第29話「やめてー!」

来ちゃったって...

来ちゃったって、どういうこと?


冬の寒さに負けないくらい、

その場の空気が凍った気がした。


「帰ってくれないかな?」


その場の沈黙を破ったのはゆかりさんだった。


春樹も、強気でこう言った。


「へぇ...知ってたんだね?」


ゆかりさんと春樹。

お互いが睨み合っている。


こんな鋭い目つきになった二人を

私は今まで見たことがない。


止めに入ろうにも、入れそうにない。

かといって、この場から逃げるようにして立ち去れる、

そんな勇気が、私にはない。


ゆかり「何のこと?」

春樹 「あゆみのこと、知ってたんだね?」

ゆかり「アンタこそ、なんで知ってたの?」

春樹 「俺を、騙したのか?」

ゆかり「騙すって何よ!言い方があんでしょ!」


言い争いは激しさを増していく。

ゆかりさんが春樹の首元を掴んだところで、

いてもたってもいられなくなった。


「やめてー!」

これ以上ないくらい、大声で私は叫んだ。



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