そして全てを失った
「あの女、信用出来るんですか?」
あの後、全員で話し合った結果、リィンの提案に乗る事にしたゴウザ達。だがダンザとしては街を襲った奴と、一時的とは言えど協力関係に成るのは不服であった。
『まぁ落ち着けよ、もちろん幾つか信用出来る理由があって提案に乗った。まず最初にあの女が精製されてるってのが、企業との繋がりを明確な物にしてる』
『後、あの陸上艦もな!あんなもん一般の傭兵組織で用意出来る訳がねぇ』
精製者は一定期間毎に肉体や脳のメンテナンスが必要になる。つまりそう言ったメンテ設備を持った、安定した組織がバックに居ると言う事だ。それに陸上戦艦を運用して、さらに20機以上のポーターを運用出来るとなれば、ほぼバックに企業が居るのは確定だと思って良いだろう。
『ま、アイツら初動で俺等がキャンキャン鳴かせてやったからな?其処で雇ってた側との戦力的パワーバランスが逆転しちまったんだろ。で…このままアバドンがジェネレーターの奪取に成功して調子付いたら、あの嬢ちゃんの陸上艦まで奪われる可能性も出てくる』
『どうせ良い声で散々挑発してたんだろ?きっと船を制圧されたら中の中まで侵入されちまうぜ?ああー俺も今だけアバドンになってヨロシクしたいな畜生』
そう言ってケラケラ笑うダコールに、思わず全員が苦笑いする。
『ダコールさんが蛮行に走ったら私が真っ先に撃ちますから安心して下さい』
『良かったなダコール、リリィちゃんがぶっといのブッ込んでくれるそうだぞ』
『おおう、おっかねぇ!尻が4つに割れちまうな!ガハハ!』
心底愉快そうに笑うダコール。だが、次の瞬間不意に真剣な声色でボソリと呟く。
『……ついでに言うと俺等だけならきっとこの提案は無かった筈だ、お前等が帰って来て初めて話が来たあたり精製者にあるまじき頭のキレだぜ、一応用心はしといて正解だろうよ』
「了解、そう言えば敵を潰す手順ですが」
『まー最悪アイツラが背後から来ない展開を考えたとして……アロウンの狙撃でまず1機だろ?ダンザの射撃でさらに2機、リリィちゃんの強襲で2機、ゴウザのポーター爆弾で1機、俺が3機落とせばギリだろ』
事もなげに言う。だが実力と現状の装備において出来ない事ではない。
「リリィ、いけるか?」
『問題ありません、2分あれば一人で殲滅だってできます。えっへん!』
盗聴されている可能性も考慮して具体的な戦闘可能時間は避けている。だが、実際にリリィであれば2分あれば単身で9機を撃破可能だろう。もっとも、それでは"次"が続かないのだ。
荒野ではギリギリの限界を先に見せた方が負ける、底を見せれば死ぬ。常にその次が起こり得ると考えて戦わなければならない、それこそがダンザが皆から学んだ事だ。
「敵が一斉に雪崩こんでくるのが一番厄介ですね」
『街への被害を考えるとそうですけれど、そうなれば乱戦に持ち込めて、数の利を相手が欠きますから私で5機落とせますよ?』
『ま、そうなったらダンザが残り4機落としてくれるだろ。あれ……?攻め込ませた方が俺楽できるんじゃ?』
『見損なったぜ、ダコール』
「流石にそれはどうかと」
『言っていい事と悪い事があるだろ』
『奇襲する手筈じゃなかったら撃ってますよ?』
『ハハッ、私でももうちょっと慎みありますよ』
『へいへいへい!?最後一人いい声混じってんじゃねぇか!?』
しれっと会話に参加する声に思わずツッコミを入れるダコール。だが少女は別段悪びれるでも無く言葉を続けた。
『いえ、お話がまとまったようなので声を掛けただけですよ、それと回線変えた程度じゃ内緒話になりませんからねぇ?』
クスクスと笑いながら告げる企業の女。
「配置が終わり次第報告言うから少し待っててくれ」
少々呆れた声色でダンザが言うと、少々困ったように女が言葉を返した。
『あー…それなんですけどね、もう動くみたいですよ?』
「は?」
ドォン!と空間を大きく揺らす爆発音が轟いた。それと同時に火が上がる街並み……大凡簒奪者らしくない、取り分を減らすような"手荒"な行為だ。
「なっ!?」
『無差別砲撃かよ!ダンザ!!』
「了解!」
ダンザがポーターに狙撃体制を取らせると同時に、リリィもその機体に付属している光学迷彩を起動させ大跳躍を見せた。
「……1つ」
感情も無くそのカウントを告げるダンザ。チャージが完了したレールガンが光を放った瞬間、その銃口の先に存在していた、アバドンのポーターコックピットに大穴を開けてみせた。瞬間、遅れてレールガンの音が空に轟く。
『お見事、こっちも最後の対消滅弾頭だ!』
ダンザの一撃により僅かに判断を鈍らせたアバドンの1機が、アロウンの乗るポーターの銃口より発せられた光に僅かに掠めた。だが、掠めた程度であるにも関わらず、対消滅弾頭はそのポーターの上半身を安々と吹き飛ばして見せる。
元来、宇宙空間での対艦戦用の主砲に使用されている代物だ、出力を絞り地上での環境で大きく威力は減退しているとは言えど…ポーター程度が的ならば十分な威力を持つ。
瞬く間に2機のポーターを破壊されたアバドンであったが、腕の良いアバドンは既に街への近接を試みて居る。ダンザとアロウンから受けた狙撃の大まかな位置から逆算して、安全だと思われるルートを選んだのだろう。
だが、その先頭を跳ねるように走っていたアバドンの機体が突如横転し、爆炎を上げた。炎に煽られて、僅かにそのボヤけた姿が写る。爆発の正体はリリィの機体……名のある
