魔術の師匠はフリーター
五木倉人
少女、フリーターと出会う
プロローグ:少女とフリーター
「イブリスさん!そっち行きました!」
白いローブを着た白髪の少女が叫ぶ。
その叫びとともに視界にこちらに突進してくるサイのような魔物が現れた。
「あいよ!」
俺は手に持っていた銃をそいつに向け、ぶっ放す。
彫刻の施されたアンティーク・リボルバー。銃弾は銀製だ。
銀はもともと柔らかめの金属のためたいしたダメージにはならないが、元からダメージになど期待していない。
この銃撃の目的は弾丸に込めた魔法である。
銀、これほど魔力の媒体として優秀なものはないのだ。
「動くんじゃねぇ」
銃弾は俺に向かっていた魔物に直撃。直後、魔物がその動きを止めた。
込めていた魔法は拘束の魔法。黒属性の中でも汎用性の高いものだ。
銃に新たな弾丸を補充し、動けなくなった魔物に狙いを定め、放った。
「跡形もなく消し去ってやる」
撃ちだした弾は黒い波動となり、魔物を飲み、その体を削り取っていく。
やがて波動が収まるころにはその魔物がいたはずの場所には何も残っていなかった。
「イブリスさん!後ろ!」
「っと!」
そうこうしている間に後ろから違う魔物が迫ってきていたらしい。振り返ったときにはすぐ近くまで迫ってきていたが、俺にたどり着く前に出現した防壁に激突した。
プリーストである白髪の少女の魔法だ。
「大丈夫ですか?」
「っぶねぇ……助かったぜサラちゃん。全く二匹もいるなんて聞いてねぇぞ……」
「そ、それが……」
少女が不安そうにあたりを見渡す。
「……ウッソだろ……これ全部クエストの標的かよ」
一匹二匹で何をうだうだ言っていたのか。
10はいる。もしかしたら20いるかもしれない。 俺たちの前には、同じ魔物が無数に現れていた。
「い、イブリスさぁん……」
「たっくしょうがねぇなぁ……」
これはあまり多用したくないのだが、こうなってしまっては仕方ない。
俺はまた新たな銃弾を装填し、今度は自分の頭に突きつけた。
「巻き込まれんじゃあねぇぞサラちゃん」
「は、はい……!」
少女が俺にしがみついてくる。
犀たちも動き出した。仲間の敵だろうか、それとも縄張りを荒らされたことに対する怒りだろうか、その鋭い角を武器に俺たちに迫ってくる。
「”flooD”」
俺は犀たちを一瞥し、静かに引き金を引いた。
「ぐっ……!」
銀の銃弾が頭を貫く。相変わらず、かなり痛い。
銃弾は確かに俺の頭を貫通したが、しかし血液が噴出すことはない。
その代わり、現れたのは無数の黒い怨霊……のようなもの。
それらはそれぞれ犀に向かって飛来し、とり付き、そして内側から……消した。
一度に全ての敵を殺す、範囲攻撃。非常に強力だが、使うたびに自分を撃つ必要があるので正直進んでは使いたくない。
「や……やった!クエストクリアです!これで今晩の宿代は確保できました!」
「飯代がまだだけどな」
「うぇ……」
「おまえさぁ……いい加減正式なギルドにつけよ。俺みたいなフリーターと一緒だとお前のためにもならないし俺の金も足りねぇの。宿代が二人分になるだけでも結構きついんだぞ?」
そう、先ほどから俺と行動をともにしてるこの少女……別にたいした知り合いというわけではない。
俺は正式なギルドに所属していないフリーター。一般の依頼を受けつつどうにか食いつないでいるろくでなしだ。
彼女はそんな俺に……
「い……嫌です!私はイブリスさんを師匠にするって決めたんです!」
魔術を習いたいという物好きだ。
……こうなった理由は数日前までさかのぼる必要がある。
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