告白のプレゼントが生首って重すぎません!?

黄鱗きいろ

プロローグ

 愛の告白をされた。

 相手は男で、しかも会ったこともない相手だ。

鮎喰あくいくん」

 声が震えている。猫背がちな自分よりもずっと上の位置から、ひきつったようなその言葉は降ってくる。

「俺、あなたのことがずっと好きでした」

 何を言われたのかすぐには分からなかった。まるで回し車のように巡る思考を、なんとか整理しようとする。

 彼は誰だ。どうして俺の名前を知っているんだろう。いや、そんなことより、好きってどういうことだ。そんな自分には程遠い言葉は、女の子にも言われたことはないっていうのに。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 突然の言葉で頭は真っ白になっていたが、「それは恋愛的な意味で?」となんとか聞き返したのだと思う。スーツ姿の男は真剣な表情で頷いた。

 真剣な、というのはおかしな話かもしれない。なぜなら俺には、彼の顔がぼんやりと歪んで見えていたからだ。

 緊張と混乱で噴き出してくる汗をそのままに、顔を俯かせる。綺麗に靴墨が塗られた高そうな靴と目が合った。

 服飾品に頓着しない俺とは不釣り合いな相手だということはすぐに分かる。そんな存在がどうして俺の前なんかにいて、どうして愛の告白なんてしているのか。相手を間違えてるんじゃないか。

 視線をちらりと上げると、ぼんやりとしていたその顔がさらに黒い霧のように覆われていた。

「付き合ってくれとは言わない。だけど――」

 彼は顔を俯かせて、多分苦しそうな顔をしながら言葉を絞り出す。

「せめてこれだけでも、そばに置いてくれませんか」

 差し出された物を、俺はとっさに受け取ってしまった。

 直径はちょうどボーリングの玉ぐらいで、大きさの割には軽いが、なぜだかずっしりと異様な重みを感じる物体だ。

 男はそれを俺に押し付けると、踵を返して大股で歩いていってしまった。まるで慌てて逃げていったかのようだ。残された俺は、腕の中のそれを改めて見下ろす。

 後ろに撫でつけた少し跳ねた黒髪、球体から生えている首筋、前面には彫りの深い凹凸があり、直視が難しいほど整った顔を作り出している。


 それは、今しがた立ち去っていった男の「生首」だった。

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