図書館司書を見つめる目(1)

 もしもおとぎ話の世界が現代だったら(*'ω'*)

 ソフィア(29)×テリー(19)

 大学の図書館で働く司書と学生のCP

 ――――――――――――――――――――













 出会ったのは、13歳の秋になる前の夏。


 強面の男達から逃げていた。


「今日からお前はあたしのよ」


 彼女に言った。


「泥棒なんかやめて、あたしの下で働きなさい」



 今から、六年前のことである。



「一週間後に」


 エメラルド大学の図書館に輝く一輪の花。司書のソフィアがカウンターで受付業務を行う。


「はい。返却は一週間後です」

「はい!!」


 本を手渡された大学生はでれんと頰を緩ませた。女ならば憧れの眼差し。男ならば下心全開で。


「ソフィアさん! 俺とデート……」

「返却は一週間後です」

「ソフィアさん! 僕とぜひこの後……」

「返却は一週間後です」

「ソフィアさん!」


 ――チッ。


 テリーがじっと、ソフィアを睨んでいた。


(……むかつく)


 モテてる。


(むかつく……)


 自分は全くモテないのに。毎日あの女ばかり。


「やあ。ソフィア」

「ああ、どうも。キッド殿下」


 ソフィアは、この国の次期国王となるキッドの配下となった。


 つまり、テリーではなく、彼女の幼なじみのキッドのものになったのだ。


「この間、こんなことがあってさ」

「またですか。キッド殿下、少しは落ち着いたらいかがですか?」

「なんだよ。俺に説教か? ソフィアのくせに」

「本当のことじゃないですか」


 楽しそうな二人に、テリーが本を握り締めた。


「じゃ、デートはまた今度」

「くすす」


 キッドが笑いながらいなくなる。ソフィアも笑いながらキッドの背中を見届けた。カウンターに近づいた影に気がつき、振り向いた。


「こんにち……」


 バーン! と本がカウンターに置かれた。その拍子に、ソフィアの金髪がふわりと揺れた。


「これ、借りたいんだけど」


 睨む。


「手続きしてくれる?」

「ああ、こんにちは。テリーお嬢様」


 ソフィアが微笑んだ。


「カードは?」


 テリーが再び、バーン! と本の上にカードを置く。


「結構です」


 ソフィアが受け取り、本を差し出す。


「返却は一週間後です」

「チッ」


 舌打ちして、再び睨む。


「ぐずぐずしないでくれる?」


 本を腕に持つ。


「目障りなのよ」


 言い捨て、ブーツを鳴らし、カウンターから離れていく。ソフィアが肩をすくめ、テリーは本を持ち、握り締め、ぎゅっと手に力を込めて、


 ――廊下で立ち止まった。


(……違う)


 ああいうことが言いたかったわけじゃない。


(あたしは、ただ……)


 テリーの体が震え始める。


(違う。そうじゃない。あれじゃないのよ)


 足が震える。


(あたしは)


 目障りとか、そういうことを言いたかったわけじゃなくて、




 ――……今晩のご飯、何にするか、話そうとしただけなのに……。




 テリーが本を胸に抱いて、小さく深く、ため息をついた。




(*'ω'*)



 ソフィア・コートニーは、元は泥棒であった。借金があると騙されて、ずっとその借金を返すために、盗人をしていた。


 しかし、騙されていたことに気づき、ソフィアが逃げたのだ。それを追手が追いかけ、死にかけた時、出会ったのがテリーだった。


 事情を知ったテリーは王子であるキッドにソフィアを紹介し、なんとかソフィアの罪を流してほしいと話をした結果、ソフィアはエメラルド大学の図書館司書として働くことになった。


「エメラルド大学の理事長は俺なんだ。最近大きな図書館を作って、人を募集してたんだよ。働いてくれたら助かるな。ああ、もちろん、盗みは無しだ」


 そしてソフィアはようやく普通の人としての生活を取り戻した。生活は安泰。テリーは決めていた。必ずエメラルド大学に入って、ソフィアに近付こうと。


 だって、


(一目惚れだったから)


