キスしないと出られない部屋

(*'ω'*)テリー誕生日企画。年齢設定はお好きにどうぞ。

 ソフィア×テリー

 ――――――――――――――――――――








 キスしないと出られない部屋に閉じ込められた。



「くそがああああああああああああああああ!!!!」


 テリーが扉を叩く。叩きまくる。


「くそ! なんで! 誕生日に! こんな奴と! 二人で! こんな所に閉じ込められないといけないのよ!!」

「心外だな。テリーってば」


 くすす、と笑ったソフィアが後ろからテリーを抱きしめた。


「私は恋しい君の誕生日に、二人きりになれて嬉しいよ」

「やめろ! 離れろ! あたしに触るな! 触るならこの扉を開ける策でも考えなさい!」

「扉ねえ……?」


 ソフィアがテリーの肩を優しく掴み、そっと横にずらす。


「ちょっと失礼」


 ソフィアが跪き、扉の鍵穴を観察する。テリーが辺りを見回す。


 狭くて白い部屋。空調はとてもよく利いている。しかし家具は一切ない。ソファーも椅子もベッドも机も紅茶も何一つない。


(こんな白い部屋に一日中いろっての……?)


 テリーが震える。


(無理。一人なら何とかなったかもしれないけど……)


 ちらっと横を見ると、ソフィアがいる。


(こいつと二人は無理……!)


 その正体は元怪盗パストリル。女でありながら令嬢達の心と宝石を盗んでいった泥棒。とある事件をきっかけに引退したものの、その中身は変わらない。


(ここにいたら、あたしの何かを盗られてしまう気がする……)


 何か。


(何だろう。例えば)


 貞操とか。


(っ)


 テリーが顔を青ざめ、首を振った。


(とにかく、ここから出る方法を見つけるのよ……!)


「テリー」


 ソフィアがぽつんと、テリーに声をかける。テリーがソフィアに振り向く。


「ん? 何?」

「鍵穴から面白いものが見えるよ」

「……面白いもの?」

「くすす。覗いてごらん」


 ソフィアに促され、テリーが扉に近づく。


(……何?)


 鍵穴を覗く。すると、壁いっぱいにこう書かれていた。


『テリー、誕生日おめでとうございます(*'ω'*) これはお誕生日サプライズです(*'ω'*) その部屋から出るためにはお相手の方と猛烈な百合のキスをお願いします(*'ω'*) ただでさえこの作品百合じゃねえだろって言われがちなので割とすげえ百合百合な感じのキスでお願いします。お願いします。この作品は百合なのでどうかお願いします。ねえ、ガールズラブなの。違うの。ファンタジーだけどジャンルは本来恋愛の百合なの。そろそろランキングに乗りたいですし百合企画にも参加したいし別サイトでも小説載せたいけどお前が子供だから何も出来ねえんだよ。百合作品のはずなのにただの百合寄りファンタジー小説になっちゃってるんだよ。分かってんのかよ。こっちはそのせいで色々大変なんだよ。せっかくの石狩鍋も食べれないんだよ。そろそろいちゃついてくれよ。頼むから。このままじゃ需要もへったくれもないんだよ。畜生が。くたばれ。そんなわけで、キスしないとその部屋から出られません。ソフィアと仲良くね(*´ω`*) お鍋』


「このクソ鍋! テメエにすきやきのタレをぶっかけてやろうか!!」


 テリーがすさまじい顔でドアノブをがちゃがちゃと捻りまくる。


「出せ! 今すぐここから出さんかい! あたしは屋敷に帰ってケーキを食べてゆっくり部屋に引きこもるのよ!!」

「くすす。そのメッセージによると、つまり、キスをすれば出られるって事らしい」


 ソフィアがテリーの腕を掴み、ぐいと自分の方へと引っ張った。


「ひゃっ」

「くすす」


 振り向けば、目の前にはソフィア。


「テリー」


 黄金の瞳がテリーを見つめる。


「いいよ。百合百合なキスをしよう」


 ソフィアの唇が近づく。


 ――が、テリーの掌がソフィアの唇にくっついた。


「んっ」


 ソフィアがきょとんとする。テリーが青い顔でソフィアの口を両手で押さえている。ソフィアがくすす、と笑った。


「テリー」


 テリーの手を掴むと、テリーの手がびくりと揺れる。


「怖がらないで」

「ちょ、」

「怖くないよ」

「あの」


 ソフィアがテリーの手の甲にキスをすると、テリーの指がぴくりと揺れた。


「あの、ソフィア」

「ん?」

「ほ、他の方法を考えましょう!」


 テリーが強気にソフィアを見上げる。ソフィアがきょとんとテリーを見下ろす。


「キス以外に、何か策があるはずよ! こんな所で女のあんたとキスしようだなんて馬鹿げてるわ!」

「そうかな?」

「そうよ! 馬鹿馬鹿しいわ!」


 テリーがソフィアを強く見つめる。


「だから、そうよ。キスは……」


 テリーの眉尻が下がる。


「……しなくて、いいでしょう……?」


(ふへ)


