クリスマスリースの奇跡2(ルビィ)


その夜。

ママとアメリが『キッド殿下』の誕生日パーティー会場に行ったから、クロシェ先生とメニーとでクリスマスの前日を楽しんだ。少し豪勢な食事を用意してもらって、三人で食べる。そしてクロシェ先生がママに秘密で買ってきたケーキを三人で頬張り、くすくす笑いながら、ケラケラ笑いながら、小さなパーティーを行った。


(キッドのパーティーなんて、行かなくて正解だった)

(こっちの方が、全然楽しい)


膨れたお腹を撫でながら、廊下を歩く。もう寝る時間だから、小さなパーティーは終わった。メニーは先に部屋に戻って、あたしはパパの書斎で少しくつろいで、ドロシーとまた少し世間話をしてから、それから、部屋に戻るところだ。


(うう…寒い)


パパの書斎も、パーティーをしたリビングもすごく暖かかったのに、廊下は寒い。暖房がついてない廊下は歩きたくないけど、部屋に戻るには歩くしかない。


ふと、廊下の窓を覗くと、


(あ)

(雪だ)


雪が降っている。


(ニクスの住んでる街にも、雪が降ってるかしら)


クリスマスカードは届いただろうか?


(去年は大変な思いをしただろうし、今年はゆっくりできているといいな。ニクス)


しんしんと、静かに雪が降り、地面に落ちる。その雪達が、積もる。


「ホワイト・クリスマスね」


微笑み、呟くと、


――――こんこん、とノックされた。


(ん?)


窓が、こんこんと、ノックされる。


「え?」


ここ、三階よね?

どうして、窓がノックされているんだ?

どうして、小さな手が、あたしが見ている窓をノックしているんだ?


(嫌な予感が…)


そっと、近づいて、窓を覗くと、


赤いポンチョを羽織り、赤いフードを被るリトルルビィが、屋敷の壁にぺったりくっついていた。


「きゃあっ!?」


悲鳴をあげて、慌てて、窓を開けて、声を上げた。


「ちょっと!あんた、何やってるの!」


リトルルビィと目が合い、壁にくっついたままのリトルルビィが微笑んだ。


「えへへ!こんばんは!テリー!」

「こんばんは、じゃないわよ!正気!?」

「ふふっ!気付いてくれてよかった!テリーの顔を見たくなって、来ちゃった」

「来ちゃったって…あんたね…」


呆然として片目を痙攣させ、はあ、とため息をついた。


「とりあえず、中入って」

「え?大丈夫だよ。すぐに帰るから」

「いいから入りなさい」


中に入るよう促すと、リトルルビィがきょとんとして、窓から屋敷の中に入る。頭の上に積もった雪をほろい、フードを脱いだ。 蒸栗色の二つに結ばれた髪の毛が表に出る。赤い瞳があたしを見上げてきて、微笑む。


「えへへ。メリークリスマス・イブ。テリー!」

「玄関から来なさいよ。どうしたの。こんな夜遅くに」


ぶるっ。


「ああ、駄目駄目。こんなところで話なんか出来ない。あたしの部屋で話しましょう」

「え!?テリーの部屋!?」


どきどきどきどきどきどき!


「何よ。初めてじゃないでしょ?」


呆れてじっと見下ろすと、リトルルビィが胸を押さえてむっとした。


「て、テリーの部屋に二人きりは、毎回ドキドキするんだもん!」

「何言ってるんだか。ほら、ついてきて」


リトルルビィのはめている手袋を掴んで、―――悲鳴をあげた。


「きゃっ!冷たい!」


リトルルビィが、またきょとんとする。


「え?それはそうだよ。ずっと外にいたんだから」

「なにこれ、手袋なのに氷みたいじゃないのよ!早く来なさい!」

「え、あ、でも…」


ぎゅっとその冷たい手袋を握って、引っ張る。


「ほら、早く」

「あ、はい」


ぎろっと睨むと、リトルルビィが大人しくついてくる。

手袋が冷たい。こんな寒いのに、外にいたというのか。


「あんた、なんでそんなあっさりしてるわけ?寒くないの?」

「うん。全然大丈夫だよ。吸血鬼だもん」


(あ)


あたしの心配が、一気に無駄になった。


(ああ、そうだった…)


がくっと、うなだれながら、自室に歩いていく。


(吸血鬼のリトルルビィは、いろんなものが麻痺している)

(強化されている、と言ったほうがいいのだろうか?)