 高校を卒業した日、ソフィアにからかわれた。


「いい加減に彼氏を作ったら?」

「あたしに合った男がいないのよ」

「女ならいるかも」

「女? 誰?」

「私」


 ソフィアがいつものようにテリーをからかった。


「私は六年前からテリーを知ってる。私だったらテリーの恋人にうってつけかも」


 これはチャンスだと思った自分がいた。


「だったら」


 テリーがソフィアを見た。


「なってみる?」



 こうして晴れて、テリーの三度目の恋が実った瞬間であった。







(初恋はリオン。二度目はキッド。三度目はソフィア……)


 我ながら変な好みだと思う。まさか最終的に女を好きになるなんて。


(別に女に魅力は感じない)


 親友のニクスを見ても、アリスを見ても、ただの女の子。友達。同性。性的な想いは感じない。


 だけど、ソフィアは別。


(一目惚れだったのよ)


 目が合った瞬間、なんて素敵な目をしているのだろうと、酔いに溺れてしまいそうだった。


(……せっかく恋人になれたのに)


 恋人として出来たことは、


「テリー、迷子になるよ。手繋ごう」

「チッ! 仕方ないわね!」


 手を繋ぐ。


「テリー、雨に濡れちゃうかも。もう少しくっついて」

「なんであんたなんかとくっつかなきゃいけないのかしらね! あーあ! 嫌になる!」


 腕を組む。


「テリー、一緒に寝よう?」

「あたしの抱き枕になりたいのね! いいわよ? ほら、横になりなさい!」


 一緒に寝る。


(友達か!!!!!)


 テリーが壁に頭をガンガン叩きつけた。大学生達が変な視線を送りながら、横を通り過ぎる。


(違うのよ。そうじゃないのよ。あたしはそんなことがしたいわけじゃないのよ)


 もっともっと恋人らしいことがしたいのよ。


(例えば)


 キスとか。


「……」


 ソフィアとキス。


「……」


 ソフィアの唇に、キス


「……」


 口を押さえる。


(ソ、ソフィアと、キス……?)


 顔が熱くなっていく。


(そ、そんな不埒なこと……!)


 自分はもう19歳だ。


(していいんだ!!)


 カッ! と目を見開く。


(あたし、もう19歳なのよ)


 18歳以上入っちゃいけない場所にも行ける。


(ってことは)


 ソフィアとキス。


(してもいいのね!!!!???)


 拳をきゅっと握り締めた。


(キ、キスって、どんな感じなのかしら!)


 したことがないから、恋愛小説での情報から妄想することしか出来ない。


(レモンの味がするのよね)


 本にそう書いてあった。


(プディングよりも柔らかいのよね)


 本にそう書いてあった。


(恋人なら、キスくらい日常茶飯事よね)


「テリー……」


 愛しい黄金の瞳が自分を見つめて、目蓋を閉じて、言うのだ。



「キス、して……?」



「……。……。……」

「あれ、そこにいるのはニコラじゃないか! やあ! 我が愛しの妹よ! 一体何やって……なんでそんな怖い顔してるの?」


 通りすがったリオンが、思わず顔をしかめた。



(*'ω'*)



 高校を卒業した際に、テリーは母親が持っていたマンションの一つを借りた。過保護な母親も子が使うならと承諾し、最上階の広い部屋を用意してくれた。


(今夜はビーフシチューにしよう)


 テリーが材料を切っていく。


(沢山作らないと)


 食べるのは、自分だけではない。


(煮込めば煮込むほど美味しくなるって、じいじも言ってた)


 キッドの付き人の老人の顔を思い出しながら鍋を煮込む。暇になってテレビをつければ、とっても面白そうな番組がやっていた。


『恋人とキスがしたい大学生!』


「僕、マイケル。19歳。実は、大好きな彼女が出来たんだけど、キスがどうしても恥ずかしくてさ!」

「OK! マイケル! 僕達が手助けするよ!」


 恋愛の専門家のアドバイスの元、彼は彼女にいい雰囲気に持っていかせ、最後は壁ドンでキスを迎えた。


「……」


 次の青年が紹介される。


「僕、ケビン。20歳。最高の彼女がいるんだけど、僕もキスが出来ない」

「OK! ケビン! 僕達はブラザーさ!」


 恋愛の専門家のアドバイスの元、彼は彼女とのキスに成功する。


「……」


 次の青年も。


「……」


 また次の青年も。


「彼女に訊きたい。彼とのキスはどうだった?」

「もう最高!」


 テリーが愕然とした。


(こ)


 これだーーーーーーー!!!!


