図書館司書の同棲相手(2)


 雫が落ちていく音が聞こえる。


「ん……」


(何ここ……)


 お湯の中。


(柔らかい……)


 ソフィアの胸みたいだと思って、優しく握ってみる。


「んっ……」


(……ソフィアの声があるみたい……)


「……くすす……」


(ふぁっ)


 優しい手が頭を撫でてくる。


(あったかい……)


 心地の良いぬくもりを感じて、テリーが目を開ける。


(ソフィアも、こうやって、優しく抱きしめて、キスをしてくれるのよね)


 ちゅ。


「起きた? テリー」


 正面から抱きしめられているソフィアに、テリーがぼぉっとして、ぼーーーっとして、……はっとした。


「ふぁっ!?」


 体を離すと、ソフィアの生まれたままの姿が視界に入る。


「ぎゃあっ!」


 自分の貧相な体がソフィアに見られる。


「ぎゃあっ!」


 テリーがお湯に身を隠した。


「な、なんで、あたし、お風呂に……!」

「酔っ払ってたから、目が覚めると思って」


 ソフィアがにこりと笑ったのを見て、テリーが黙った。


「テリー、お酒飲んだの?」


 ソフィアの問いに、テリーが目を逸らした。


「テリー」

「……お酒だって知らなかったの」

「テリー」


 ソフィアがテリーの額に額をくっつけると、テリーの肩がぴくりと揺れた。


「あと一年待つって約束したでしょ」

「……ごめんなさい」

「うん。成人して、お酒が堂々と飲めるようになったら、私と一緒に飲もう。それで、飲み方も学んでいこう?」


(……ソフィアと、宅飲み)


 二人きり。


「……」


 テリーがぽおっとソフィアに見惚れ、ゆっく頷いた。


「……はい」


(まただ)


 この目。


(テリーのこの目に弱いんだ)


 甘えたそうな、このとろんとした目。


(心配になる)


「テリー」

「……あ」


 唇が重なる。テリーが慌てて目を閉じた。


「テリー」


 再び唇が重なる。テリーが拳をきゅっと握った。


「テリー」


 金の瞳がテリーを見つめる。


「テリー、今日、この後」

「え?」

「ね、正直に言っていい?」

「……何? ソフィア」

「寂しかった」


 テリーがきょとんと瞬きした。


「君がいなくて、すごく寂しかった」


 ソフィアの唇がテリーの頰にくっついた。


「だから、構って?」


 可愛くおねだりしてみる。首を傾げて、テリーの瞳を覗き込むと、テリーの胸のハートに愛の矢が刺さった。


「っ」


 テリーの顔がみるみる赤くなっていき、唇をきゅっと噛み、頷いた。


「い」


 テリーの眉が下がる。


「いいわ」


 テリーがソフィアの顔を見上げる。


「構ってあげる」


 ぼそりと一言。


「仕方ないわね」


 そう言って、ソフィアに手を伸ばす。


「仕方ないから、抱きしめてあげてもよくってよ!」

「うん」


 ソフィアが両手を広げた。


「来て」

「……お邪魔します……」


 テリーが遠慮気味にそっと近づき、ソフィアの胸に再び顔を埋める。


「……」

「テリー」


 恋しい君に耳にキスする。


「ひゃっ」

「可愛い」


 ちゅ。


「テリー、あったかいね」

「……ん」


 ちゅ。


「あっ」

「テリーの声、好き。もっと聴きたい」

「ゃっ」


 ちゅ。


「そ、ソフィー……」

「何? テリー」

「恥ずかしぃ……」


 ちゅ。


「あっ」

「恥ずかしくないよ。相手は私なんだから」

「……ソフィーだから……はずかしいの……」

「……」


 きゅ、と抱きしめる。


「テリー」


 離さない。


「ソフィ……」

「テリー」


 唇が重なる。


「ふぇっ」

「テリー」


 唇が重なる。


「はぁ。……ソフィー……」

「テリー」


 舌を絡める。


「んっ」


 温かい。


(テリーの体温)

(テリーのぬくもり)

(テリーの熱)


 温かい。


(もっと)


 胸が高鳴る。


(もっと)


 自制が利かなくなる。


(テリー)