寒さを感じず、熱さを感じず、火で足が燃えかかっていたとしても、にこにことその火を手でたたいて消すのだ。


(吸血鬼…恐るべし…)


足を進ませて、あたしの後ろにいたリトルルビィが部屋の扉を見て、


「あ」


声をあげた。


「リース」

「ああ、そうそう」


帰ってきてから、すぐに飾ったの。


あたしの部屋の扉に飾られた、リトルルビィが作ったクリスマスリース。リトルルビィがじっと見上げてて、立ち止まる。


「…飾ってくれたんだね。テリー」

「まあね」


ほら、そんなことよりも、


「さっさと部屋に入る」

「あ、う、うん」

「待ってて。何か温かい飲み物でも持ってくるから」

「ああ、あの…お構いなく…」

「勘違いしないで」


謙虚な態度のリトルルビィを、じっと睨む。


「あんたじゃなくて、あたしが飲みたいの」

「…ふふっ」


リトルルビィが笑う。


「それじゃあ、私も飲みたい」

「…そうよ。ソファーに座って、待ってなさい」

「はーい!」


リトルルビィの返事を聞いて、扉を閉める。

そのまま寒い廊下を早足で歩き、一階のキッチンに向かった。

キッチンにはあたし達が汚したお皿を磨くメイドが数名いて、あたしに気づいて、振り向いた。


「あら、テリーお嬢様、いかがなされましたか?」

「あの、何か温かいものが飲みたいの。二人分」

「まあ。そうでしたか。あ、でしたらテリーお嬢様」


メイドの一人が提案してきた。


「こんな寒い夜ですもの。ホットミルクはいかがですか?」


(ああ、そういえば、リトルルビィ、牛乳もいけたわね。…ホットミルクでいいか)


メイドの提案に微笑んで頷いた。


「お願いできる?」

「少々お待ちを」


提案したメイドが牛乳を温め、それをマグカップに入れて、ハチミツを混ぜて、二つのマグカップを運ぼうとトレイに乗せる。だけど、あたしがそれを止めた。


「ああ、いいの。あたしが運ぶから」

「え、大丈夫ですか?」

「うん。いいの。大丈夫。ありがとう」


お礼を言って、マグカップを一つずつ手に持って、寒い廊下に戻っていく。


(冷めないといいけど…)


ホットミルクをこぼさないように、気を付けて歩いて、三階の自室の扉の前にたどり着き、扉を蹴った。


「リトルルビィ、両手が塞がってるの。開けてくれない?」


(まだ部屋にいるわよね?)


疑いの気持ちのまま声を出せば、扉が開いた。あたしの両手に持つカップを見て、リトルルビィが驚き、慌ててマグカップを手に取った。


「ご、ごめんね。わざわざ…!」

「大丈夫。ほら、飲んで」


促すと、リトルルビィがマグカップの中身を見て、微笑んだ。


「あ、ホットミルクだ!ふふっ!私好きなの!」

「そう、よかった」

「うん、あのね。その…」


リトルルビィが微笑んだまま、―――切なそうな、笑みを浮かべて、言った。


「まだママが生きてる時に、眠れない夜とかに、お兄ちゃんが作ってくれたから…」


ホットミルクは、大切な思い出の飲み物。


「…リトルルビィ」


呼べば、リトルルビィがくすりと笑って、あたしに顔を上げた。


「テリーと飲めるなんて最高よ。一緒に飲んでくれる?」

「もちろんよ。あたしも寒いの」


ふっと微笑んで、扉を閉める。

リトルルビィと一緒に部屋のソファーに座り、ゆっくりと、暖かいミルクを飲む。

しかし、あたしの舌は温かいミルクを拒否した。


「うっ、熱い…!」


(寒い廊下にいたから、少し冷めたと思ったのに…)


ホットミルクが思いのほか熱くて、舌がぴりぴりする。

涙目になったあたしをリトルルビィが見上げた。


「テリーって猫舌なの?」

「それほど猫舌じゃないわよ。ちょっとだけ、…熱いのが駄目なだけで…」


ぺろっと舌で舐めると、まだ熱い。


「んん…」

「ちょっと冷ましてから。ね?テリー」


ふふっと、隣でリトルルビィが笑う。


(年下に諭されてる…!)

(なんか悔しい!)


むうっ、と頬を膨らませて、ちらっとリトルルビィを見る。すると、ばちっと目が合う。リトルルビィがずっと、あたしを見ていたようだった。目が合うと、リトルルビィの頬が赤く染まる。


「ん?…なあに?テリー?」


首をこてんと傾げて、嬉しそうにあたしを見てくる。


「なあに、はあたしが訊きたいわよ」


目を鋭くさせて、リトルルビィを見下ろす。


「何の用なの?こんな真夜中に。いい子は寝る時間よ」


あんた悪い子ね。


「赤い服を着た魔法使いが、プレゼントくれなくなっちゃうわよ」

「いいもん。テリー以外いらない」

「あんたは、またそういうこと言うんだから」


顔をしかめると、リトルルビィがあたしの肩に、こてんと頭を預けた。


「本当だよ?私、テリー以外ほしくないよ?」

「嘘つけ。もっと必要なものあるでしょ。生活用品とか、お金とか、着替えとか」

「あ、確かに…!」


リトルルビィが納得して、頷いて、でも、と首を振った。


「でも、テリーと会って悪い子になるなら、それでもいいや」

「これ飲んだら帰りなさい。家まで距離あるんだし」

「大丈夫。私、移動速度も速いから」

「吸血鬼ならではの瞬間移動を無駄に使うんじゃないの」

「えへへ」


叱ると、リトルルビィは嬉しそうに、また笑う。


(何を言っても笑う…)

