ベジタブル攻城戦
第21話 負けられない戦い
空間を裂くような、鋭利な音が響き渡る。戦場に響くそれは聞き慣れた銅鑼の音ではなく、熱を持たない機械音であった。それは断続的に鳴り続け、スヴェンがいる場所を示して赤い光を明滅させている。
「ちっ」
舌打ちして物陰から飛び出した。居場所が割れているのに一ところに留まっていては、そう遠くないうちに包囲されるだろう。
「隊長!」
後方から、珍しく切羽詰まった部下が声をかけてくる。振り向かずにそれに応じた。
「なんだ!」
「一度撤退しましょう。この城壁、思った以上に堅牢です」
「……致し方あるまい」
苦々しく吐き捨てる。もともと今回は偵察のつもりだったが、まさか城門に近付くことすら出来ずに発見されてしまうとは。
逃走の最中、スヴェンは急に足を止めた。後ろから来た部下が背にぶつかる。そのスヴェンの鼻先を、矢が掠めた。
矢が来た方向、そちらには必ず射手がいるはずだ。だが射手はすでに、無駄に分厚い城壁の向こうに隠れている。わずかに開いた隙間からでは、敵からの攻撃は可能だが、こちらから攻撃を仕掛けることはできない。
「くそっ! 急ぐぞ!」
スヴェンとクリスは二人、踵の音を響かせて駆けた。もう何本か追撃の矢が放たれていたが、もともと当てるつもりなどないのだろう。牽制目的の矢の狙いはてんで適当で、避けるまでもなく外れていた。
攻撃の射程範囲外に出て、ようやくスヴェンは立ち止まる。額に浮かんだ汗をぬぐった。振り返ると、その視線の先では、スヴェンらをあざ笑うように追い払った建造物が仁王立ちしている。
それはまさしく、城と呼んで差し支えない存在感だった。
本来あれは研究施設だったはずなのだが、城に思えないのはせいぜい、三階建てという建物の低さだけだ。ここからでは、城門に邪魔されて肝心の研究施設までは目が届かない。最近の施設は城門や城壁、物見まで完備するよう法で定められているのだろうか。
息を整えたクリスが、首筋を流れる汗を手の甲でぬぐいながら、苦々しげに零した。
「まさか、こんなに苦労することになるなんて……」
「まったくだ。末代までの恥だな」
冗談じみた声色で呟いたが、本当に冗談ではなかった。
「笑えないですよ。……王子の護衛隊が、人参や大根に負けたなんて」
「まだ負けてない。次は突破する。さあ、戻るぞ」
「そうですね。相手が人参とあっては……さすがに俺も負けられません」
味方の軍は、王子直属護衛隊、通称君影隊。相対するは、人参や大根、白菜に茄子……。そう、ベジタブル連合軍だ。
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