 手を握って。

 手を繋いで。

 結んで、開かないで。


「テリー」


 テリーの肩に顔を埋める。


「閉じ込めて」


 テリーがきょとんとした。


「……なに?」

「閉じ込めて」

「……?」


 抱きしめてくるソフィアを抱きしめ返し、その背中を撫でる。


「ソフィー?」

「閉じ込めて」


 この腕から私を出さないで。


「……そんなに、寂しかったの?」


 テリーが瞼を閉じ、ソフィアの背中を撫で続ける。


「……明日、仕事?」


 ソフィアが小さく首を振った。


「……あたしも大学休みなの」


 テリーに頭を撫でられる。


「今日の分、構ってあげなくもないわ。しょうがない奴ね」


 テリーの頰は赤い。


「……しょうがないんだから……」


(テリー、そんなに優しくしないで)


 テリーを腕に閉じ込める。


(私のことも閉じ込めて)


 足りない。


(もっと支配されたいのに)


 足りない。


(そんなんじゃ足りない)


 もっと、もっと、もっと。


(君が、私を支配して)



 こんなんじゃ、全然、足りない。



「テリー」


 耳元で囁く。


「のぼせてしまうから」


 部屋へ。


「もう上がろうか」





(*'ω'*)





 温かなベッドの中で、テリーを見つめる。


「……」


 下着しか身につけていないテリーが、自分の胸で眠っている。彼女の首には、先ほど戯れた時につけた痕が残っていた。


「……」


 その痕にキスを落とす。柔らかな唇だけをつけて、ゆっくりと離す。


(テリー)


 私のテリー。


(誰も見ないで)

(ここにいて)

(ずっとここにいて)

(私だけに構って)

(私は君のものだから、君がいてくれないと寂しくて死んでしまうの)

(だから構って)

(私がうんざりするほど構って)

(寂しい)


 体と心は繋がったはずなのに。


(この想いが伝わらないのが、寂しい)


「……ん」


(あ)


 テリーが目を擦った。


「……んん」

「テリー、まだ寝てて良いよ」


 日はまだ登らない。暗い部屋の中で、テリーの肌を撫でる。テリーが顔をしかめ、ソフィアに頭を押しつけた。


「……頭痛い」

「だろうね」


 優しく撫でる。


「よしよし」

「……」

「吐き気は?」

「……くらくらするけど、吐くものがないというか……なんか、胃に何も入ってない気がする……」

「消化されちゃったのかもね」


 吐いたことは覚えてないらしい。


「気持ち悪くない?」

「頭痛い」

「よしよし」


 優しく撫でる。


(……良い匂い)


 今だけは、テリーの匂いを独占できる。


(小さいな)


 ぎゅっとしめつければ、うっ、と唸る。


(可愛いな)


 頭をよしよしと撫でたら、甘えん坊になる。


(恋しいな)


 キスをしたら、妖艶な目で見つめてくる。


(……)


 頭にキスをする。


「っ」


 テリーが驚いて首をすくませてしまう。しかし、優しい手が怯えた背中を撫でる。


「よしよし」


 額にキスをする。テリーの眉が下がった。


「よしよし」


 頰にキスをする。テリーの目がとろんととろけた。


「……」


 見つめてくる瞳に微笑む。


「また、……する?」

「っ」


 テリーが頬を赤らめ、首を振った。


「ば、ばかっ」


 ソフィアの胸に隠れる。テリーの耳が赤い。


(馬鹿って言われた)


 そうだよ。私はテリー馬鹿なんだ。


(可愛い)


 再びキスを落とす。


「ちゅ」


 恋しい。


「ちゅ」


 恋しい。


「ん」


 恋しい。


「……テリー」


 吐息と一緒に声が出る。


「構って」

「……」


 テリーがソフィアの背中を撫でた。


「よしよし」

「ふふ」


 途端に、ソフィアが笑った。


「テリー」

「ん」


 テリーが頭を胸に押し付けてくる。まるで小さな犬が、泣かないでと言っているように。


「テリー」


 小さな恋しい君を閉じ込める。


「キスして」

「っ」


 テリーが固まった。


「テリーに、キスしてほしい」


 薄暗い中、テリーの顔を覗き込む。


「テリー」


 キス。


「……して?」


 可愛くおねだり。

 テリーの目がハートに切り替わる。


「……っ」


 頭の中で悶える。


「……♡♡♡」


 テリーが生唾を呑み、ソフィアに顔を近づけた。


(あ)


 唇がくっついた。


(……あ……)


 ソフィアの胸がきゅんと鳴った。


(テリー)