(この子は何を考えているんだろ…)


こんな夜遅くに、屋敷の壁に張り付くなんて。


「夜遅くと言えば、」


思い出して、リトルルビィに振り向く。


「あんた、『キッド王子様の誕生日パーティー』はどうしたの?」

「ああ、キッドが城下の家に帰って、解散になったから」


もう疲れたよ。


「テリーがいなかったから、キッドがすっごい暴れてたの!」

「あいつ、また何やったの?」


呆れてこめかみを押さえると、リトルルビィがしかめっ面になった。


「もうね、ナンパ。口説き祭りだよ!ど天然のふりして取材に来てた記者の人達口説きまくってダンスしまくって、その中でも鬼記者って言われてる男の人がいたんだけど、その人がキッドと話したが最後。最初鬼のようだった堅物面が、でれんでれんに緩んだ顔つきになっちゃってて!キッドが、もう、老若男女も関係なく、人間をたらしにたらしこんでた」


(大暴れね…)


「しかも、裏でテリーがいないなら帰るって言う始末だもん」

「あいつ勤務放棄して何する気よ」

「そうだよ!本当に!王様と王妃様に怒られるのは私たちなんだよ?だからソフィアと私と、部下の人たちと、必死になって止めたんだよ。キッドってばそういうところ大人げないんだもん!疲れちゃった!」

「でも、パーティーはまだやってるわよね?」

「うん!朝の5時までやってるみたい!」


でも、キッドは王子様とは言え、17歳だし。



「ビリーのおじいちゃんと一緒に帰っていったよ」

「なるほど。それで解散か」

「ふふっ!そうそう。私も疲れちゃったから帰ろうと思ったんだけど」


なんか、なんとなく、


「テリーに会いたくなっちゃって」


今日、先に帰っちゃったから。


「…メニーと行けばよかったのよ」

「え?」

「今日のイベント」


あたしがわざわざ行く必要あった?


やっと飲めるようになったホットミルクを飲んで、ほっと、息を吐いた。


「あたしが連絡係になって、メニーに伝えて、それで終わりでよかったのよ」

「ん…?テリー、今日のイベント嫌だった?」

「嫌とかじゃなくて」


あんたはメニーと親友なんでしょ。


「あたしが入ったら、何というか…」


(邪魔になる)


「………………あたしが、行く必要ないと、思っただけ」


(それを口に出す必要はない)


別に、リトルルビィを困らせたいわけじゃない。


(そうじゃないけど)


何というか、

あの、のけ者になるような、感覚が、嫌なだけ。


「今度から二人で行きなさいよ。伝達係はいつだってするから」


そう言えば、


「…違うよ?」


横から、すぐに声が飛んできた。


「違う」


横を見ると、真剣な目で、リトルルビィが、あたしを見つめていた。


「なんか、勘違いしてない?テリー」

「…何が」


何も勘違いなんてしてない。


(お願いだから煽らないで)

(悪口が、悪態が、口から洩れる)


あたしの悪い所。


「あんた、メニーのリースもらってすごく喜んでたじゃない」


(違う。そんなこと言いたいわけじゃない)


「せっかくのクリスマス・イブなんだから、あたしに気なんか遣わなくてもいいのよ?」


(違う違う。そうじゃない)

(駄目だ。止まらない)

(自制出来ない)


「二人で話してるの、すごく楽しそうだったし」


(我ながら嫌味っぽい言い方)


「来年は二人で行きなさいよ」


(リトルルビィがまた気を遣ってしまうんじゃない?)


「その方がいいわ」


(ああ、もう、本当に駄目だ)


「ね?それがいいわ」


(あたしすごい嫌なこと言ってる)

(わかってるけど)


「あたしは行かなくていいもの。年下二人の女の子と、あんな寒い場所なんて」


止まらない。


(後で後悔するやつだ)


なんでこんなこと言ったんだろうって後悔するやつ。


(誘ってくれて嬉しかったのに)

(リトルルビィと楽しく過ごせたらそれでよかったのに)

(リトルルビィが笑うだけでよかったのに)


ああ、あたし、


―――今、とんでもなく、嫌な奴。


(やばい)

(嫌われる)

(リトルルビィに嫌われる)


ホットミルクを飲む。


(どうしよう)

(どうしよう)

(嫌な奴って思われたかも)

(そんなこと言うつもりなかったのに)

(大人げないって思われたかも)

(ああ)


ああ、





もう嫌だ。






「テリー」






リトルルビィに、呼ばれたと、思ったら、



ぽんぽん、と、頭を撫でられた。



(…ん?)


