不安の目に微笑みを

(*'ω'*)番外編『愉快で愉快な羽根つき大会』の続きとなります。

 ルビィ(11)×テリー(13)

 ――――――――――――――――――――――――――――――











「もしかして、テリーお嬢様、誰かと帰られる予定でしたか?」


 サリアの言葉にテリーは思った。


(なんか、羽根つきで勝負してたせいで、リトルルビィと時間を過ごせなかった気がする……)


 せっかく今年も新年の商店街に誘ったっていうのに。


(これじゃあ、意味ないじゃない)


 だったら、


(家に送るくらいしてあげてもいいかも)


 福袋は、また明日でも、来年でもいいし。


「ねえ、リトルルビィ……」


(このあたしが、家まで送ってあげてもよくってよ?)


 そう言おうと、テリーが声をかけようとすれば――。


「そういえば、メニーって、さっきお守り買ってなかったの?」

「いくつかお買い物はしたけど、お守りはまだ買ってないの」

「あ、そうなんだ」

「リトルルビィもまだ?」

「うん! よかったらお揃いにしよう! 色違いとかで合わせて!」


 リトルルビィが、メニーに満面の笑みを浮かべた。


「私、メニーとお揃いのお守り欲しい!」


 ……。


「ああ、そう」

「え?」


 リトルルビィが振り向くと、テリーから冷たい視線を向けられている。


「テリー?」

「じゃあ、メニーと帰れば?」


 テリーが歩き出す。


「あたし、一人で帰る」

「え」 


 テリーがとことこ歩いていく。


「え、テリー?」

「帰るから」

「ちょ」 


 キッドが慌ててテリーに駆け寄る。


「待ってよ! テリー! 俺への年賀状は!?」

「知らない」

「俺、勝ったのに!」

「知らない」

「あらあら」


 サリアが笑い、大股で歩くテリーとその後ろをついて行くキッドの背中に微笑んだ。


「困ったお嬢様ですこと」

「うう……?」


 リトルルビィが額を撫でながら、サリアを見上げる。


「サリアのお姉ちゃん、私、何か言っちゃった?」

「ふふっ。テリーは気難しい方ですから」


 リトルルビィ、


「お願いできますか?」

「お任せされます!」


 リトルルビィが敬礼して、テリーに走っていく。


「待って! テリー!」

「知らない」

「テリー!!」


 サリアがメニーと顔を見合わせる。


「帰りましょうか。メニーお嬢様」

「うん!」


 メニーが頷く。


「もう解散か。……なかなか楽しかった。くすす」


 ソフィアが笑い、テリーとリトルルビィの背中を眺めた。その後ろから追いかけるキッドの首根っこを、ビリーが掴む。


「キッドや、帰るぞ」

「じいや、俺、まだ年賀状貰ってない!」

「我儘言うんじゃない」

「……畜生ぉ……! あいつめ……!」


 キッドが恨めしそうにテリーの背中を睨み、地団太を踏んだ。



(*'ω'*)



 結局、テリーがリトルルビィを家まで送ることとなった。リトルルビィが眉尻を下げて、テリーを見上げる。


「いいのよ。テリー。私、一人で帰れるから」

「女の子一人だと危ないでしょ」

「私、吸血鬼よ?」


 平然として言うリトルルビィに、テリーがふんと鼻を鳴らした。


「いいから送られなさい。年上として示しがつかないわ」

「たった二歳違うだけなのに」

「たかが二歳。されど二歳よ。ほら、分かったら歩く」


 薄暗くなっても、商店街を歩く人々は数多い。


(でも、昼間よりはマシになってる……)


 リトルルビィは冷静にその様子を見ていた。


「テリー、福袋どうしようか?」

「メニーもいないし、もういいんじゃない?」

「お守りは?」


 テリーがじっと、リトルルビィを睨んだ。


(え?)


「……メニーとお揃いの買うんでしょ」

「あ、……ええっと……」


 その方が親友って感じがしていいと思ったんだけど。


(んん? どうしてテリーは怒ってるの……?)


