自動車運転AI教習所のポンコツ×チート

ちびまるフォイ

いったいここで何を得たというのか

「あ、今日から教習所に入る方ですか?」


「はい、よろしくお願いします」


「このご時世、免許を取ろうなんて人珍しいですよ。

 みんなジェットブーツで空を飛んで車不要の時代ですからね。

 取るなんて、ヤンキーくらいなもんです」


「ヤンキーなのに免許は取るところが愛らしいですね」


「あなたはどうして?」


「僕はどんなことにも完璧で準備万端でいたいんです。

 なにか不足したり、頼まれたときにすぐに対応できないのが耐えられない。

 免許があればいざというとき運転できるでしょう」


「素晴らしい! その高い志があればすぐ取れますよ!」


かくして、自動車運転の教習がはじまった。

教習所では実際に車を動かすパートと、

道路のルールなどを覚える座学パートがある。


「まあ、せっかく来たわけですし、適正判断も含めて車乗っちゃいますか」


「適正って、運転に才能とかあるんですか?」

「そういうものじゃないですけど」


教習車がスマホ操作ひとつで到着すると、教習官と一緒に乗り込んだ。


「ではハンドルを握って」

「はい」


ハンドルを握った瞬間に声が聞こえた。


『はわわ、どこまで行きますかぁ?』


「……え?」


『あ、あのぅ、目的地を教えてくださいですぅ~~』


「なんですかこのちょいちょい鼻につく喋り方は」

「あ、ダメですよそんなこと言ったら!!」


『ふえぇぇ~~ん! やっぱりですよね!

 私みたいなポンコツなんか乗ってくれませんよね!

 思い切って話しかけてごめんなさいぃ~~!!』


教習官もろとも外にはじき出されてしまった。


「な、なんですかこれ!?」


「知らないんですか。いまやどこもどんな場所もAI化。

 車の自動運転だってAIが搭載されてるんですよ」


「でもはじき出されましたよ」


「それが適正判断なんです。

 あなたがAIと上手くやっていけるかのテストです」


「運転の技術は!?」


「いまやアクセルだのブレーキだのを人間に任せるほうが危険です。

 AIとコミュニケーションを取って、運転してもらうのが普通です。

 ハンドルを握るのはそれっぽさを出すためのものなんですよ」


「そんな馬鹿な……」


「とにかく、AIとは仲良くしてくださいね。

 あの教習車のAIはJAS基準なんで、

 あれと仲良くできないと他のどんな車にも乗れませんよ」


その日から車に乗ってははじき出される日々が続いた。


上手くAIと仲良くできる人はすいすいと坂道発進だの

S字クランクだのの難関スポットを攻略していく。


けれど、男はというと、相変わらずAIとの相性は悪かった。


『ふぇぇ~~ん! そんなに言わなくてもいいじゃないですかぁ!』


「完璧にやってこそのAIだろ!!」


車が泣くもんで窓には大量の水が噴射されてワイパーががっしがし動く。

そのうち、車AI側から乗車拒否となりドアが開かなくなった。



「……というわけなんです」


「逆にどうやったらそこまで落ちぶれるんですか。

 ここまでAIとの相性が悪い教習者も初めてですよ」


「ああいう未完成なものを見ると許せないんですよ」


「たしかに、あなたは座学はすでに満点を取って完璧です。

 しかし実際の運転がああじゃね……」


「原因がまったくわからない……」


「その完璧主義なところじゃないんですか?

 どうにもあなたは相手に対して冷たすぎる気がします。

 どこか事務的というかなんというか」


「自覚はなかったです」


「自動車AIはもともと彼女のいない

 独身男性の寂しいドライブのために作られたものなんです。

 それだけに他のAIのどれよりも人間らしく多彩です」


「はぁ」


「つまり、もっと温かみのある接し方をすればいいんですよ。

 それこそ、彼女や奥さんと接するように。

 相手の欠点すら愛おしく思えるくらいに」


「相手の欠点を認めるなんて、

 それこそ欠陥を妥協するようなことじゃないですか。

 わざわざ自分が相手のステージに降りるなんて」


「人間として生きる上で、相手の目線に立つってこと大事ですよ?」


「……わかりました。

 免許を取れないとこっちも許せないんで、がんばります」


「その意気です」


教習官はホッとした。

変にガンコで粘られたらどうしようかとも思った。


ここからが教習官の腕の見せどころで、

これから2人……いや1人と1台がどう仲良くなっていくか

お見合いの仲人のように間を取り持っていく技術が求められる。


「さて、忙しくなるぞ」


教習官は久しぶりに訪れたやりごたえある仕事に心を踊らせた。





その翌日、あっという間に教習車は言うことを聞くようになった。


「ええーー!! はやっ!! こんなに妥協早いの!?」


あれほど欠点がどーのこーのとか、

完璧主義まるだしで融通が効かなそうな雰囲気だったのに

一瞬にして大人の階段を登りきってしまった。


「驚きましたよ! こんなに覚えが早いなんて!」


自動車からは教習者が出てきた。


「教習官としての腕を見せられなかったのは残念ですが

 あなたが合格して免許を取れたこと本当に嬉しく思います!

 本当におめでとうございます!」


「ありがとうございます」


「昨日はあんなに乗れなかったのに、

 いったいどんな魔法を使ったんですか?」


「簡単なことですよ」






「車に乗るときに僕の脳AIを取り替えて相手に合わせたんです」

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