「ごめんね」


不安に、させちゃった。


リトルルビィが申し訳なさそうに、あたしを見つめていた。


「あのね、そうじゃなくてね」


リトルルビィの赤い唇が、動く。


「そうじゃなくてね」


恥ずかしそうに、喋る。


「あのね」


照れ臭そうに、喋る。


「私、」


リトルルビィが、あたしを、見つめる。


「私が、テリーと、いたかっただけなの」


あたしは、きょとんとする。


「…え?」

「あのね、だから」


イベント、


「元々、行く気なんてなかったの。クリスマス・イブはキッドのこともあったから、家で大人しく準備してようと思ってた」


でも、


「23日のキッドの誕生日パーティーで、テリーと喋ってたら、私、もっとテリーと一緒にいたくなって」


口実だった。


「どこか出かける予定を作っちゃえば、テリーと居れるでしょ?」


それと、


「…テリーだけ誘ったら、テリー、断ったでしょ?メニーがいるからって」


(うっ…)


よくわかってるじゃない…。


視線を逸らして、またホットミルクを飲むと、リトルルビィもマグカップを傾けて、ミルクを飲む。こくりと喉を動かして、放して、ふう、と息を吐いた。


「…だから、だったら三人でって思ったの。そしたら、絶対来てくれると思ったから」

「…ふーん」


素っ気なく返事をすると、リトルルビィが不安げな目で、あたしを見つめた。


「テリーのこと、のけ者にしたかったわけじゃないよ?本当だよ?」

「別にそんなこと言ってない」


(いいや、言ってる)

(遠回しに、あたし自分で言ってた)


これは、八つ当たりだ。


(年上として、最低じゃない…。あたし…)


自己嫌悪に浸り、うなだれると、またリトルルビィがあたしの頭を撫でる。


「テリー、そんな顔しないで?」

「…何よ。別に、普通よ。あたし、普通の顔してる」

「もう、テリーってば。素直じゃないんだから」


ふふっと、リトルルビィが微笑んで、マグカップを前にある台に置いた。


「今は二人だけの時間」


ねえ?テリー。


「これは、不安にさせちゃった、お詫び」


そっと、リトルルビィが、あたしに近づいたと思えば、


(え?)



――――ちゅ。



あたしの、頬に、リトルルビィが、キスをした。

途端に、あたしの顔が、ぶわっと、熱が広がる。


「わっ!わあああっ!」


慌ててキスされた頬を押さえて、リトルルビィに振り向く。


「ちょっと!な、何するのよ!?」


目を見開いて、ぎっ!とリトルルビィを睨むと、


―――リトルルビィが、ぼーーーっと、そのあたしの顔を、見つめた。


「……え?リトルルビィ?」

「はっ!」

「ん?」

「ごめん!テリー!」


ばっとリトルルビィが、頭を下げた。


「見惚れちゃった!!」


おい。


「あんた…見惚れたって…」

「だ、だって、テリー、今の顔…」


カーーーー、と、リトルルビィの顔が、真っ赤に染まった。


「か…可愛すぎる…!」


(はあ?)


何言ってるんだ。この子は。


(可愛いのはあんたでしょ。馬鹿じゃないの。可愛いリトルルビィから可愛いと言われても、全然説得力がない)


そんなことを思っていると、リトルルビィの目がハートに変わった。


「ああ…駄目…どきどきする…」


リトルルビィが、ぎゅっと、自分の胸を押さえた。


「どうしよう。テリー…」


胸のドキドキが収まらない。


「ねえ、テリー」


リトルルビィが見つめてくる。


「え…」

「テリー…」


リトルルビィが、近づく。


「ルビ…」

「テリー…」


リトルルビィの、甘い声が、耳に響く。


「テリー…」


誘惑するような、その声。


「テリー」

「いいよね?」

「もういいよね?」

「まだ、大人じゃないけど」



い   い   よ   ね   ?



リトルルビィの、赤い唇が、あたしの唇に、近づいて――――――――――



「……っ!!」



――――あたしの掌に、その唇が、くっついた。


「んっ…?」


リトルルビィが、きょとんとする。

あたしがキスを回避した手に、驚いて、きょとんとした。

あたしの心臓が震えていることなんて知らずに、リトルルビィが瞬きした。

そんなリトルルビィを見て、あたしの手が、真っ赤に染まって、震えた。


(リトルルビィ…)

(本気だった)

(本気で、キスする気だった)

(この娘、11歳という若さで、)

(あたしの唇に、キスする気だった…!!)


その赤い唇が、あたしの唇を奪おうとしていたと自覚すれば、なぜだか、更に顔が熱くなる。


「リトルルビィ…あんた…何を…!」


熱い顔のまま、じっと睨むと、リトルルビィの唇が、あたしの手から離れ、リトルルビィの手が、あたしの手を握る。


「………駄目?」


リトルルビィが、訊いてくる。

赤い瞳が、あたしを見つめてくる。

赤くなった頬が、あたしの瞳の中に、映る。


「駄目?テリー」


口に、キスしちゃ、駄目?


