第6話
下り坂を文字通り転がるように駆け下り自転車で駅前公園に乗り付けたものの、橘京子の姿は見当たらなかった。それどころか、道路の向かいに小さい男の子と母親がいる以外、ほとんど人の気配がない。まだ学校終わる時間ではないし、当然といえばそうかもしれない。人を呼びつけておいてどういう了見だ。
「ほんとだもん!女の子がクルマにおしこまれてたもん!」
向かいにいたさっきの男の子が、泣きながら母親に怒鳴っていた。
「なあきみ。その女の子が車に押し込められたのを見たのは、今からどれぐらい前だ?」
突然話しかけたからだろう、男の子がびっくりした様子で俺を見た。
「えっとね、20分くらいまえ」
ちょうど俺が高校を出たくらいだ。
「どんな女の子だった?たとえば、そう。髪型とか」
「長くてふたつにわかれてた」
最悪だ。俺が頭を抱えている間に母親に引っ張られて男の子はどこかに行ってしまった。辺りにはひとっこひとりいない。ただセミの鳴き声が…無い?
その時突然太陽の光が無くなった。何だこの季節を無視したような…暑いどころかむしろひんやりさえして…思い出した。これは…ヤバい!
俺は自転車をおいて、酷使しつくした足に鞭を打ち全力で走った。しかし、やはりというべきか、ほどなくしてやわらかい透明な壁のようなものに阻まれてしまった。
「出てこい!」
俺が叫ぶとエコーが小さく聞こえた。と思うのとどっちが早かっただろう。唐突に、あるいは最初からそこにいて、今初めて気配を発したというべきなのかもしれない。そいつが現れた。
「お前か」
俺の怒気を気にする様子もなく、長門達とは異なる宇宙人―周防九曜―は平然と存在していた。
「お前がハルヒに何かしたのか!長門も!古泉も!朝比奈さんも!全部お前が!!!」
「違うのです!九曜さんは関係ありません」
突然何もない空間から橘が飛び出してきた。お前もグルだったんだな。
「いい加減人の話を聞いたらどうだ。あんたに聞く気がないんなら僕達は帰るぞ」
背後から金輪際聞きたくはなかった声が聞こえた。ただ認めたくないのでゆっくりと振り返る。ふてぶてしい面構えの未来人、藤原が五体満足でいやがった。
「話を聞いて!本当に時間がないの!長門さん達から逃げるために九曜さんにこの空間を作ってもらったのです!」
自業自得だ。いくらあのくそったれ思念体だろうと長門を攻撃されて黙っているような…逃げるって、誰から?
「だから!長門さん達が攻撃してくるから、逃げているの!」
「じゃあ長門は無事なのか!古泉は!朝比奈さんは! 」
「人の話は最後まで聞けって教わらなかったか?橘がさっきから言おうとしているだろう。あんたが割り込んでくるから話が先に進まないんだ」
藤原のいうことは憎たらしいほど正論だった。すまん、ちょっと頭に血が上ってた。教えてくれ。長門達は無事なのか?
「はい。長門さんも古泉さんも朝比奈さんも無事です。ただ」
「ちょっとまて、ハルヒはどうなんだ」
「話が逸れてばかりだな。橘がさっき言いかけたが、長門有希達は誰を狙っているか分かるか?」
「んなこたどうでもいい!ハルヒは今どこにいる!」
「佐々木だ」
「ハルヒは…何だと!? 」
「話をさせてください。佐々木さんが危ないの。助けて」
助けて、とまた言われた。ハルヒの声とダブって聞こえた。すると突然、九曜がくるんと俺たちに背中を向けた。ぶわぁっと髪を逆立てるように、存在すらはっきりしない周防九曜が、何かしらの明確なアクションをとろうとしていた。
「ちょっと時間がかかっちゃった。あらキョン君、大丈夫?ところで、佐々木って子がどこにいるか、知らない?」
待ち合わせをしている友達を探すような気さくな雰囲気で、笑顔を顔に張り付けた朝倉涼子がそこにいた。
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