逝く前に聴いてみますか?

皆麻 兎

第一章 Aスタジオを初めて使う利用者達と自分らの日常

プロローグ

『はい。スタジオ“タルタロス”でございます』

楽器練習ができるスタジオ“タルタロス”に電話をかけると、第一声に聞こえてくるのがこの台詞だ。

「スタジオの予約をしたいんですが、●月△日月曜日の18時より3時間で…このAスタジオ空いていますか?」

電話をかけている利用者は、練習したい日時と希望のスタジオ名を告げる。

声が少し上ずっているため、電話で予約を取るのに慣れていないようだ。

『申し訳ございません。当スタジオでは毎週月曜日、18時~23時までAスタジオは通常予約できない決まりとなっております』

「“通常予約できない”って…それって、どういう意味ですか?」

遠まわしに断られたのが気に障ったのか、利用者は少し不平そうな声音を漏らす。

『この時間帯でのAスタジオは、ある特定の方法でしか予約できない仕組みとなっております。そのため、ご興味ある場合は当日にスタジオのスタッフにお尋ねください』

「えっと…。じゃあ、他に18時から使用できるスタジオはありますか?」

『はい。それでは…』

そうして、とある利用者と従業員の会話は終わりを告げる。

 公式ホームページに予約状況を載せているのだから、それを確認してから電話してほしいものですね…

電話が切れた後、スタジオ“タルタロス”の支配人でもあるわたし―――――――零崎 優喜は心の中で呟く。

「…まもなく、18時ですね」

自分にはめている腕時計の時間を見ると、時計の針は17時58分を指していた。

呟きとほぼ同時に、このスタジオの入口より利用者が姿を見せ始める―――――――そんな何気ない”人間達の夜”が、幕を上げるのであった。


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