「んちゅ」


 またくっついた。


(痛い)


 歯と歯が当たった感触。


(……下手くそ)


 仕方ないな。


(私が教えてあげないと)


 だから、沢山キスをしないと。

 唇がくっつく。


「ん」


 ちゅぷ。


「……ん」


 ぷ、ちゅ。


「ソフィ……」


 ちゅ。


「あっ」


 ふに。


「……ん」


 むにゅり。


「ん、ん、……ん、……」


 頬をほてらせ、自分のことだけを見つめるテリーがいるのに、それでも不安が募っていく。


(私のもの)


 この子は私のもの。


(テリーのものになりたい)


「テリー、もっと、キスして」


 荒い息で伝える。


「キスして」

「んっ」


 キスしてくる。下手くそ。思わず笑ってしまう。


「テリー、こうして」

「んっ」


 むに。


「ね。柔らかいでしょ」

「……」

「テリー」

「……ソフィー」


 のそりと、テリーが起き上がった。


(ん)


 ソフィアの上に乗った。


「っ」


 テリーが上からソフィアにキスをしてくる。


「んっ」


 下手くそ。だけど、


(あ、それ、だめ……)


 ソフィアが手に力が入る。


(テリーが、私を閉じ込めてる)


 支配してくる。


「ん」


 テリーが馬乗りしてキスしてくる。


「ちゅ」


 やわらかい。もっと。


「テリー……」


 ちゅ。もっと。


「ちゅっ」

「あっ」


 首にキスされちゃった。


「……っ」


 もっと。


「テリー」

「ふぁっ!?」


 思わずテリーを再び押し倒す。


「ソフィー、あたしが上っ……」

「テリー」


 唇を塞ぐ。


「あの、だから、あたしが上……」


 唇を塞ぐ。


「んんっ、んんんっ! んんんっ!」


 鼻息が当たる。構わない。


「……」


 テリーが大人しくなる。唇をむさぼる。


 むちゅ、ちゅ、ちゅる、じゅ、ちゅ、むに、むちゅ、ちゅぷ、ちゅ、ぷくっ、ちゅ、ぷに。


「……んぅ……」


 不満そうなテリーがソフィアの腕をつねった。


「……」


 ソフィアの唇が離れる。乱れた呼吸音が部屋に響く。ソフィアとテリーの額同士がくっついた。


「テリー、……好き」

「っ」

「ごめんね。大人げなくて、がっかりされるかもしれないけど」


 微笑む。


「テリーを見てたら駄目。余裕がなくなっちゃって……」

「っ」


 テリーの胸に母性の矢が撃たれた。


「もっと、テリーから愛されたい」

「っ」


 テリーの胸に、恋の矢が撃たれた。


「愛してる。恋しい君」


 ちゅ。


「離れたくない」


 テリーの手がソフィアの頭に乗っかった。優しく撫でてくる。


「……ソフィー」


 真っ赤なテリーが見つめてくる。


「あの、心配しなくて、いいわ」


 可愛い瞳が、自分だけを見つめてくる。


「そのうち、あたしがお前をリードすることになるから」

「……。……くすす。そうなの?」

「そうよ。だから、せいぜい、あたしに愛されたらいいわ」

「……愛してくれるの?」

「あ」


 テリーがソフィアの肌を撫でた。


「あいし、てる、もん……」

「……」


 ソフィアが微笑む。


「テリー」

「ん」

「またしたくなってきた」

「……トイレ?」

「えっち」

「っ!」


 言葉に出した途端、テリーがはっとして、目を逸らして、泳がして、目を潤ませて、ソフィアを見た。


「……い」

「うん」

「一回だけなら……」

「……うん」

「……ソフィア」

「ん?」

「あたしが上!」


 テリーが再び上に乗った。


「あたしがするから、ソフィアは感じてるだけでいいわ」

「……」


 なぜだか、口角が上がってしまう。


「出来るの?」

「こういうことは本能で分かるって本に書いてあった」

「ああ、そう」


(変な恋愛文庫本でも読んだな)


 ソフィアがくすすと笑った。


「じゃ、私は大人しくしてようかな?」

「……ソフィア、余裕ぶってるのも今のうちよ」


 テリーがにやりとした。


「あたしの下で、可愛く鳴くといいわ!」


(はいはい)