その光景に思わず硬直……せず、強かに回避行動を取ったアバドンのポーターのコックピットが吹き飛んだ。回避行動の先を砂丘ごしにレールガンで撃ち抜かれたのだ。
リリィから送られた位置情報を元にダンザが撃ち抜いたのである。無論、位置情報を送ったとは言えそれだけでコックピットを射抜く事は不可能に近い。だが、2人であれば容易く不可能を凌駕する。
比翼連理、一心同体、3人のベテランアラクネが数年で抜かされると断言できる、確かな実力が2人にはある。
「多分、今のが一番強い奴です」
『アッハハ!いいですね、料理が冷める前にこっちもパーティーに参加しますか!行きますよ私の部下達!』
『おっと、いい声の嬢ちゃんに出遅れる訳にはいかねぇよな?オフェンスは任せな、いい声の嬢ちゃんも不用意に近づいたら……諸共に薙ぎ払うぜ!』
そうして始まる挟撃、居ても立っても居られないとばかりに真っ先にアラクネへと飛び掛かる橙色の見慣れない機体は、スレッジハンマーのようなポーター用の鈍器でアラクネの頭部を捉えた。
突如、巻き起こる爆風。重装甲でありながら、高速戦闘にも対応したその橙色の機体が持つハンマーには、付随のトリガーを引くと特殊な液体が散布され、化学反応により装甲を溶解させながら爆発を巻き起こす機構があるのだ。
一撃でも直撃を貰えば行動不能、まさに一撃必殺とでも言うべきだろう。
『いやーコレはいいですね!無理言って技術研の連中からパクって来た甲斐がありました!チマチマやるのは性に合いませんし鈍器でガツンってこう……男の子ですよね!私女ですけど、ハハッ!』
『テメェなんのつもりだ!』
仲間をやられたアラクネが、企業の少女に弾丸を浴びせると、生成者らしい反応速度の速さで、事も無さげにハンマーを盾に防いだ。
『盗人猛々しいとはこの事ですね、商品である戦力を貸しているのに金銭の支払い拒む事をなんて言うか教えてあげましょうか?万引きって言うんですよ!』
『払わねぇとは言ってねぇだろうが!』
『私の船を奪う算段まで話して置いてそうは問屋がおろしませ……うおおぉぉ!?やめろ!話してる時の攻撃はやめなさいよ!貴方達に良識の2文字は無いんですか!?』
別方向からのアラクネの攻撃を大きく跳躍して回避したリィン。腰部にハンマーをマウントして、肩部よりAPSASライフルを引き抜くとアバドンに連射しはじめる。
『アッハハハ!踊ってくださいよ!ほらはやく!』
リィンの放った弾丸がアバドンに数発直撃を取るも、弾が機体を抜けただけで大した損傷にはなっていないらしく、そのまま動き続けるアバドンのポーター。
仕切り直しとばかりに距離を取る挙動を見せたアバドン。だが、途端にダコールが背面に回りこみながら、大口径ライフルをアバドンの背中に浴びせかけ、乱射で機体をコックピット付近から引きちぎって見せた。
『ああああああ!私の獲物奪うとかマナー違反ですよ貴方!?此処がレストランなら貴方黒服のお世話になりますからね!その辺り理解してるんですか重罪だぞこれは!?』
「いいから、口より先に手を動かしてくれ……」
ダンザが呆れながら、リリィが足払いで体制を崩したアバドンのコックピットを、その胴体が砂に着く前に空中にて吹き飛ばし呟く。
まるでゴミのように蹴散らされて行くアラクネ達。付け加えて言うが、決してアラクネは弱く無い。むしろ世界的に見て上位5%に食い込む精鋭揃いの筈なのだ。
ただ、破滅的に相手が悪過ぎた。相手は人類でもトップクラスの化け物パイロット揃い。そもそもの前提として荒野に生存権を確立している以上、其処に住んでいるミュータントとなんら遜色無い存在なのだ。
否、それらを上回っていると言った方が良いだろう。彼等の生存権に立ち入り汚染の少なさと物資の回収しやすさのみで、其処に居座る事を良しと出来る程の強者なのだから。
背後からの強襲とダンザとリリィの奇襲を受け、瞬く間に最後の一機となったアバドン。
『投降する気があるなら聴くぜ』
ダコールがアバドンから奪った大口径ライフルを構えて脅す。だが、アバドンは銃を構え交戦の構えを見せた。周囲はすでに戦闘に参加したポーター達に囲まれており逃げ場は無い。
『嫌だね』
『なら、死ね』
その瞬間、ズンと響く爆発音。衝撃に驚いてコックピットを撃ち抜いてしまったダコールが、苦い顔をしながら爆発した方向を振り向くと、ダンザ彼等の住まいである艦の一部が煙を上げていた。
「まさか動力炉を爆破したんじゃ……」
『ああクソッ、警備は何やって……いや待て、反応が何かおかし……』
そうして、船から2度目の爆発が放たれる。ダンザは即座ににリリィの機体を砂に押し付けるように庇い、他のポーターもそれぞれ爆風から身を守る姿勢を見せた。
「リリィ!しまっ……!?」
『ダンザ!?嘘っ!?システムダウン!?』
爆風に飲まれ、空に舞うダンザのポーター。最初の爆発が呼び水となり、今度は大地を呑み込む程の大爆発が巻き起こったのだ。
ダンザのポーター内部でけたたましいアラートが鳴り響き、全てのシステムがダウンした。
「ぐっ!?」
あまりの衝撃に意識を手放したダンザ。
その瞬間、ダンザが背負っていたコンテナが僅かに光を放っていた事など、誰も気づかなかっただろう。
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