「…………っ」


こ、この子は…!


(本当に11歳!?)


普段は可愛い、本当に可愛い、妹みたいなリトルルビィが、熱い眼差しで、普段ヤギのように可愛い目が、狼の如く獣の目で、あたしを見定めている。

可愛らしく、あざとく、首を傾げて、あたしの手に、その頬を摺り寄せて、


「だめ?」


眉をへこませて、甘えん坊の声で、断ったら、泣いちゃうぞ、とでも言うように、ずる賢く、あざとく、切なげに、じっと見つめられて、見つめられて―――。


(ぐっ…!断るのよ!)

(テリー!断るのよ!)

(リトルルビィは、友情を愛情と勘違いしているだけの子なのよ!)

(騙されるな!この子の可愛い赤い瞳に、騙されるな!!)

(さあ、言うのよ!テリー!)

(駄目に決まってるでしょ!早く家に帰りなさい!リトルルビィ!!)


………………。


「……く、口以外なら…」

「ん?」

「そ、それなら、友達のキスでしょ…?」


目を逸らして、言うと、その言葉を聞いたリトルルビィが、にんまりと微笑んだ。


「ああ、確かに。そうかも」

「そうよ。それならいいわ」

「口以外」


じゃあ、


「ここは、いいのね?」


あたしの手に、キスを落とす。


――――ちゅ。


「んっ」


びくっ、と体を強張らせると、リトルルビィがあたしの手を、大切そうに握ってくる。


「怖くないよ、テリー。怖くない。怖くない」


子供に言い聞かせるように、言って、


「ちゅ」


また、キス。


「あっ…」


リトルルビィの、赤い唇が、あたしの手に当たる。


(ルビィが、キスしてくる)

(普段、可愛いルビィが、)

(妹みたいに可愛い、ルビィが)

(キス)

(あたしに)

(あたしの手に)

(キス)


――――ちゅ。


「ひゃっ」


(また、またしてきた)


「ふふっ」


リトルルビィが、笑う。


(あ、笑った)

(可愛い)

(むかつく、くらい、可愛い)


その笑顔を見るだけで、なんだか、顔が、かーーーーっと、熱かった顔が、もっともっと熱くなってきて、慌ててリトルルビィが握っている手を引っ張る。


「ちょ」


放さない。


「放してよ」

「もうちょっとだけ」


だって、唇は駄目なんでしょう?


「せめて、テリーの手だけでも」


――――ちゅ。


「っ…!」


――――ちゅ。


(ううううううううううううううううううう……!!!???)


胸が、ドキドキしてくる。

手にキスをされてるだけ。

それだけなのに。


(な、何よ)

(何これ何これ何これ何これ)


「んふふっ」


リトルルビィの笑い声が、耳につく。彼女が笑うたびに、あたしの胸が、またドキドキする。


(リトルルビィが、手にキスする)

(あたしの手にキスをする)


俯けば、またリトルルビィの唇が手に触れる。


―――ちゅ。


目を逸らせば、リトルルビィが大切にあたしの手にキスをする。


―――ちゅ。


目を泳がせば、リトルルビィが胸をときめかせて、あたしの手に唇を寄せる。


―――ちゅ。


「も…もう、満足でしょ…」


俯いたまま、ぼそりと言えば、リトルルビィがあたしの手を握る。


「まだ」

「…っ!ルビィ…!」


顔を上げれば、


「まだ、キスさせて?」


切なげに、儚い表情の、ルビィが、あたしの手を、握って、キスを、する。



ちゅ。


(…あ…)


ちゅ。


(ルビィ、)


ちゅ。


(ルビィが、キスしてる)


ちゅ。


(本当にあたしに、キスしてる)


ちゅ。


「あのっ」


思わず、声を出す。


「あのっ…」


ちゅ。


「あの、あの…!」


ルビィは、またキスをしてくる。


ちゅ。


「あの、あのっ…!あのっっ…!!」


ちゅ。


「ルビィ…!」


ちゅ。


言葉が出てこない。出てこない。


(待て待て待て待て)


心臓が震える。ぶるぶる震える。


(待って、待って、待って)


その重い想い重い思い思ひ想いに耐えられない。


(手よ。手にキスされてるだけじゃないの!)


ただの手!


(そうよ。ただの手よ!)


ただの手!


(大したことはない!)