 テリーがメモを滑らせ、ボールペンで高速に文字を書いていく。


「こういう時は、優しくエスコート。積極的にね!」


(優しくエスコート! 積極的!)


「この場合は、こういう方がいいな!」


(この場合は、こうなのね!!)


「これで君達も、彼女とキスが出来るよ!」

「先生!!」


 テリーが両手を握り締めた。


「あたし、頑張る!!」

「僕達がブラザーさ!! 何も怖くないよ! 当たって砕けろ!」

「砕けろ!!」


 目を輝かせていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。


(あ)


 メモをポケットに。テレビのチャンネルを変えて、キッチンの鍋の前に立つ。わずか、1秒。リビングの扉が開いた。


「ただいま」


 上着を片手に持ったソフィアが入ってきた。テリーが横目でチラリと見て、返事を返さない。


「……あれ?」


 キッチンにいるテリーを見て、鍋を見て、ソフィアがくすすと笑った。


「今夜、シチューにしようと思って、材料買ってきたのに」

「……それは残念ね」


 おたまを回しながら答えれば、ソフィアが近づいてくる。


「ビーフシチュー?」

「ん」

「テリーのビーフシチュー大好き」


(……ソフィアに、大好きって言ってもらえた……)


 胸がきゅんと鳴って、おたまをぐるぐるとかき回す。


「味見してもいい?」

「うるさい」


 テリーの鋭い目がソフィアを見た。


「今作ってるの見えない? 邪魔なのよ」

「……はいはい」


 ソフィアが微笑み、離れていく。


「手洗ってくる」

「お風呂行って。お前の香水は臭いのよ」

「いい匂いなのに」


 ソフィアが部屋に行き、着替えをリビングに持ってくる。ちらっとテレビを見る。


「ミックスマックス見てたの? 君好きだね」

「……」

「はいはい。行ってくるよ」


 ソフィアが洗面所に入り、扉を閉めた。その瞬間、テリーはその場に腰を抜かし、顔を押さえた。


(好きーーーーーーーーー!!!!)


 口には出さない。


(大好きーーーーーーーー!!!!)


 熱い顔をひたすら押さえる。


(あの香水の匂い駄目。ソフィアの匂いっていう印象がついて、あの香水見ただけでソフィアを思い出すんだもの!!)


 目の形がハートになる。


(好き。ソフィア。大好き。好き)


 今夜もちゃんと帰ってきた。


「ただいま」


(お帰りなさい!!)


 ソフィアの声を聞いては、頭の中で叫ぶ。


(今夜はビーフシチューを作ったの! ちょっとまだ下手かもしれないけど、作ったの!!)


「テリーのビーフシチュー大好き」


(……っ! ……! ……っっ! ……♡♡♡)


 テリーが悶えて壁をばんばん叩いた。


(大好き。大好きって、だ、大好き……!)


 揺れる金髪が素敵。金の瞳が素敵。赤い唇で囁かれたら、もう駄目。


(幸せすぎて溶けちゃう)


 だから、


「うるさい。邪魔しないで。あっち行って。目障りなのよ。クソ女。あたしの視界に入ってこないで」


 ……。

 テリーがはっとした。


(このままだと、キス出来なくない?)


 キスだけじゃない。


(……恋人関係も危ういんじゃ……)


 テリーが固唾を呑んだ。


(あたし、確かに恋人になってから、ソフィアに罵詈雑言の嵐だったかもしれない)


 でもそれは照れ隠し。


(無意識によるもの)


 駄目だ駄目だと思いながらも、傍にソフィアがいることが嬉しくて。


(つい)


「邪魔。消えて」


(……)


 ――……大丈夫。


(あたしには、このメモがある!)


