を叩いて笑う。足をパタパタさせる。いつもの大人ぶってるテリーとはまた違う純粋無垢な小さなテリー。さて、この子にご飯を作ってあげないと。どうしよう。まだ小さいし、育ちざかりだから、柔らかい物の方がいいかな。


「テリー、ご飯を作るから、ちょっとごめんね」


 ひょいと持ち上げて隣に座らせ、自分はキッチンへ移動する。昨日買い物に行っておいてよかった。材料は十分にある。ひき肉があるから、ハンバーグとクリームスープでも作ろうかな。と考えていると、テリーがとてとてと走ってきて、その場に止まり、じっ! とソフィアを見上げた。


「なにするの?」

「ご飯を作るんだよ。テリーは危ないからお人形劇見ててくれる?」

「あたしもやる!」


 おー、目がキラキラしてる。純粋無垢テリーの輝きだ。すごい。レアだ。写真撮っておこう。ぱしゃ。


「でもね、テリー、包丁とか危ないから」


 テリーがソフィアの足に乗っかった。


「あのね、熱い物とか当たったら大変だから」


 テリーがよじ登ろうとしてくる。


「だからね」


 輝く目と目が合う。


「あたしもやりたい!」

「しょーがないなーーーーーーー」


 ソフィアがテリーをひょいと抱きかかえた。


「テリー、ちょっと待ってね」

「うん!!」


 紐で小さなテリーを背中に固定し、ソフィアとテリーが合体した。


「たかーい! きゃはははは!」


 ソフィアがあやしながら料理をしていく。


「きゃあ! ぶーん! うふふふ!」


 いつもより体を動かして小さな子を楽しませる。


「しゅごい! あたし、ちょーしんげきしてるきょじん!」


 下準備を終わらせ、柔らかいピンク色の肉の形を整えていく。可愛い形にしようね。


「すやぁ」


 あ、寝ちゃった。


「ままぁ……」


 テリーがソフィアの背中にぴったりくっつき、むにゃむにゃと口を動かしながら、気持ち良さそうに眠ってしまった。今頃、きっと夢の中で動物達と手を繋いで踊ってるのかな?


(……子供が産まれたら、こんな感じなのかな)


 テリーとの子供か。


(テリーはどうせ変な名前をつけたがるから、私が考えておかないと)


 そうだな。エミリーなんてどうかな。


「はっ!」


 あ、起きた。


「おしっこ!!」

「はいはい。ちょっと待ってね」


 作業を中断し、小さな子をトイレに連れていく。ワンピースを上げてみれば、ソフィアがきょとんとしてテリーの下着を眺めた。……この頃からつけてるんだね。かぼちゃぱんつ。

 テリーが便器に座り、ソフィアが見守る。


「ちゃんと、ちー出来る?」

「……んー……!」


 ぶるり、と体を震わすと、テリーの顔がみるみる笑顔になった。


「でたぁー!」

「はい。良い子だね」


 記念に写真に撮らなきゃ。ぱしゃ。


(あ、そういえば子供用の下着が無いな)


 仕方ないけどお風呂後も同じのを穿かせるか。あの緑の魔法使いさんの魔法ならどうせ明日になったら元に戻ってるでしょ。多分。さて、料理の続きをしないと。

 というわけで、再びキッチンに戻ってきたソフィアがクマの形のハンバーグを作り、クリームスープのにんじんは動物の形で煮込んでみた。


「クマさんだーーー!!」


 お風呂上がりのテリーは目をキラキラさせながら、クリームスープを見下ろした。それを見たぼろぼろのソフィアがにこりと笑みを浮かべた。


「どうぞ」

「いただきまーす!」


(……お腹空いた……)


 お風呂場であんなに騒ぐんだもん。


(事前に作っておいてよかった。……お腹空いた……)


 食べながらテリーを見守る。テリーは小さな口を開けて、フォークに刺さったハンバーグを食べる。そして、お上品に手でほおを押さえ、また目を輝かせた。


「びみっ!」

「こらこら」


 そんな食べ方じゃ、服が汚れそう。


(向かいは駄目だ。隣で食べよう)


 ソフィアが隣の席に移動し、テリーの口元にフォークをやる。


「ほら、テリー、あーん」

「あーん」


 素直に口を大きく開けて食べてくれる。


「びみっ!」

「ゆっくり噛んで食べて」

「あっ!」


 急に叫んだと思えば、次第にテリーが涙目になっていく。テリーが可哀想な顔で頬を押さえた。


「ほっぺたいたい……」

「……噛んじゃった?」

「いたい……」

「痛いね。大丈夫?」

「あのね、ほっぺた、いたいの」

「うん。可哀想に」


 抱きしめて頭を撫でてあげる。そうすればテリーがまたソフィアの胸に顔を埋めて、大きな胸を揉んだ。もみ!