 ソフィアの肩に、ぐっと力が入った。


(テリー、その顔は反則)


 キラキラした目で見つめてくるテリー。上目遣い。ふるふると震わせる柔らかそうな唇。恥ずかしげに赤く染めた頬。


(キスしたい)


 ソフィアの目が据わる。


(キスしたい)


 部屋とか関係なしに、


(キスがしたい)


 この恋しい君と、


(キス)


 唇を押し付けて、柔らかなその唇をふにふに触って、唇と唇で触れ合って、もっと頬を赤くさせて、目を潤ませて、自分を見つめて、その口から出る声が聞きたい。


 ――ソフィア……。


(ふえへ)


 表情が涼しい笑顔の脳内妄想暴走族は、今日も頭の中でぶんぶん言わせている。


(キス……したい……)


 しかし、その胸の内を明かせば、テリーは思いきり暴れるだろう。暴れて怖がって怯えて、自分を本気の軽蔑の目で見つめてくるかもしれない。


(それは嫌だ)


 ソフィアがテリーの案に、こくりと頷いた。


「くすす。そうだね。とりあえずキスは最終手段として、どうしようか?」

「そうね」


 ソフィアがテリーの腰から手を離すと、テリーもソフィアから離れ、扉を観察する。


「鍵は向こうから閉められているのよね」

「そうだね」

「ソフィア、鍵になりそうなもの持ってない? 針金とか」

「残念ながら、何も」

「……役に立たない奴ね……」


 テリーがじいいいっと鍵穴を見つめる。


(あ、そうだ)


 テリーがひらめいた。


「ソフィア、あんたの目を使いましょう」

「ん?」

「ここに人が来たらあんたの目を使って鍵を探してくるよう誘導するのよ」

「なるほど。で、人はいつ来るの?」

「いつか来るでしょ」


 人は来る気配はない。

 テリーが黙る。


「……」

「テリー」


 ソフィアが微笑む。


「キスした方が、早いんじゃない?」

「他の案を考えるわ!」


 テリーが考える。はっとする。


「あ、そうだわ!」


 GPSを取り出す。


「これよ、これ! これでリトルルビィに助けを求めるのよ!」


 テリーが指を動かしてぽちぽちボタンを押す。


「行け! 送信!」


 深刻なエラーが発生しました。


「え!?」


 深刻なエラーが発生しました。


「どうしちゃったの!? おい! メッセージ行け!」


 信じたものは都合のいい妄想とー、繰り返し映し出す鏡ー。


「うるせえ! 早くメッセージ行け!」


 ここは電波が届きません。送れません。深刻なエラーが発生しました。


「畜生がぁあぁぁぁああああ!!」


 テリーが膝から崩れ落ちた。ソフィアがくすすと笑う。


「テリー」


 肩をそっと叩く。


「キスした方が早くない?」

「次よ!!」


 テリーは諦めない。ソフィアがため息をつく。


(そんなにキスが嫌?)


 ソフィアが腕を組んでテリーの抗う姿を観察する。


(キスをしたら出られるのに)


 どうしてそんなに抵抗するかな。


(……ああ、そうだ)


 それを利用しよう。


「テリー」

「うるさい。声かけないで。あたしは今真剣にこの扉と向き合ってるのよ。邪魔しないで」

「開く気配ある?」

「うるさい」

「キスした方が」

「うるさい」

「テリー」


 背後から近づき、耳元で囁く。


「そんなに、嫌?」

「っ」


 テリーの肩がびくっと揺れ、静かになり、再び扉を叩きだす。


「い、嫌よ。あんたみたいな女とキスするなんて」

「じゃあ、私が男だったら良かったの?」

「余計に嫌よ」

「なら、いいじゃない」

「あのね」


 テリーが不満いっぱいの目でソフィアに振り向く。黄金の目は、テリーを見つめる。


「あんたにとっては軽々しいものかもしれないけど、あたしにとってキスは、本当に大事なものなのよ。この人と将来を共にするって決めた人以外とは、したくないの!」

「家族にもしないわけ?」

「家族は別よ。他人じゃないもの」

「他人の私とキスをしたくないから、そんなに抗ってるわけだ」

「当たり前でしょう」

「そっか」


 ソフィアがふっ、と、寂しげに微笑む。


「他人でごめんね」


(え)


 ソフィアが優しく、テリーの頭を撫でる。その顔は、酷く傷ついたような、落ち込んだような顔。


(……え?)


