七章 オーダー編
プロローグ
凍えるような寒さ。続いて襲いかかる現実への回帰。どん底にあった筈の心が、さらに下へと突き落とされる。舌打ちと共に、足元の石を蹴った。それは思いもよらず遠くまで跳ね、いかつい男へと。
「あァ?」
「す、すいませんッ!」
思い切り頭を下げてその場を走り去る。
――クソガッ!
今度は心中で悪態をついた。
またギャンブルで敗けた。カジノを追い出されたのはこれで何回目になるだろうか。ふと、金を借りてもう一度、と考えるも俺が借りれる相手は録な奴がいないだろうし、そこまでする度胸もない。
しかし、今回はやけに負けが込んだ。特に、常連のガキがテーブルに着てからだ。いかさまでもされただろうか。いや、カジノ内は魔法が使えなくなっている。不可能だ。
自宅のボロ宿まで帰ってくる。
どうしてこんな古臭い宿がセルニーにあるのだろう、と思わずにはいられない風格をしている。
キシキシと煩い廊下を進み、部屋へと帰ってくる。
中はガランとしていた。
最低限の家具、着物、道具。立て掛けてある剣だけは、周囲のセピア色とは隔絶されていた。これは唯一の俺の支えだ。
布団に潜る。
泣きそうになるのを我慢しながら、その日は眠りに着いた。
どうしてこうなってしまったんだろう。
夢にまで願った"異世界転移"を叶えた身であるというのに、俺は一体、何をしているのだろう。
その日の夜空はあまりに綺麗だったが、俺が気付く事はなかった。
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