ハンディキャップ勇者

@shiratamaazuki

第1話

今年に入ってから世界王宮同盟、略してWRAからの通達で、「モンスター討伐、冒険者サポートを行うギルドは期日までに障害者雇用を必ず行うように」との事だ。この通達を受けて私、ユーカの所属している弱小ギルド、《ゴブリンズ》も障害者雇用を行わなければいけなくなった。が、ウチみたいな弱小ギルド誰も来ないし、正直凄く難しい。今日中に誰か雇わないとギルド存続に関わるのに。


「あーあ。」私が盛大にため息をついていたら、「ユーカ君!」ギルド長が興奮した声で呼んだ。何だろう、この前割ってしまったギルド長のカップの事がバレタのだろうか。「コレ見て!」違ったようだ。ギルド長から書類を受け取ると、「履歴書?」そう、それはまさしく履歴書だった。

「障害者の方のようだ。コレから来るから一応面接して、即採用する!」いつも以上に興奮しているようだ、まあ解らなくもない求人をしてから初めての人だし…。今日中にW R Aの支部にどの程度人がいるのか、詳細を出して提出しなければいけないし…。…ていうか。「ギルド長は面接に立ち会わないんですか?」私は聞いた

「ん~、そっちは君に任せて私はW R Aに出す書類まとめて、キャンツ君に新しい人の装備一式出してもらって…。まあ色々やることがあるから。」

…マジですか、そう思わざるを得ない、が。コレもしょうがない。この間3人定年して今現在、このギルドには人が4人しかいない。ギルドには最低5人の人間がいる事が条件なのに。だから最近ギルド長は目の回るような忙しさだ。

ちなみにキャンツ君は装備の管理、開発の担当だ、私は事務、もう一人は冒険者サポート担当で今休暇中。とりあえず、会場を作らなきゃ。それにどういう障害か分からないから、入り口に板をおいてスロープ作らなきゃ。やることが決まったので早速、板を持って正面玄関に向かう。

私が出てくるのと同時に入ろうとしていたみたいでおもいっきり誰かにぶつかった。相手は白い杖をついている。まずい老人とぶつかってケガでもさせたら…。と思ったら、思いの外若い男性だった。とりあえず「すいません!」謝るにこしたことはない。「いえ、大丈夫です。」相手は特にケガもしていないみたいだ。それより、「あの、ギルドに何か御用でしょうか。」私は聞いた。

「はい、履歴書を送った者です。」


「それで一応、確認なんですが、どういった障害をお持ちなんですか。」場所を会議室に移し私は質問した。

「見た通りです。目はほとんど見えていません。」彼…タクトさんはそう言った。

「なるほど、ではご希望の部署はありますか。」私は、まぁサポート部かなと自分の中で判断しながら聞いた。

「はい、討伐・採掘部でお願いします。」タクトさんは言った。私は思わず咳き込んでしまった。

「大丈夫ですか。」私が急に咳き込んだから心配させてしまったようだ。

「大丈夫です…。少々お待ち下さい。」私は会議室を出てギルド長の部屋へダッシュした。

事情を説明すると、ギルド長は「落ち着いてユーカ君。採掘もあるし、討伐ではないかもよ。とりあえず、今日これ以上誰かくる可能性もないから採用しちゃって。」


「失礼しました。こちらとしては人手不足なので即採用させていただきます。」私はまだドキドキする胸を押さえて、ギルド長の決定を伝えた。


早速、ギルドを案内してからキャンツ君の所に行き、採寸して装備を出す。

「さてこれからどうしましょう。」私が呟いたら、タクトさんが「早速簡単なクエストでも受けますか。」と言ったので。クエスト案内所へ行くことに…。


クエスト案内所は街の中心部にある。タクトさんを連れてきて早速クエスト板をみる。

「今日何のクエスト来てます?」タクトさんに聞かれた。そうだった読まなきゃだった。

とりあえず難易度★1のクエストから言っていく。私が読み終わったら、「夜行石の採掘は止めたほうがいいですね。」ポツリとタクトさんは言った。すると隣のガタイのいい人が大笑いしながら、「難易度★1のクエストだぞ、なるほどあんたには見えないもんな!」そう言ってそのクエストを受けて行った。

「いいんですか!あんなこと言われて。」私は少しイラついてしまった。

「いいんですよ。彼はまだ初心者のようですから。」タクトさんは言った。でも私にはそう見えなかったが。

「それより幻惑草の採取のほうが楽ですよ。」タクトさんが言ったクエストを探しだしたら…「★5!本当にこれいくんですか!?」私は思わず大声になる。タクトさんは、はいと言ってクエストを受けてしまった。どうしよう…。幻惑草は一度嗅げば一生恐ろしい幻惑に惑わされるという草…私の人生も、これで終わりか…。


キャンツ君の所で、専用装備を出し早速、幻惑草がはえる森に向かう。森に着くころには夜だろう。


夜、森に着いた。普通なら朝になるまで行動しない。普通なら…。

「本当にこの真っ暗な中いくんですか。」私は文句をいいながら先を行く。「すいませんね。明かりをつけられなくて。」そういいながらタクトさんが続く。私はガスマスクをつけているがタクトさんはなぜかつけていない。

しばらく歩くと、「幻惑草の匂いです。暗視ゴーグルをつけて下さい。」タクトさんがそう言う。っていうかタクトさんは幻惑草もろに嗅いでる訳ですよね。「大丈夫ですか。」一応、一歩下がって聞く。「はい。それより早く採取しましょう。」そうタクトさんに言われて幻惑草を採取して遮光性の箱に入れる。

「案外簡単ですね。これが★5のクエスト?」私は単純な疑問を口にした。そうです。そう言ってタクトさんは立ち上がり、手についた土を払っていた。

森を出るころ急に「そろそろ明かりをつけても大丈夫ですよ。」タクトさんは言った。

「へ?なんで今なんですか?」私は聞いた。すると、「幻惑草は明かりに反応して幻惑の香りを出すからです。つまり森の中で明かりをつける訳には行かない。それに明るいうちもアウトですから。」タクトさんは言った。へえー為になるなぁ。そういえば…「もしかして、あの夜行石の採掘も似た理由ですか?」私は歩きながら聞いた。「そうです。今は時期が悪くて…夜行石を主食にする岩窟ワームが大量に発生する時期ですので、熟練の冒険者でも危険と判断することが多いです。ですから彼は素人と思った訳です。」そうか…クエストは出された時期に難易度が設定されるから…。あの人、大丈夫かなぁ。確か岩窟ワームは危険度Cのモンスターか。危険度は低いけどそれが大量に出たら危険かも…。


後日、夜行石採掘クエストにでた彼は大怪我をして帰ってきたそうです。


これが私と盲目の勇者タクトさんとの出会いでした。

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