「どちらにしろ、メニーがいないから今日は無しよ。明日にでも二人で買いに行けば?」

「え? テリーは?」

「あたしはいい。もういい。個人的に買いに行く。身代わりのお守りは今年、絶対必要よ」


 あ、そうだ。


「あんたも身代わりのお守り買っておきなさい」

「ん、なんで?」

「健康うんぬんより、今年は……」


 テリーが息を呑んだ。


「……今年は、事故に遭わないように、そういうお守りを持ってた方がいいかも」

「……? そうなの?」

「ええ。あんた、いっつも色んなお仕事に回ってるでしょ」


 ……。


 ぼそりと、テリーが呟いた。


「……10月……」

「え?」

「……」


 テリーが首を振った。


「ハロウィンって毎年、良くないことが起きるでしょ」

「あー。確かに。ハロウィン間近って、不吉な事ばかり起きるんだよね。悪夢を見たり」

「そうそう。今年もどうなるか分からないから、一応そういうのを持ってた方がいいんじゃない? って話」

「なるほど。じゃあ、厄除けのお守りかな?」

「そうね。厄除け。その方がいいかも。それを持ち歩きなさい」

「分かった!」


 頷くリトルルビィを見て、テリーが視線を逸らす。


「……そっか。……今年なのね……」


 テリーが、首を振る。


「はー。寒い寒い」

「テリー、一人で帰れる?」

「大丈夫よ。なんかあったらそこら辺に警察もいるでしょうし」

「うふふ。流石ね。テリー」

「警察にも休暇は必要だと思うけど、いないと困るから、いてくれるだけ有難いわね」

「犯罪が起きないのは警察のおかげだからね」

「そうね。警察には期待してるわ」


 テリーが頷く。何かを思って、頷く。


「リトルルビィも、何かあったらすぐに逃げるのよ」

「私は大丈夫! 吸血鬼だから!」

「こら、公共の場」


 テリーが叱ると、リトルルビィがくすくす笑った。


「あ、そうだ。ねえ、テリー」

「ん? 何よ」

「あのね」


 せっかく二人きりだから、


「良かったら……」


 そっと、リトルルビィが手袋をはめた手を差し出す。


「……手、繋ごう?」

「……別にいいけど」


 テリーがリトルルビィの手を握り締めた。


「えへへ! やった……」


 ぎゅうっと、リトルルビィが手を握り返してくる。その手を、テリーがじっと見つめる。


「テリーと手が繋げて嬉しい!」

「……あ、そう……」


(ん?)


 あれ?


(……テリーの機嫌が治ってる……)


 リトルルビィがきょとんとする。テリーが、そんなリトルルビィと目を合わせ、睨んでくる。


「何よ」

「……うーんとね」


 リトルルビィが微笑んだ。


「テリーが可愛いなって」

「……」

「あ、疑ってる目だ。本当よ! 今、見惚れたの!」

「……はいはい。そうなのね」


 テリーが視線を逸らしてぼそっと呟く。その声には照れも含まれている気がする。


(なんか、テリーが機嫌治してくれたから、いいや!)


 リトルルビィがにこにこと微笑み、その手を、大切に握り続ける。


「ふふっ! 私、嬉しかったの! テリーと新年早々一緒にいられて」

「……あ、そう」

「羽根つきも、つい本気出しちゃった」

「もうあんなに大暴れしたら駄目よ」

「分かってるもーん」


 リトルルビィとテリーの歩幅が揃い、一緒に歩いていく。


「ねえねえ、テリー。今年はどんな一年にしたい?」

「……そうね。何事もなく、平和で、」


 ……。


「……何も起きない一年になってくれたら、いいかもね」

「大丈夫よ。早々簡単に変なことって起きないから」

「……どうだか」


 テリーが薄く微笑んだ。


「どうなるかなんて、分からないじゃない」


 その目は物語っている。


「誰にも分からない」


 これから起きることを、語っている。

 それでも、


「もしテリーに何かあったら」


 その時は、


「私がテリーをまた守ってあげる」


 微笑むリトルルビィに、テリーが振り向く。にこっと口角を上げると、それを見たテリーが目を見開いて、ほんの少し目元を緩ませて、それを隠すように、ふいっと、顔を背けた。


「寒い」

「うん。寒いね」

「本当に寒い」

「私の家でホットミルク飲む?」


 クリスマス・イブのことを思い出して訊けば、テリーの手に、ぐっと力が入った。


「……暗くなるから」


 断られると思えば、


「一杯だけ……貰おうかしら」


 素直じゃないその姿に、リトルルビィの胸がきゅんと鳴る。


(うん)

(そういうところも好き)


 素直じゃないように見せて、本当に素直なテリーが好き。

 そう思えば、リトルルビィの体が、ずくんと、疼く。


(あ)


 これ、


(……)


「テリー」


 リトルルビィが、指を差した。


「あれなんだろう?」

「ん? どれ?」


 テリーが顔を上げてその方向を見る。その隙をついて、リトルルビィが背伸びをして、テリーの頬にキスをした。


 ――むちゅ。


「……」

「えへへ……」


 リトルルビィがくすくす笑う。


 ああ、可愛い。


(可愛い……)


 テリーが可愛い。


(年上なのに)


 もっと、もっと愛したくなる。

 もっと、もっと恋したくなる。


「テリー」


 手を、握る。


「大好きよ。テリー」

「……知ってる」

「ふふっ」


 リトルルビィは、笑う。


(満足)


 リトルルビィが一歩足を出した瞬間、手を引っ張られる。


(ふえ?)


 振り向くと、テリーが目の前にいた。


(っ)



 ――額にキスをされた。




「……年上を驚かせたお返しよ」


 テリーが歩き始める。


「ほら、早く帰るわよ。もう暗いわ」


 リトルルビィがテリーに引っ張られて歩き始める。


「明日こそお守り探しする?」

「……うん」

「そう。じゃあ行きましょう」

「……うん」

「厄除けよ。覚えておいて」

「……うん」

「安心しなさい。メニーも連れて来るから」

「……うん」


(こんなこと思っちゃいけないんだろうけど)


 リトルルビィがテリーの手を握り締めた。



(……テリーと二人で行きたい……)



 手を繋いで二人は歩く。

 明日のことを考えてまた歩く。

 厄が近づいているけれど、テリーは知っているその厄を心に秘めて、歩き出す。


(どうか、少しでもリトルルビィが、笑っていられますように)


 あの惨劇に、この子の笑顔が取られませんように。


 どこかで、祈りを込めて、リトルルビィと手を繋ぐ。




 空には、新年の星空が輝いていた。






 不安の目に微笑みを END

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