最悪な新社会人時代

@mariko1920

パワハラ問題がとりざされる昨今

 よく「若いあの頃に戻りたい」とか、「若さだけが、武器だった」など過ぎた時代を懐かしむ人がいますが、私は少なくとも20代前半には戻りたくありません。なぜなら、若さはたいした武器にならず、逆に上司含め先輩たちからこき使われたり、無駄に骨が折れる作業をすすんでやる羽目になったり散々な思い出しかないからです。今のご時勢ならすぐパワハラ案件としてあげられることも沢山でした。30代半ばが来て、私が常に疑問に思っていたことが、ようやく日々のニュースで頻繁にとりあげられる度に、当時関わってきた人たちはどんな気持ちで見ているんだろうと思います。

・・いや、多分なんとも思っていないかもしれません(笑)だって、自分たちの指導に疑問を持っている人に会ったことがないから。

 私が経験した新人教育は「見て覚える」と「ほったらかし」、それにもれなく「怒鳴る」というオマケがついた嬉しくない三点セットです。20代はとにかくいろいろな経験を積もうと、短期間で様々な職につきました。大卒なのに、正社員を目指さなかったのは、単に同じ場所に居続けると飽きるという性格と、長くいると、いずれめんどくさがりやの性格がバレて、人間関係をこじらせる要因になるからという不真面目な理由からでした。それに当時はリーマンショックが起きる随分前だったので、短期間でも割と稼げる仕事があったのです。(両親からすれば信じがたい行動でした。)今はもうそれらの仕事はありませんが・・・。今回は私がした仕事の中で1つだけお話します。なぜ1つかと言うとあまりにそこだけ強烈だからです。

 印象に残っているのは、イベント系の会社で1ヶ月働いたときのことです。そこは

一定の期間だけイベントを行っていて、ちょうど募集をかけていたので応募しました。私は簡単な売店作業をすることになりました。売店と言ってもレジは無く、全て

暗算で計算し、接客をするアナログな内容でした。たかだか、数百円の計算なら書くまでもないのですが、売店のメニューはドリンク含め、10種類あるのです。しかも値段は統一されておらず、バラバラ・・おまけに「フランクフルト312円」とかやたら半端な値段設定。ならば電卓を使おう!しかしそこが甘かった・・。

「君は電卓は使うな、僕が鍛えてあげるから全部暗算でやれ」

重要なのは、電卓使用禁止が「私」に限定されていることです。

「初対面で育成要因に指定されるなんて・・面接でハキハキしゃべらなきゃ良かった、あーあー裏目に出た。」

 それでも私は当時20代前半、熱き血潮のなんちゃらで、暗算でやり抜いてやると、無駄に仕事欲に燃えていました。新人は堪えるのだ・・と昭和脳を奮い立たせたのです。それに片田舎のイベントだし、たいして人も来るまいと・・。

 しかし予想に反してお客は多く、土日は100人近く集まってきました。加えて

マナーの悪いお客は売店に縦に並ばず、横に広がっていくのです。もはや並ぶより我先にと買おうとしていました。そしてなぜか、隣にいたベテラン社員には話しかけず、必死に頭の中で筆算を組み立てている私に剣幕を向けてくるのです。

「お姉さん!フランク2本とコーラー3つと、ポテト4つ、それからポップコーン3つね」

「あ、私はポテト3つと、フランク2本」

「僕はポテト2つ」

「わしはフランク3つ」

「あの~コーラーとメロンソーダー・・あとポテト!」

※上記の注文は全て別々の家族の注文です。10倍速で再生してください※

 (「電卓が無いなら、手元のメモですばやく書こう!あれメモ無い!」)

頭の中は過熱気味のモーターのようになり、発火寸前でした。

この暗算地獄に加えて、私はさらに悩みの種がありました。私に完全暗算主義を

命じた上司の他に、売店にはもう一人上司がいました。正確に言うと私にはこちらが

やっかいな存在でした。暗算主義の上司はいつもいるわけでなく、裏でメニューを作る係だったので、それほど近くはなかったのです。こちらの上司は女性で、立派な声をしていました。そしてなぜかこの人も私に目をつけたのです。

「早く!!早く!!計算!!そんなの暗算でやるんだよ!!」

ちなみに・・その人の手元には計算機がありました。

 加熱発火寸前のモーター人間と化した私は、計算を徐々に間違え始め、再度頭で筆算を組み立てるも、数字が崩れ、その内に新たなお客が注文を言い、組み立てた計算を間違えるという悪循環を起こし始めたのです。その上司の手元の電卓はまるで、シンデレラの意地悪な継母がポケットに隠した、戸の鍵のように思え、

「あれがあれば!暗算地獄から出られるわ!」

と悲劇的な妄想さえ浮かんできました・・・。しかし、その上司には当然届かない

思いでした。その後もその上司は「手助けしないが、ミスを見つけ次第怒鳴る」

という最悪な指導を続けていきました。しかも、加熱モーターの私のことを、逐一ほかの社員に報告し、「計算もろくにできない、ミスが多すぎる」と吹聴しまくっていたのを、後で他の社員に聞いたときは、体の力が抜けていくような気持ちになりました。・・・思えばあれは若さゆえに我慢できた1ヶ月でした。

 暗算地獄が後の別の仕事で、何か役に立ったかというと、特に無し。むしろ自分の処理能力がオーバーヒートするのと、立派な怒鳴り声がトラウマになり、売店関係には一切関わりたくないとさえ、考えるようになったのです。もう少し言わせてもらうと、実は私以外にも新人はいたのです、彼らは電卓を使うことを許され、スムーズに客さばきをし、怒鳴られることもなく1ヶ月を終えたのでした。一人加熱モーター気味でひたすら耐えた私は、とりあえずクールダウンするため、その仕事を忘れることにしました。今こうして書いても、ひどい案件です(笑)

 その後も、書類を目の前で捨てたり、威張ってみたり、やりたい放題やる方に出会いましたが、20代後半でようやくまともな職場にたどり着き、心穏やかに過ごせるようになりました。

後輩に、怒鳴らず淡々と説明するのは、私のようにトラウマになって欲しくないからです。








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