「私、そんなに嫌われてたんだね」


 ソフィアの口角が下がる。


「……ごめん」


 ソフィアの手が、寂しげに、テリーの頭から離れた。


「確かに、私は親しい人とキスをするのを軽々しく思ってる縁があるかもしれない」


 だって、私には、


「もう、キスをしてくれる家族もいないから」

「……」


 テリーが眉をひそめて黙った。ソフィアがテリーに背を向ける。


「いや、いいんだ。ごめんね。別に君を責める気はない」


 ソフィアが微笑む。


「いいんだ」


 寂しげに微笑む。


「そうだよね。嫌だよね。こんなおばさんとキスだなんて」


 ソフィアが白い地面に座り込んだ。


「いいよ。君が言う、人が通るまで、ここで大人しく待っていることにしよう」

「……」


 テリーが黙る。ソフィアが黙る。部屋に沈黙が訪れる。テリーが眉をひそめ続ける。


(え?)


 寂しそうなソフィアの背中。


(え? 何を急にメンヘラチックになってるわけ?)


 部屋に閉じ込められて、不安になった?


(ちょっと。おい。部屋から出たいのはあたしも一緒よ)


 ソフィアは動かない。


(え……)


 テリーが歩き出す。


(これ、……え……、ちょ……)


 テリーの足が止まる。


(……あたしが悪いの……?)


 テリーが手を泳がせる。


(え、何? どうしたの? 急に)


 ソフィアが俯いた。


(え? え? え?)


 ソフィアの頬から、何かが光って見える。


(え?)


 きらりと光る雫が、落ちていくのが見えた。


「ちょっ」


 テリーがソフィアの肩を叩く。


「あんた、急にどうしたの!? 今日は乙女の日なの!? そういう日なの!? そういうことなの!?」

「くすす……。何のこと……? 別に、……何ともないよ……」


 ソフィアがテリーに振り返らない。顔を見せようとしない。テリーの胸に、罪悪感の槍がちくちく刺さり出す。


(やめろ! お前! その仕草! やめろ!!)


 罪悪感がちくちくちくちく!


(ふ、ぐううぅぅううう……!!)


「キッ!」


 テリーが、言葉を詰まらせながら、吐く。


「キ、キス、くらい、何よ! お前にキスくらい、何でもないわよ!」

「テリー」


 ソフィアがくすすとまた笑った。


「嘘は泥棒の始まりなんだよ」

「う、嘘じゃないけど!?」

「ありがとう。でもね、大丈夫だよ」

「えーい! やめろ! その沈んだ声! いいわよ! キスすればいいんでしょ! キスすれば!」


 テリーがソフィアの腕を無理矢理掴んで引っ張る。ソフィアが引っ張られ、テリーに振り返る。


「おっと」


 きょとんとするソフィアの顔を押さえ、テリーがぐっと顔を近づかせる。ごつんと、額同士がぶつかった。


(痛い)


 ソフィアの顔がしかめられるが、その勢いで、


「ん」


 唇が、テリーから押し付けられた。


(あ)


 ソフィアの目が、思わず細められる。


(柔らかい……)


 ソフィアの口角が、にやぁと上がってくる。


(ああ、やっぱり単純な子)


 ちょっと落ち込んだふりをすれば動いてくれた。ちょっと欠伸して涙をこぼせば動いてくれた。


(単純すぎて心配になる)


 テリーの腰を掴む。


(馬鹿な子)


 テリーの頭を押さえる。


(私が守ってあげないと)


「んっ?」


 テリーがきょとんとする。頭が後ろに下がらない。ソフィアから体が離れられない。そこで、自分の状況に気付く。


(……ん?)


 ソフィアによって、頭を固定されている自分に気づく。


(んんんんんんんんん!!?)


 ソフィアの肩を前に押す。動かない。


「んっ!」


 ソフィアの肩を前にぐっと押す。動かない。


「んんっ!」


 ソフィアの肩をぐーーーーっと押す。動かない。


「ん~~~~っ!!」


 ソフィアと唇が離れる。


「ぷはっ!」

「っすす」


 再び重なる。


「むっ!」


 ちゅ、ちゅぷ、ちゅ。


「む、むぅっ、ん、んむぅっ!」


 テリーがソフィアの肩を押す。しかし、唇は押し付けられ、ふにふにと動き出す。テリーの唇を感じようと、その感触を味わう。


(お、お前ぇぇええ……!!)