(大したことはない…)

(ないのに…)


――――その赤い目が、あまりにも綺麗で。


赤い舌も、赤い頬も、全部、全部色っぽく見えて、妖艶に、輝いていて、

大人のように、うっとりと微笑むその笑みを見るだけで、


(逸らせない)


目が、離せない。





「…ごめん、テリー」


ルビィが、近づいた。


「そんな顔されたら」


ルビィが、瞼を下ろして、目を薄くさせる。


「我慢、出来ない」


あたしの首筋に、ルビィの顔が埋まる。はあ、とルビィの吐く吐息が肌に当たれば、あたしの体が自然と強張った。


「ぁっ…ルビィっ…」

「テリー、ごめん。後で沢山怒っていいから。今だけ…」


リトルルビィが、あたしの両手首を、掴んで、押さえた。


「ちょっとだけ、汚しちゃうかも」


でも、


「止まらないよ、テリー…」


そう言って、


「がぶっ」


あ。


がぶっと、首を噛まれる。


「んんっ…!」


一瞬、注射で刺されるような痛みが起きて、


――――――ビクンッ、と、体が跳ねた。


「ひぇっ…!?」

(なにこれ…!?)


体中の熱が、ルビィを求めているように、ルビィがあたしの血を飲めば飲むほど、あたしの体が熱くなっていく。


(なにこれ、なにこれ、なにこれ)


体が熱い。


(なにこれなにこれなにこれ)


ドキドキしてくる。


(なにこれなにこれなにこれ)


胸がきゅんきゅんと、締め付けられる。


(余裕が)


余裕が、なくなる。


「…ぁっ…ま、ルビィ…待って…」


ルビィの喉は、こくこくと、動く。それを、見れば、また心臓が高鳴った。


「まって、なんか、なんか変…!」


リトルルビィの乱暴に掴んでくる手が、義手が、触ってくるたびに、体が自分のものじゃないみたいに跳ねてしまう。


(何よ、これ…!)


「ルビィ…!…ルビィ…!」


絞り出すように、その名前を呼べば、ルビィが一瞬ぴくっと、反応して、噛んだその位置を、ぺろりと舐めた。


「ひゃっ!」


ルビィの舌を感じる。


(こ、このエロガキ…!)


じっと睨むと、ルビィの目と目が合って、はっとする。


(やっ…)

(目、合った)


にこりと、目が合ったルビィが微笑んで、また、あたしの首に顔を埋める。


がぶっ。


「あっ!だっ、から、やめ…!」


痛かったはずなのに。

めちゃくちゃ痛かったはずなのに。




―――――気持ちいいと、思うだなんて。




(なにこれ…)


ドキドキする。


(何、これ…)


ルビィの手が、重なる。


(ルビィの手…)


キッドに斬られて、つけられた義手の手が、あたしの首に触れる。


(これも、ルビィの手…)


ルビィに包まれてる。

普段は可愛い女の子のルビィに、抱きしめられて、血を吸われてる。


ヤギの皮を被った狼みたい。


(もっと)


ああ、もっと。


(もっと、ルビィ)


もっと、





求めて。





(ルビィ)



ルビィ。



赤い瞳に見つめててもらいたい。



(ドキドキする)

(気持ちいい)

(ぼうっとする)

(落ち着く)


ルビィに抱きしめられたら、落ち着く。心地好い。

ルビィのぬくもりが、体温が、あたしを包み込むようで、その体に、身を預ければ、委ねれば、もっと、もっと、ルビィと居られる気がして。


(なにこれ)


ルビィを、あたしが求めてる。


触れられたら、触れられるだけ、もっと、触ってほしいと、思ってくる。


(なにこれ)


こんなの知らない。


(こんな気持ち知らない)


知らないはずなのに。





この満たされるような、感覚は、何…?



(ルビィが欲しい)


欲しい。


(もっと傍に)


ルビィが、


(もっと近くに)


もっと見つめて、


(ルビィ)

(ルビィ)


ルビィ。










「…はっ…」



ルビィが、口を離した。


「危ない」


真っ赤な顔が、あたしから離れた。


「このままじゃ、本当に殺しちゃう」


そっと、あたしの傷穴に、自分の唾液を垂らした。じゅっと音が聞こえれば、穴は塞がれる。傷跡は、薄くなって、見えなくなった。ルビィの唇には、あたしの血がついている。それをぺろりと、舌で舐めて、ルビィが、残すことなく、あたしの血を、飲んだ。


赤い唇は、既に、あたしから離れている。



部屋に、静寂が訪れた。


呼吸が乱れている。

ルビィも。

あたしも。

目が合う。

顔が赤いルビィの目と、

顔が赤いあたしの目が、

ばちりと合って、


目が合って、


合って、




――――あたしは、鋭く睨み返した。




「ルウウウウビィイイイイ…!!」


あんた、何したのよ!!


「あたしに何したのよ!馬鹿!!」


ぎっ!と涙目で睨むと、リトルルビィが赤面して、胸を押さえた。


「はうっ!?」


ずっきゅーーーーん!!


「テ…テリー!!」

「うるさい!触るな!しっしっ!あっち行け!」

「か…可愛い!可愛いよお!テリー!テリー!!」


抱き締められて、顔をすりすりされて、あたしはその忌々しい体を押す。


「うるさい!離れろ!エロ吸血鬼!マセガキ!えっち!スケッチ!マイベット!」

「て、テリー…!可愛い!テリーの暴言が、もう、本当にたまんないくらい可愛い…!!」

「うるさいうるさいうるさい!」

「ねえ、テリー」


今の、感じてたよね?


