雨上がりの日

 無心で窓ふきをする、ある昼下がりのことだ。


 窓ガラスに反射する己の姿を見てしみじみ思う。気持ち悪いなぁ。この間失った左腕は、糸で縫い付けられた様にしてくっつけられていた。思った通り女は何でも出来るらしい。まぁ、この世の理を覆そうとしているのだから、腕をくっ付けるなど造作もないのだろう。


 俺のとなりでは第四のゾンビが床を拭いていた。二号と入れ替わるようにして造られた個体だ。二人の間に会話はない。そもそも、声帯が腐っていて言葉を発する事が出来ない。出せても呻き声だ。


 四号にも人間の魂が縛られているのだろうか。


「ア”ヴ」


 体は、鎖に雁字絡めにされているみたいに動かないが、魔力を噴射して魔法に抗い、一時の自由を得ると呻き声を上げた。


 返事はない。

 女の魔法への対抗方法を知らないのか。それとも、俺と違って人間の記憶を持っていないのか。


 ともあれ、残念ながら四号も意思の疎通は出来ないようだった。


 こんなことでは落胆していられない。ふと、羨ましいくらいに綺麗な窓の外の風景を眺めた。この一週間、大雨続きだったが今日になって晴れ、未だ水滴があちこちに残る庭園は日射しによってキラキラと輝きを放っていた。


 心踊るような綺麗な景色だが、俺に自由はない。外を散歩するのも、大きく息を吸うこともままならない。


 ゾンビか。

 この体になってもう数十年が経つ。本来の自分よりも馴染んでしまった。この体は見た目と違って清潔だ。まず、代謝がないからか、臭いが一切ない。狼の鼻でさえ嗅ぎとれないほどに。また、死体ではあるがウジ虫が湧かないようになっている。


 それもこれも、あの女のためだと思うと嫌な気分になった。


 不老不死の秘宝を作りだしてから暫くしたが、もうそろそろ下準備も終わる頃だろう。研究の内容も、どんな方法をとったのかもわかりやしないが、それでも何となく事態が進行しているのを感じていた。勿論、勘だけではない。根拠もある。今朝、狼狩りを命じられなかった。それはつまり、死体の必要は無くなった、と言うことではないか。


 始まるのはいつだ。

 明日か。それとも今日か。


 窓ガラスに写る自分の姿に掛けて、きっと復讐を果たすことを誓った。

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