 テレビでやってた貴重な恋愛ネタが詰まったメモ。


(これで、ソフィアの心を射止めて!!)


 キスを、成功させる!!


「テリー、ごめん。ソファーに下着忘れちゃった。タオルのまま失礼するよ」

「っっ」


 目を鍋にやる。絶対見ない。


(た、タオルのソフィア……)


 色気がムンムンウォーマン。


「くすす。ごめんね」


(胸の高鳴りが止まらないいい!!)


 真っ赤な顔を隠すために、大きな舌打ちすることにした。




(*'ω'*)




 ミッションその1、一緒に寝る。


「今夜、一緒に寝てあげてもよくってよ!」

「じゃあ寝ようか」

「けっ! 感謝して!」

「ありがとう」


 ソフィアの部屋に設置するダブルベッドに二人で眠る。


(これになってから、寝心地が良くて寝坊しそうってソフィアが言ってるのよね)


 設置して良かった。


「おやすみ、テリー」

「おやすみなさい」


 お互い、反対方向で眠る。


「……」


 メモをチラッと見る。


 反対方向駄目。絶対。後ろから優しく彼女を抱きしめて、くっついて眠るんだぜ! ブラザー!


「……」


 テリーがごろんと寝返る。


(だ、抱き締める……)


 手を伸ばす。


(え、えっと……)


 腕を伸ばす。


(さ、触ります……)


 ソフィアのお腹に触れた。


(ふぁっ!)


 腰回りが細い!


(い、良い匂い!)


 美しい金髪からシャンプーの匂いがする。


(香水なんかつけなくても、十分良い匂い……)


 くんくんくんくん。


(はえ……良い匂い……)


 うとうと。


「……好き……」


 届かないであろう声で呟いて、テリーが眠りに落ちた。





 ――翌日。



「おはよう。テリー」

「……」

「朝ご飯はそこね」


 行く支度をしているソフィア。


「今日は二時限目からだっけ?」

「……」

「先に行くね」


 そう言って、ソフィアがマンションの部屋から出て行く。


「……」


 先に起きて、寝顔見ようと思ったのに。


(……朝苦手なのよね……)


 テリーがメモを見た。


(今日のミッション……)



 ミッションその2、彼女には優しくする。



「テリー、花が綺麗だね」


 親友のニクスが窓を眺めた。


「あの花なんかテリーみたい」

「だったらあの花はニクス」

「うふふ。あんなに綺麗じゃないよ」

「ソフィアさん!」


 振り向けば、またカウンターで口説かれている。


「あの、これ、姉の誕生日にあげようと思ったんだけど、間違えて必要なくなったんで!」

「本の返却は一週間後です」

「ソフィアさん! これ、有名なお菓子です!」

「本の返却は一週間後です」

「ソフィアさん、俺とこの後……」

「本の返却は一週間後です」

「今日もすごいね」


 ニクスが感心した声を出した。


「アリスが言ってたよ。ソフィアさんみたいになりたいって」

「ニクス、あんな乳だけ女、ろくな奴じゃないわよ。見せびらかして下品だわ」

「とても素敵だと思うけどな?」

「どこが? ニクスの方がずっと素敵だわ」

「うふふ。ありがとう。テリー」


 ニクスに頭を撫でられる。


「これ借りる?」

「……ん。借りる」

「あたしも借りようかな」


 ニクスが本を持った。


「行こう。テリー」

「ん」


 二人でカウンターに向かう。


「ソフィアさん、お願いします」

「こんにちは。ニクス」


 ソフィアがカードを受け取った。


「返却は一週間後です」

「ありがとうございます」


 テリーが横から本とカードを差し出す。ソフィアが微笑んだ。


「こんにちは、お嬢様」


(うっ)


 きらきらきらきら。


(あーーーー! まぶしーーーーーい!!)


 きらきらきらきら。


(でも、今日のあたしは一味違うのよ!)