「すごく、血が甘かった」


味わった事がない味だった。


「気持ちが昂れば昂るほど、血は甘くなるの。ねえ、ねえ、テリー。今、もしかして、私を求めてくれてたの…?」

「………っ」


あたしが、ルビィを、求めた?


「あはは」


あたしは笑った。


「あははははは!」


あたしは、大きく笑った。


「求める?何言ってるの?あたし、女なのよ?」


あんたも、女の子。


「あたしが同性のあんたを、求めたっていうの?」

「あたしがあんたの行動を、許したっていうの?」

「あたしがあんたなんかに、胸をときめかせたっていうの?」


ちょっとちょっと、そんなわけないじゃない。


「勘違いしないでくれる?あたしわかるわよ。あんた、あたしに変なことしたんでしょ」

「変なこと?」

「とぼけたって無駄よ?なんか、こう、胸がどきどきする催眠でもかけたんでしょ。だから体がおかしかったんだ」

「体、おかしかったの?」

「そうよ。血を飲むルビィを見たら胸がドキドキしたんだから。はー。本当に勘弁してよ。どんな呪いの技を仕向けてきたのか…」

「テリー…」


ルビィが、じっと、あたしを見て、首を振った。


「私、何もしてないよ」


―――――ん?


「血を飲んだ、以外、何もしてないよ」


というか、


「それ以外、何も出来ないよ」


じっと、ルビィが、あたしを見続ける。


「なんでドキドキしたの?」


ルビィが、あたしを見る。


「なんで、私を見て、ドキドキしたの?」


ルビィの頬が、赤く染まっている。


「テリー、答えて」


ルビィが、期待する目で、あたしを見る。


「どうして、ドキドキしたの?」






「……………………………………気のせい」



ぼそっと、呟くと、ルビィがきょとんとした。


「え?」

「気のせい」

「テリー?」

「気のせいよ」

「テリー」

「気のせいだったら!」

「テリー」


ううううううううううううううううううう!!


「気のせい気のせい気のせい!!勘違い!錯覚!幻!おしまい!!」


足を組んで、手で顔を隠して、身を縮こませて、真っ赤な自分の顔を隠す。


(な、何よ…何よ何よ!)

(あたしが、勝手にルビィにドキドキしたっていうこと?)

(なんで?)


なんで?


(なんでルビィなんかに、ドキドキするわけ?)


こんなのおかしい。


(おかしいわよ)


おかしい。


(そんなわけない)


おかしい。


(だって、あたし女だもん)

(ルビィも女の子で)

(女の子同士で)

(こんなの、ありえない)


ルビィを見て、胸が、ドキドキして、体が震えるなんて、


(そんなこと、あるわけない)


「…テリー」


ねえねえ。


「…抱きついてもいい?」


びくっと、肩が上がる。


(なっ…!?)


「な、何で…?」

「私が、テリーとくっつきたいから」

「…ふ、ふん!しょうがないわね!」


本当にしょうがない子ね!!


「あんたがそこまで言うなら、そうね、クリスマス・イブの夜で?人肌寂しい夜でしょうし?あたしは優しいから?別に、あんたが、そこまで言うなら、抱きしめられてあげなくもないわよ?」


別に、


別に、



(…あたしもルビィとくっつきたい、とか、思ってない…)

(思ってないんだから…!)


「…じゃあ」


ルビィの手が、伸びる。小さなルビィが、あたしにぎゅっと、抱きついてくる。


「……っ」


(わ)


ルビィが、くっついてる。


(わ、わ、わ…!)


ルビィに、抱きしめられてる。


(なにこれなにこれなにこれ)

(自制心自制心自制心…!)


どきどきどきどきどきどきどきどき。


(なにこれなにこれなにこれなにこれ)


こんな、こんな胸の高鳴りは、知らない。

感じたことが、ない。


(待て待て待て冷静になりなさい、あたし!)

(相手は11歳よ!?)


11歳の、夢見る可愛い女の子!


