僕のアパートの美少女な寝具たちっ

空真 冬人

 プロローグ 俺の家は寝具に占拠されたようです

「物を大切にすれば物に魂が宿るんだよ」


 俺が幼い時おばあちゃんが俺に言ってくれた言葉だ。


 その言葉を守り物を大切にした結果、あんなことが起こるなんて思ってもみなかった。


 時は現代、俺……神崎ツクモは普通の二十二歳。


 高校を卒業して毎日だらだら過ごすニート……ではなく俺がこんなに毎日ゴロゴロできるのにはわけがあった。


 俺はアパートの経営を任されているのである。


 父は有名な資産家でマンション経営や多岐に渡る会社経営によって莫大な資産を得ていた。


 そんな父は俺に高校を卒業したあと一つの試練を与えられた。


 このオンボロアパートを基盤にしてマンションを建てることである。


 俺はコンビニ帰りに自分が管理しているはずのアパートを見た。


 見るからにボロアパートである。


 平成に建てられたはずのアパートが見るからに昭和に建てられたかのような赤みがかった色になぜか木でできたドアに今にも壊れそうな階段、そして家賃節約のために自らそのアパートに住んでいる俺はミシミシ音を立てる階段の二階の二つあるうちの一つのドアを開けた。


 ちなみに割とギリギリの生活をしているので、昔使っていたものをそのまま使っている。

枕は俺が十歳の時に勝ってもらった物を使っており、毛布は七歳から使っている物……布団に至っては俺が三歳の時から使っていたらしい。


 だからこの三つの寝具は俺の大切な思い出でもある。


 んで、なんで俺がこんなオンボロアパートを改築しないのかというと……単純に欲がないのである。

 ここには俺を含めて三人しか住んでないがアパートの収入で生活できないこともないし、物欲も最低限のものしかないので何も父親から認めてもらう必要もないのである。


 俺は自分の部屋の鍵を開けキキキという音を出しながらドアを開けた。


バタバタ


「え?」


 聞きなれない音がした。


 いつもなら何も音がなく哀愁の漂ったビニール袋のこすれる音だけが部屋に響くのだが今は違う。

 数人の動く音が俺の耳に入ってきた。


「まさか……泥棒? こんな貧乏アパートになんの用だ」


 俺は部屋に向かって廊下を歩く。


 玄関のすぐ左に風呂、右にトイレそして1メートルほど歩くとキッチンとリビングが合わさった部屋がある。


 なので玄関からはリビングが見えない状態なので仮に強盗団なんかと鉢合わせてしまった場合、その後に逃げる間もなく拘束されて海のモズクになるだろう。


 俺は恐る恐る千鳥足で部屋に近づいた。


 リビングが見える、そしてそこに見えたのはガチムチの怖いおっさん……ではなく小学生くらいの女の子であった。


「へ?」


 俺が呆気に取られているとリビングの座布団にちょこんと正座で座っている小学生くらいの、少しピンクがかった髪を背中に垂らしたロングヘアーの幼女がこっちに気づき、いつも行っているかのようにしゃべりかけてきた。


「お帰りーツクモお兄ちゃん」


「ああ……うん」


 俺は戸惑った。


 誰だ、親戚の子か? いや俺はこんな子知らないしあったこともない。


「どうしたの? ツクモお兄ちゃん」


「あ、いや……何でもないよ」


「もーいつもお兄ちゃんはぼおっとしてるー」


 そういいながら幼女は俺の部屋にあった本棚からマンガを取り出し、テーブルに置いてあった袋分けされているせんべいを一つ開け食べ始めた。


 最初は誰だ! とか言ってみようと思ったものだがこうも当たり前にせんべいとか食べ始めると俺がおかしいのかな? という感じになってくる。


 元からこの子はいたのではないか、これが自然なのではないかと廊下のリビング一歩手前で立っていた俺はそう思い込み始めた瞬間、後ろから       何かが当たった。


 フニュという音を立て背中に何かやわらかいものが当たった、その後背中に濡れた何かがしみ込んできて暖かい湯気のようなものが俺を包んだ。


「何をボケーッとしておる! 早く歩け」


 後ろからも女の子の声、俺はやわらかい感触を感じながら首だけ少し後ろに向けた。


 高校生くらいの黒髪サイドテールの女子が特殊なしゃべり方で当り前のように文句を言ってきた。


「あ、すいません」


 俺はなんだか腰が低くなり謝ってしまった、そしてよく見ると女子高生っぽい女の子は風呂上りなのか裸にタオルを巻いており、ちゃんと拭いていないのか、体が濡れたまま、俺に胸を当てる形で俺を押してきた。


「うへぇっ」


 押された勢いで俺は変な声を出しながらリビングに思いっきり倒れこんだ。


「いてて」


 もう限界だ、いったい何が起こっているんだ? ここまで来ると逆にすがすがしい、さすがにこの二人に文句を言おう……そう思った時いい匂いが俺の鼻の中に入ってきた。


 何かを焼いているジューシーなにおい、料理でもしているのか?


「あらあら、もう帰ってきたの? おかえりー」


 キッチンの方向を見ると、二十歳くらいの紫がかった腰まである髪をぶら下げた、左目の下にある泣きぼくろが特徴的なロングヘアーのお姉さんが、俺にしゃべりかけてきた。


 なぜか俺の帰りを待っててくれたお姉さんは、フライパンで焼いていたソーセージを皿に移しもともと作っていたであろう六個ほどあるおにぎりをテーブルに置いた。


「やったぁ」


 そういいながら幼女は漫画と空になったせんべいの袋を投げ出しおにぎりをむしゃむしゃ食べ始めた。


「コラコラ、ツクモさんの分もあるんだから全部食べちゃダメよ」


 お姉さんが軽く注意しながら笑顔で幼女に話しかけていた。


「ツクモ、私の着替えはどこじゃ?」


 そういいながら俺の服を引っ張るタオル一枚の女子高生っぽい少女


「……」


「お前ら……誰だよ」


 俺は静かに、そうつぶやいた。

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