エピローグ

 魔女は死んだ。

 俺も、死ぬはずだった。


 だが、それは許されなかった。

 

 あの時、俺は何気なく宝玉を触ろうとした。何故そんな事をしようとしたのだろう。よく覚えていないが、どんな感触がするのだろうか、とか、触るとどうなるのだろうか、とか、そんな好奇心から来る行動だったと思う。


 触れようとする直前、宝玉はそれを拒むかの様に崩壊した。そして、宝玉に眠る膨大な生命力は行き場を失い、それは収まるための受け皿を求めた。


 受け皿に選ばれたのは、宝玉の最も近くに位置していた俺だった。


 莫大な生命力を得て、俺はゾンビとは似て非なる存在になった。いや、そもそもゾンビでもないのだが。死体が何かしらの方法で蘇ったモノをゾンビという。そこに違いは無いのだが、本来ゾンビに生前の記憶は無い。


 言うなれば俺は、元氏 傑の記憶をコピーしたゾンビみたいな物だ。別にゾンビと名乗っても問題が無いくらいの誤差だが、俺にもさとって大切な事だった。


 閑話休題。

 不死の宝玉。それは余りにも強大な生命力を秘めていた。


 ゾンビを生き返らせる程に。


 生命力の受け皿となった体は、大きいような小さいような変化が起こった。現在、俺の胸は鼓動を刻んでいる。声帯も回復している。歯や顎、筋肉などの肉体の損傷も消え去っていた。


 が、失ったものもある。

 眼球が消えた。ハゲ散らかっていた髪も取り払われた。鼻や耳も元から無かったかの様に消えていた。

 

 つまり、これはどういう事かというと、人間として生命が宿ったのではなく、ゾンビとして生命力を高められたのである。


 おかしな話だが、俺は完成されたゾンビに成った。

 

 肌は消え、身体は黒に変色した。失われた目の奥には光が生まれ、筋肉は美しい形に締まった。理想的な――ゾンビの理想的な健康体である。


 結局、俺はゾンビだった。

 この身に収まった生命力は、体を変貌させる位で尽きることは無かった。ほぼ無限に、この体をタンクとして貯蔵されている。傷付けば片っ端からその傷を癒してしまう程に。


 なんとも残酷な話だ。このまま一生。いや、永遠にゾンビの姿で生きなければならない。


 因果応報。

 どんなに穢れた命であれ、命を奪った事に変わりはない。

 

 女は最期に呪縛を残した。

 それは永遠に俺を縛るだろう。

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