弟子の勇気、師への信頼
「ばっ……!?お前馬鹿か!?囮なんて危険な真似させられるか!死にたいのか!?」
俺はサラちゃんを思い切り怒鳴りつけた。囮になるなんて、余りにも無謀だ。
「私が死ぬ前にイブリスさんがあれを倒してくれれば大丈夫です!」
「大丈夫じゃない!そんな保証はないんだぞ!?それにサラちゃんはさっき魔力を異常なほど使ってるんだから休まなきゃ駄目だ!!」
「囮になるだけなら魔力はそんなに使いません!」
ああ、駄目だ、これは言っても聞かないモードのサラちゃんだ。まだ弟子にとって二日目だというのに、このモードには困らされている。そもそもこんな調子で弟子にしてくれと言ってきたのだから。
「私が杖魔法を一発だけ使ってあれの気を惹きます。そうなればきっと私に攻撃してくるはず、だからその隙を狙ってイブリスさんが攻撃してください!」
「ちょ、おい!」
そこまで言うとサラちゃんは走って行ってしまった。止めようとするもその身軽さもあってか案外足が速く、すぐに距離が離れてしまう。
「くそっ、仕方ないか」
弾丸娘め。少しは自分の身を案じてくれないものだろうか。
……でもこれは信頼の証なのかもしれない。
サラちゃんは『私が死ぬ前に倒してくれれば大丈夫』と言い、迷うことなく囮になった。つまり、身に危険が及ぶ前に俺が倒すことを信じているということだ。
なんて無責任なのだろう。出会って数日しか経っていない男に、よくもまあ自分の命を預けられるものだ。はっきり言って神経を疑う。
……だが。
「……悪くないじゃねぇか」
ここまで頼ってくれるんだ。怪我一つさせるわけにはいかない。
俺はポーチから銀の弾丸を一つ取り出し、覚悟を決めて装填した。
* * *
「はぁ……はぁ……このあたりでいいかな」
イブリスさんのもとから離れた私は出来るだけ狙いやすい草原の真ん中へ走ってきた。
魔力を使いすぎたせいかたまに目眩が襲ってくるが、とりあえずは問題ない。息を整え、空から私たちを探している鳥の魔物を見る。
丁度いいことに魔物の真下に来たらしい。これなら魔法で狙うのが楽になる。
「……大きいなぁ」
こうして近寄って見るとその巨大さが良くわかる。小型の奴の10倍はあるのではないだろうか?
通常の魔物とボスモンスターでここまで様変わりするなんて、驚きだ。
待機しているイブリスさんのほうを見る。イブリスさんは私の視線に気がつくと、ゆっくり頷いてみせた。
「……よしっ」
大丈夫。絶対イブリスさんが守ってくれる。
私は覚悟を決め、杖を構えた。
「お願いっ!こっちを見てっ!」
魔物に狙いを定めて、杖に最低限の魔力を流し込む。
その魔力に反応して杖に取り付けられた宝玉が輝いた。光量はあっという間に増して行く。
そして宝玉がひときわ明るく輝くと、弧を描く光線が数本、魔物に向かって発射された。
光線は魔物目掛けて突き進み、その翼と腹に直撃。魔物が巨体を揺らす。
「……っ」
狙い通り、魔物が私を睨んだ。私を隠していた魔法はしっかり解けたらしい。
一方でイブリスさんには見向きもしない。ここまでは作戦通りだ。
そしてこの魔物が次にとる行動は……
「キシャアッ!」
……私への攻撃だ。
繰り出される私に向かっての急降下。迫りくる巨大な槍のようなくちばしに、思わず目を瞑ってしまう。イブリスさんのことは信頼しているとはいえ、やはりいざこうなると恐怖が襲ってくるものだ。
一瞬怖気づいたせいで防御魔法ももう間に合わない。あとは……
「イブリスさんっ……!!」
私の師匠次第だ。
「……」
数秒たった。攻撃が当たる気配は無い。
恐る恐る目を開くと……怪鳥は、地に落ちていた。
翼の片方は根元からもがれ、魔物から少し離れた位置に落ちている。その傷口は嫌に綺麗で、まるで切り取ったようにも見えた。
……成功だ。イブリスさんがこの魔物をうまく仕留めてくれたのだ。
「や……やったぁ……」
途端に足がすくみ、その場にぺたりと座り込む。もう緊張する必要も無い。
そう自分に言い聞かせつつ、深呼吸で心を落ち着かせている私に、イブリスさんが銃をしまいつつ走りよってきた。
「サラちゃん!大丈夫か!?」
「えへへ……イブリスさん、ありがとうございました」
私はお礼を言う。
守ってくれたお礼。魔物を倒してくれたお礼。
その返答は……
「馬鹿っ!なんて危険なことしやがった!」
喝の言葉だった。
……うん、まあ、そうだよね。
「今回はたまたまうまく行ったが、毎回こうとは限らないんだからな!?もう二度とこんな真似するんじゃない!」
「ご、ごめんなさい……」
イブリスさんの正論にぐうの音も出ない。確かに今回の私は少し行動を焦りすぎた。少しでもイブリスさんの役に立ちたいあまりの行動がイブリスさんの心配を招いてしまったのだ。
「……まあ、無事でよかった」
イブリスさんは説教の後にその一言だけ口に出して、煙草をくわえた。
魔物はもう絶命してしまったのか、目を閉じて動く気配もない。
……勝ったのだ、私たちは。
「ま、二人で挑む初めてのボスモンスターとしちゃ……勝てただけ及第点ってところだろう。改善点はまだまだあるがね」
「……がんばります」
「とりあえずサラちゃんは自分の実力をしっかり理解してそれに見合った魔法の使い方をするところからだ」
「は、はいっ!」
イブリスさんの言葉が胸に突き刺さる。
無理をしない、ということは自分だけでなく周りのためでもある。実力に見合った仕事をする。適材適所というやつだろう。
「……あれ?イブリスさん、あれは……?」
遠くから馬車が走ってくるのが目に入った。見たところ私たちの乗ってきたものとは違うようだ。それよりも少しだけ大きく、中には”機関”の職員が乗っているのが見える。武器が詰まれた荷台も引いているようだ。
「……ん、ありゃ”機関”の馬車だな。あの御者のおっさんが救助を呼んでくれたんだろうが……おせぇっつーの、全く」
イブリスさんが悪態をつく。くわえたタバコが話すたびにゆれ、灰がぽろぽろと地面に落ちた。
「でもまあ、帰る足ができたのはありがてぇな。歩いてアヴェントまで戻るのは流石につらいもんだ……んじゃ行くぞサラちゃん」
「あ、は、はいっ!」
近くに止まった馬車へイブリスさんが向かって行く。私はその後に小走りで続いた。
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