 テリーの瞼が上げられる。上がると、黄金の瞳と目が合う。


(へっ)


 見られてる。


「んむっ」


 鼻から声が漏れる。それも見られる。頬が熱くなっていく。それも見られる。ソフィアの肩を掴む。それも見られる。


(そ、そんなに、見るな……! この変態女……!)


 ソフィアの瞼が閉じられる。


(え?)


 今度は、口の中に舌。


「ふぁっ」


 舌が絡まる。


「んっ」


 口が開けられる。息を吸う。ソフィアの吐息が当たる。


(あ、ソフィアの息)


 テリーの肌に当たる。逆に、テリーの吐息も、ソフィアに当たる。


(可愛い)


 ソフィアが求める。


(テリー、恋しい、可愛い)


 ソフィアがテリーの舌に、舌を絡ませる。


(テリーの舌、熱い、もっと、テリーの熱、もっと、テリー……)


 舌が怯えてる。


(暖めてあげないと)


 舌を巻きつける。


(テリー)


 テリーを抱きしめる。


(テリー)


 テリーをもっと引き寄せる。


(テリーとくっついてる)


 熱い。


(テリーの匂い。テリーの舌。テリーの熱)


 熱い。熱い。熱い。


(テリー)


 ソフィアの胸がテリーの胸に押し付けられる。


(ああ、テリー、恋しい……)


 ソフィアの股の間がきゅうんと締め付けられてくる。


(触りたい……)


 胸がときめく。


(もっと触りたい)


 ドキドキして、ドキドキときめいて、治まらない。


(もっと……)


 テリーの腰から手が下りる。ソフィアの手がなぞるように下へ向かう。

 どんどん下へ向かっていき、行きついたテリーの尻の片方を、ぎゅっと握れば、


 テリーの秘められていた怪力が、ソフィアを思いきり突き飛ばした。


「そこは触るなぁあああああ!」

「わっ」


 ソフィアが地面に倒れる。テリーも勢い余って姿勢を崩した。


「ぎゃっ!」

「ひゃっ」


 ソフィアの上にテリーが被さった。テリーを受け止め、ソフィアがくすすと笑い、その頭を撫でる。


「……感じちゃった?」

「……だから、あんた嫌なのよ……!」


 テリーが耳を赤くさせ、ソフィアにしがみつく。ソフィアがまたくすすと笑った。


「嫌なの?」

「嫌よ!」

「そう」


 ソフィアが微笑み、テリーの耳元で囁く。


「私は、好き」


 テリーが黙る。体をぎゅっと強張らせ、黙り込む。ソフィアが固まったテリーの頭を優しく撫でた。


「テリー」

「……」

「キスをしたから、もう出られるね」

「……」

「ああ、そうそう」


 さっきの君の提案だけど、


「鍵も人もここには来ないと思うよ」


 もうすでに開いてるから。


「……ん?」


 テリーが顔を上げる。ソフィアが微笑んでいる。テリーの眉間に皺が寄った。


「……どういうこと?」

「テリー、私を誰だか忘れてない?」


 元、怪盗パストリル。


「鍵の細工なんて、朝飯前なんだよ」


 うん。


「最初に見た時に、ちょちょっと触って」


 もう、すでに開いてるから。


「人なんて来るはずないんだよ。だって、もう出られるんだから」

「……」

「くすす。可愛い顔」


 ソフィアが頭を少し上に持ち上げる。テリーの頬にキスをする。ソフィアの頭が下りた。テリーが般若の仮面を被っていた。


「くすすす!」


 ソフィアがテリーの頭をなで、笑い出す。


「テリー、可愛い。恋しいよ」

「……」

「くすす。その怒った顔も好き。大好き。恋しい」


 胸がときめいて仕方ない。


「愛してるよ。恋しい君」


 ソフィアが微笑む。


「誕生日、おめでとう」

「お黙り」

「くすすす!」


 そう言うと、ソフィアが再び頭を持ち上げる。テリーが顔を上げる。ソフィアの手が、テリーの顎を取り、そっと唇を寄せれば、テリーが頰を赤らめ、静かに瞼が下ろす。


(ああ、やっぱり、恋しい)


 ソフィアとテリーの唇が、再び重なった。










 キスしないと出られない部屋 END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る