 温かく見守るのも、大人の役目。

 テリーの上半身が下りてくる。髪の毛がたらんと垂れる。ソフィアの肌に落ちた。ソフィアの胸が徐々に高鳴っていく。テリーとの距離が近くなる。


「……んっ」


 キスをするために、瞼を閉じて、唇を重ねる。


「ちゅっ」


 歯が当たった。


「んぐっ」


 テリーが顔をしかめ、首を傾げた。


「ちゅ」


 下手くそ。


(なにこれ、……可愛い……)


 子猫が体の上で戯れてるみたい。


(……すごく可愛い……)


 唇を重ねる。テリーの唇が当たってる。柔らかい。触れたいけど、まだ触らない。ソフィアがグッと拳を握って堪える。


(……)


 テリーが起き上がる。名残惜しい唇が離れる。


「……」


 ソフィアは下着姿で、テリーも下着姿だ。


「……」


 テリーが考える。


「えっと」


 手が動く。


「……さ、触るから」

「うん」


 にこにこ笑って見守る。


「いいよ。どこでも」

「……」


 テリーの手が動いた。




 そっと、ソフィアの頭に置かれた。



「……」

「よしよし」


 頭を撫でてくる。


「よしよし」

「……」


 ソフィアは微笑むだけ。


(まずは相手を安心させること! って顔に書いてあるな)


 満足そうなテリーがよしよししてくる。


(……だけど、これは見習うべきかも)


 でもね、テリー、今の私は、それだけじゃ満足出来ないの。


「テリー」


 頭を撫でられるのも気持ちいいよ。でも、


「もっと」

「んっ」


 立場逆転。我慢の糸が切れて、とうとうテリーを押し倒して胸で潰す。


「わぷっ」

「焦らさないで。テリー」

「あ、あたしがするの!」

「うん。また次回ね」

「そ、ソフィア! 酷い! あたし……」


 唇を唇で塞ぐ。


「んっ」


 舌を絡めて、テリーを閉じ込める。濃厚に混じり合う二人の影は闇夜に隠れた。



(*'ω'*)



――翌日。





「あーーーーー」


 テリーがクッションに埋もれて、頭を押さえる。


「すーはー。ああ、もう駄目。あたし、死んじゃう」

「どれくらい飲んだの?」

「知らない。置かれてたのをジュースと勘違いしたから、あるだけ飲んだ」

「キッド殿下とリオン殿下にクレームをつけておくよ」


 ソフィアが鍋をテーブルに運ぶ。


「テリー、お昼ご飯だよ」

「いらない……」

「食べないと薬が飲めないよ?」

「んん……」


 もぞもぞと動き、怠そうにソファーから抜け出す。ソフィアのパーカーを着て生足を出して歩いてくるテリーをソフィアは見逃さない。


 ポケットに隠したスマホで盗撮し、上手く撮れて、何事もないようにテリーに微笑む。


「テリー、スープなら飲める?」

「……食欲ない」

「我儘言わないの」

「あたし、冷たいのが食べたい。プディングがいいわ」

「それは三時のおやつに取っといて」

「……」


 テリーが瞳を輝かせてソフィアを見上げた。


「あるの?」

「今作ってたの見えなかった?」

「ソフィアの手作り?」

「そうだよ」

「……しょうがないわね」


 テリーが大人しく座る。


「ランチはスープで我慢してやるわ」

「野菜多めにしておいたよ」


 ソフィアが隣に座る。


「ん」


 いつも正面に座るのに、テリーの横でニコニコしている。テリーがきょとんとする。


「何?」

「ん? 何が?」

「今日は隣なの?」

「うん。具合が悪そうな君を見てるのはいたたまれないし」


 細い手が、テリーの髪の毛を1束、優しく掴む。


「君に触れて、看病しながら食べれるから」


 テリーを見つめながら、濁った赤髪にキスをする。


「ね?」


 微笑まれたら、テリーがモアイになって固まった。テリーのモアイ像が出来上がる。


(……ハムスターみたいに固まるテリーも可愛いな)