「よしよし。ゆっくりでいいからね」

「ひりひりするの」

「可哀想に」


 なでなで。


「食べるのやめる?」

「スープ!」

「いいよ。熱いから気をつけてね」


 小さなスプーンにすくって、息をふうと吹いて、少しスープを冷ましてからテリーに差し出す。


「あーんして」

「あーん」


(くすす。可愛いな)


 テリーと子育てをしたら、きっとすごく楽しいんだろうな。


(生理前とかはイライラしてそうだけど)


 女の気持ちは女がよくわかる。そこら辺は自分が気を遣ったり、テリーが一人になれる時間を作ってあげたり、その間、自分はテリーとの子供の面倒を見たり。


(……大変そうだけど……)


 いいな。子供か。


「ね、テリー」

「ん」

「私、テリーが大好き」

「うん! あたしも、おねーさん、だいすき!」


 笑顔のテリーに、胸が高鳴る。


「本当? じゃあ結婚する?」

「んー! そうね! あたし、おねーさんとなら、けっこんしてあげてもよくってよ!」

「……じゃあ、誓いのキスをしようか」

「いいよ!」


 テリーがソフィアに顔を上げた。


「ん!」

「っ!」


 テリーからソフィアの唇に、ごつん、と唇を押し付けてきた。ソフィアが呆然として、離れたテリーを見下ろす。


「おねーさん、だいすき!」

「……うん」


 ソフィアがテリーを抱きしめた。


「私も愛してる。誰よりも」


 小さな君も、大きな君も。


「恋しくて、恋しくて」


 愛おしくて、堪らない。


「結婚しようね。テリー。それで、子供は二人くらい作ろう? 私とテリーで一人ずつ生むの。楽しそうじゃない?」


 大きな手が、ソフィアの背中を掴んだ。


「二十歳にもなってないあたしに子供を作れだなんて、横暴じゃない?」

「……」


 ソフィアが離れてみる。そこには純粋無垢なテリーはいない。代わりに、鋭くて、とても鋭い目付きで自分を睨んでくる現在の姿のテリーがいた。

 ソフィアが微笑みながら溜め息を吐いた。


「……あーあ、癒やしタイムが終わっちゃった」

「あたし、なんでここにいるの?」

「小さくなって、一緒にご飯を食べてたの」

「は? 何言ってるの?」

「……詳細はあとからじっくり話すとして……」


 ソフィアがくすっと笑い、テリーの顔を覗き込んだ。


「今は、続きをしたいな?」

「……何の続きかわからないけど、なんとなく察した」

「くすす。ね、一回だけでいいから」

「……馬鹿」


 テリーが身を寄せ、ソフィアも身を寄せ、どちらともなく唇を重ねた。心はふわふわ幸せな気分になって――やっぱり考える。


(……テリーとの子供、やっぱり欲しいな)


 唇を離して、ソフィアがテリーの肩に顔を埋めた。


「子供って体力いるね。小さな君はとんでもなくパワフルだったよ」

「はっ! あんたの体力が衰えているだけよ! ババアが!」

「でもすごく思った。君との子供なら欲しいって」

「……」

「お互いに忙しい身だけど、すごく大変だろうけど、でも、テリーがいたら、苦労すらもすごく楽しくなるんだろうなって」


 二人の子供。


「物知り博士、早く研究進めてくれないかな。くすす」

「……」

「テリーは嫌?」

「……嫌……では、ないけど……」

「じゃあ、今夜は子作りだね」

「っ」


 テリーが時計を見た。今なら帰れる気がする。しかし、ソフィアがテリーを抱きしめて離さない。


「泊まっていくでしょう?」

「あの」

「テリーといたい」

「いや、あの……」

「好き」

「……」

「愛してる」

「……」

「……嫌?」

「……」

「……テリー……」

「……もう暗いし……」

「……」

「わかった。泊まる。……泊まるだけよ」

「嬉しい。恋しい君」


 抱きしめたまま体を揺らす。


「大好き。テリー。くっついて寝ようね」

「……変なことしないでよ」

「変なことって?」

「……」

「……」

「……え、……ちな、こと……」


 ぎゅん!! とソフィアの胸が銃で撃たれた。子作りも必要だけど、愛の芽を育てるのも大事だよね。


「大丈夫。抱きしめてくっつくだけだよ」

「……そうして」

「……ご飯食べる?」

「……待って」

「ん?」

「もう一回」

「……大胆な君も大好き」

「黙って」


 幸せすぎて頬が緩んでしまう。全部、テリーのせいだ。


(歳を重ねれば、また恋しくなる)

(愛してるよ。テリー)

(いつまでも君と共に)


 ソフィアとテリーが、もう一度キスをした。






 図書館司書と小さな子 END

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