「…テリー」

「…ん、何よ…」


訊けば、くすっと、ルビィが笑った声が、耳元で聞こえた。


「テリー、温かい」

「…あんたが冷たいのよ」

「うん。だから、こうやってくっついたら、温まりそう」

「…あたしは暖炉か」


ルビィが笑う。


「そうだね。暖炉かも」

「なんですって?」

「だって、」


ふふっと、笑い声。


「私の体だけじゃなくて、心も、温かくなるの」


テリーに触れるだけで、ぽかぽかしてくる。


「私ね、クリスマスリース作りながら、お願いしてたの」


お願いします。

お願いします。

テリーが私の事を好きになりますように。

テリーがちょっとでも私の事が好きになりますように。

テリーがちょっとでも、幸せになれますように。

テリーがちょっとでも、笑ってくれますように。

テリーが、私と居ることで、幸福を感じてくれるように、なりますように。


どうか、どうか、お願いします。


テリーと二人で、一緒に、居れますように。


「テリーと、一緒に居たい」


そう願って、リースを作った。


「お願い、本当に叶っちゃった」


愛しいテリーを、抱きしめてるなんて。


「どきどきする…」


ねえ、テリー。


「テリー」


愛しいテリー。


「愛してる、テリー」


大好き。


「大好き」


大好き。


「大好き」


好き以上に、


「大好き」


大好き以上に、


「好き」


好きと、大好き以上に、


「愛してる」


愛している以上に、


「愛してる」


それよりも、愛を伝える言葉が見つからない。


「でも、でも、言葉じゃ足りない」


リトルルビィは、不満そうに、眉間にしわを寄せる。


「どうしたら伝わるかな…」


ぎゅっと、抱き締めてくる手に力が込められて、

赤い瞳が、あたしを見て、


「テリー」


あたしを、じっと、見つめて、

真剣な、表情で。


「愛してるの。テリー。大好き」





その一言に、




―――胸が、こんなにも高鳴るなんて。






胸が、高鳴る?

ちょっと、待った。



(落ち着け)


あたし、落ち着いて。


(落ち着け、落ち着け)


落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。


(相手は11歳)

(リトルルビィ)

(あたしの友達)


そうよ。友達よ。


(相手は女の子)


そうよ。同性の女の子。


女の子。

リトルルビィは、女の子。

恋愛出来ない、女の子。

彼女が抱いている想いは、錯覚だ。


そうに、違いない。

そうじゃないと困る。

困る。


(何故?)


困るわよ。

だって、この子に、こんなふうに、求められたら、誰だって。


(違う)

(これは)


自覚してはいけない、想いだ。


(駄目だ)


あたしは、罪人だ。


(駄目だ)


リトルルビィに、触れられない。


(だから)


触らないで。


(そんなふうに、触ってこないで)


触らないで。


(あんたが、汚れちゃうでしょ)


「テリー」


ルビィが、覗いてくる。


「テリーってば」


あたしが視線をそらす。


「また、何か隠し事」

「……そんなこと、してない」

「私にも言えないこと?」


心配そうな、ルビィの声に、胸がぎゅっと、締め付けられる。


「別に、隠し事なんてしてないわよ」

「そっか」


そうか。


「なら」


リトルルビィが、あたしの頭を撫でる。


「ちょっ…何よ?」


思わず、体が揺れると、リトルルビィの手が、優しく動く。


「少しでもテリーが幸せになれるように、私が頭を撫でてあげる」


甘やかせてあげる。


「私が、テリーを支えてあげる」


心地好い声が、耳に響く。


「何も、怖くないよ。テリー」


あやすように、あたしの頭を撫でる。


「テリー、大丈夫」


ルビィが、囁く。


「私が、傍にいるよ」





「………………ミルク、冷めるわよ」

「うん、そうだね」

「……外、寒いかも」

「私、移動するのだけは早いの。瞬間移動って言うんだって」

「…まだ、帰らなくていいの?」

「まだ、平気」

「…泊まっていけば?」

「え」


はっとして、否定した。


「……今のなし。早く帰りなさいよ」

「…テリー」


ルビィが、微笑んで、あたしの胸に抱き着く。


「テリー」


愛しいと言うように、抱き着く。


「テリー」


幸せそうに微笑んで、抱き着く。


「私、もう少し大人になったら、テリーのこと、もっと甘やかすの」

「もっともっと、テリーを支えるの」

「今はまだ小さいけど」

「もっと大きくなって」

「テリーの盾になるから」

「そうしたら、そうしたらさ」


テリー。


「私に、たくさん甘えていいからね?」


甘えてきたら、


「私が、またこうやって、テリーの頭を撫でてあげる!」


なでなでと、撫でられる。そんなルビィを、じっと、鋭い目で、見つめる。


「……せいぜい、頑張りなさい。ルビィ」

「うん、ふふっ!うん。頑張る!」


ルビィの笑顔が、眩しい。


(また笑ってる)

(あたしを見て、嬉しそうに笑ってる)


ルビィが、笑ってる。


(それだけで)

(それを見ただけで)


胸が満たされる、ような、気がする。



(きっと、クリスマス・イブだから)

(あたしも人肌寂しいんだ)

(だからだ)

(絶対そうだ)


そうじゃないと、ありえない。


(多分)

(このぬくもりを、落ち着くと思うのは)

(それはきっと)


クリスマスの、影響だ。


(そうに、決まってる)


そうに、決まっているんだ。



ルビィは微笑んで、あたしに抱き着いている。

あたしの手が、そっと、ルビィの背中に、伸びて、触れた。


白いクリスマスリースのついた扉の部屋は、暖炉の火のおかげで、とても暖かかった。





クリスマスリースの奇跡(ルビィ)END

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