 恋しい髪の毛を離して、頭を撫でる。


「さ、食べようか」

「……」


 テリーは黙って手を握る。


「……いただきます」


 熱いスープに息を吹き、冷ましながら飲んでいく。ソフィアがテリーの肩を撫でた。


「……美味しい?」

「……悪くないわね」

「そう。良かった」


 美味しかった時の照れ隠しの言葉を聞けて、一安心。


「これを食べ終わったら薬飲もうね」

「ん」

「テリー、膝掛けは?」

「いる」


 ソフィアがふわふわの生地の膝掛けをテリーの膝にかけた。生足が見られなくなるが、自分の欲よりテリーが一番だ。


「……寒くない?」

「……ちょっとだけ、寒気がする」


 ソフィアが上着を脱ぎ、テリーの肩にかけた。ソフィアの匂いがして、テリーの心臓が高鳴った。


「っ」


 一瞬息を止め、しかし、バレてたまるかと息を呑み、深呼吸する。


(……あれ、なんだか顔が赤いな)


 ソフィアの手がテリーの頬に触れた。


「テリー、顔赤いよ? 大丈夫?」

「……スープ飲んで、血の巡りが良くなったんじゃない?」

「それならいいけど、……無理しないでね」

「……ん」

「美味しい?」

「……ん」


 今度はこくりと頷く。


「美味……かも、しれない気も……しないでも……ない……」


 テリーがスープを飲んで、息を吹きかけていないことを思い出し、冷めてない熱を感じて、舌に痛みが走った。びくりと肩を揺らしてしまう。


「んっ!」

「あ、テリー。水」

「……んん」


 ソフィアに差し出された水を口の中に入れたら、火傷した舌が冷えてくる。


「熱かったでしょ。大丈夫?」

「……大丈夫……」

「気をつけて」


 頭にキスをされる。


「っ」

「ちゃんと冷まして飲むんだよ。君は猫舌なんだから」

「ん、んん……」

「ゆっくりでいいよ」

「わ、分かってるってば……。……子ども扱いしないで……」

「怠くない?」

「……大丈夫」

「まだ寒かったら言ってね」


 テリーの肩を自分に寄せる。


「私が、温めてあげる」


 その瞬間、テリーの胸に新たな恋の矢がばきゅんどぎゅんどごんばごんと突き刺さった。


(甘すぎる!!!!!)


 テリーが目を逸らした。


(こんなの、甘すぎる!!)


 甘い空気。目の前には長年恋をしてきたソフィア。


(緊張しすぎて、スープが喉を通らない!!)


 肩と背中を撫でてくる手が優しい。


(はあ。ソフィアの手が撫でてくる。どうしよう。あたし、こんなに優しく撫でられたことないのに。あたし、恋に溺れて死んじゃう。ああ、どうしよう。ソフィアになんて顔したらいいか分からないじゃない)


 テリーは眉をひそめる。


(いいや。変に気にしなくていいのよ。あたしは今、甘えなければいけない立場なのよ。だって、あたし二日酔いで、すっごく体調不良だから! だからソフィアはあたしの面倒を見なければいけないのよ! それが当たり前なのよ!)


 よーし、なんか命令してやろう!


 テリーがバッ! と上を見上げた。


「ソフィア!」

「ん、何?」


 ソフィアが微笑む。


「テリー」

「……」


 その声で、名前を呼んでもらえるだけで、


「……」


 テリーが固まる。


「……」


 ソフィアに魅了される。


「……。……。……」


 テリーの目が、とろんととろけた。


「あの、ね……?」

「うん」

「あの、」

「何?」

「えっと、その……」

「うん。何?」

「……」

「どうしたの?」

「……き」

「ん?」

「キス、してやっても、……よくってよ?」

「……」


 その瞬間、ソフィアの脳天にばぎゅんばぎゅんどぎゅん! と新たな恋の銃弾が撃たれてしまった。


「……テリー」


 その顔を見下ろす。


「キスしてくれるの?」

「……ん」


 こくりと頷くその顔に、ソフィアの心臓が飛び出そうになる。


(……ああ、やばい)


 抱きたい。


(だけど、まだ夜じゃないから)


 昼間のソフィアは優しく微笑む。


(夜は、覚えておいて。テリー)


 ソフィアが瞼を下ろして首を傾げる。テリーへ身を寄せると、テリーもぐっと顔を近づけて、吐息が近くなって、鼻と鼻がくっついて、やがて、唇が重なる。


 テリーがソフィアを心に閉じ込める。

 ソフィアがテリーを心に閉じ込める。


(もっと、もっと、独占させて。恋しい人)


 ソフィアとテリーの手がそっと重なり合い、指が動き、仲良く絡めあった。


 テーブルに置かれたスープは、まだ熱い。













 図書館司書の同棲相手 END




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