 彼女に優しく!


「返却は一週間後です」


 本を差し出される。


「はい、どうぞ」


 テリーは笑顔で返事を返した。


「地獄に落ちろ」

「テリー!」


 ニクスが頭を下げた。


「すみません! ソフィアさん! この子がすみません!!」

「くすす」

「テリーも謝って!」


(え?)


 あたし、いつもより何倍も声が優しかったじゃない。


「ニクス、この女に謝ること無いわ。行きましょう」

「ソフィアさん! 本当にすみません! テリー、普段はこんな子じゃないんです!」

「大丈夫ですよ」

「本当にすみません!」


 ニクスが謝り続けた。





(*'ω'*)






(……おかしい)


 全然いい雰囲気にならない。


(どうして?)


『恋愛が上手くいく100の方法』の本を見直す。


 積極的に声をかける。


(かけてるじゃない)


 優しくする。


(今日は本を叩きつけなかったわ)


 笑顔で接する。


(笑顔だったわ)


 頭を撫でる。


(あ)


 これをやってない。


(なるほど、ソフィアの頭を撫でるのね)


 ソファーでくつろぐソフィアに狙いを定める。


(了解)


 テリーの目が光る。


「ソフィア!」

「え?」

「くらえ!!」


 頭を掴んで、そのままソファーに叩きつけた。


「っ」


(成功だわ!)


 頭をぎゅっと握る。


(これでいいのね!)


 頭をぎゅ、ぎゅっと撫でる。


(これでソフィアもあたしにメロメロね!)


「……機嫌でも悪いの? テリー」

「あ?」


 ソフィアが起き上がった。


「笑顔でソファーに叩きつける必要ある?」

「……お黙り」

「笑えない」


 ソフィアがあたしに向き合った。


「悩み事でも?」

「……別に」

「困ったことは?」

「……無いけど」

「私にしてほしいことは?」


 ソフィアが美しく微笑む。思わず、テリーが息を呑んだ。


「……別に無いけど」


 何でもない顔をして、いつもの答え。


「そう」


 ソフィアも、いつもの返事。


「テリー、勉強はした?」

「……もう終わった」

「アイス食べる?」

「……食べる」

「待ってて」


 ソフィアがソファーから離れる。


(あ)


 自らの鼻を撫でながら、キッチンに行ってしまった。


(……いちゃいちゃ、したかったのに……)


 膝を抱える。


(……何が悪かったのかしら)


 悪いところが分からない。


(なんか、変な空気になってる気がする……)


「お待たせ」


 ソフィアがアイスを持ってきた。


「はい。チョコレート」

「……」


 テリーがアイスを受け取る。袋から開けて、ソフィアも口をつける。テレビからはコメディアンが笑いながら話している。


(……冷たい。甘い)


 子供みたい。


(……なんで恋人になったんだろう)


 ソフィアは自分とは十も離れている。立派な大人だ。それに比べて、自分はまだ大人のなりかけ。


(……ソフィアが好きなだけなのに)


 上手くいかない。


「……テリー」


 声をかけられて、テリーが振り向いた。


「一口食べる?」

「ん」

「はい」


 ぱくりとソフィアのアイスを食べる。


「テリーのもちょうだい?」

「ん」

「ありがとう」


 ぱくりと、テリーのアイスをソフィアが食べた。唇を舐める。


「美味しい。甘いね」

「……」


 テリーが気付いた。


(……待って。これ)


 昔からやっていたけれど、


(これは、まさか!)




 間接キス。





(あ、あたし、ソフィアとキスしちゃった!!)



 テリーが一気に顔を熱くする。


(あたし、やり遂げたのよ!!)


 アイスをぱくりと食べる。


(こ、これが、ソフィアの味なのね!)


 チョコレートの味。


(甘い! 濃厚! 冷たい!)


 ぱく。ぱく。ぱく。


「テリー、あんまり食べると頭痛くするよ」

「……」

「手遅れだったかな?」


 頭を押さえたテリーを見て、ソフィアがくすすと笑った。




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