彼は破壊者となって勇者生活を満喫するようです
空真 冬人
プロローグ 飽く少年の異世界転生
真面目に何かを取り組んだことがない、今までやりがいを感じたこともない、やる気もない。
高校生特有の無気力を現している言葉だ。
もちろん中には将来のために部活や勉強を頑張っている者もいるが俺は確実に前者、やる気のない部類に入ると思う。
俺、佐原レイは高校二年生の真っただ中。
周りの同級生は、大学はどこに行く、就職はどうするなど軽く騒がれている中、俺は何も考えていなかった。
そう、やる気が全くないのだ、何をしようとしても無気力で最低限でやろうとしてしまう。
俺が唯一やる気のあるものはゲーム。特に戦略ゲーにはまっている。
唯一の得意なことがゲームだなんて、親が聞いたら呆れてしまうだろう。でもいいのだ、これが俺だから。
「ふぅ、寒いな」
雪が降る中、平凡な住宅街を、比較的暖かい服装で一人寂しく独り言をつぶやく黒髪の少年、佐原レイは惰性で通っている塾の帰り道、ハーと白い息を吐きながら歩いていた。
決して成績が良いわけでもなく、運動ができるわけでもない、顔がいいわけでもなく身長も高くない、いわば平均を詰めたかのような少年だったが性格だけはだいぶ常識人だと自称していた。
それが自分の自己評価、多くの平凡な人はそんな感じだろう。
一部のカリスマとその他大勢、中学時代は自分もカリスマの一部なんじゃないかと中二病心から思ったこともあったが自分がその他大勢だと認識するのに時間はいらなかった。
そんなネガティブなことを考えていたら家に到着したようだ。
「ただいま」
そう言い、リビングに行くと母親がテレビを見ている、これも夜遅く家に帰ると見るいつもの光景だ。
「あら、今帰ったの、お帰り」
「うん、もう疲れたから寝るわ」
「体冷やさないようにね」
「わかってるよ、お休み」
親にあいさつされて眠る、不幸な人から見ればこれでも幸せだと言うかもしれない。
だけど変化を望む俺はこれが一番の不幸だと思いこんでしまう。
やる気がなく苦労もしたくない、だけど変わりたい。
そんな無責任で矛盾した思いを抱え込んだままいつも通りの日常へ戻っていく、そのはずだった。
「さて、もうやることもないし布団に入っておくかー」
現在十時半、いつもならスマートフォンをいじりながらスマホの無料戦略ゲーに手を出しているところだったが、日ごろの徹夜までゲームをすると言う行為の後遺症で眠くなってきていた。
俺は布団に入り暖かさを感じる、目をつぶるとぬくもりを感じながら夢に入って行く……はずだったがいつもと違う。
目が回り、頭が痛い。
「が……なんだこれ……」
体がグワングワンと回るような感覚。
体を動かそうとしても動かない、どこかへ吸い込まれるような感覚……いや実際にゆっくりと奈落に落ちているんじゃないかと思えるくらいのリアルな感覚だった。
とにかく気持ちが悪い、その一言が頭を駆け巡った。
俺はそう思ったまま意識を失った。
気づくと俺は真っ白い空間の中ぽつんと立っていた。
もうろうとする意識の中見渡すと無限に続くかと思える白い空間の地平線が見える、そして見て初めて分かる異質な存在、自分の他にいる、もう一人の執事の姿の初老の男性。
身長は百七十センチの俺より少し大きい白髪のオールバックの老人。
「夢か……変な夢」
俺はそう思いながら初老の男性に声をかける。
「ここはどこだ」
「ここですか、異世界への扉といえばいいでしょうか……まぁ異世界といってもいいかもしれませんね」
今回の夢は異世界系か……自由も比較的効くみたいだし、これが明晰夢ってやつか、と思いながら頬をつねってみる。
痛い、そこには明確な痛覚が働いているのがわかった。
「あれ……夢ってつねってもいたくないんじゃ」
そう独り言を言うと初老の男性は軽くにやけながら答える。
「そりゃ夢じゃないですから」
夢じゃない……?
本当に異世界召還、いやいやそんなわけない、そんなのあり得ない。
俺は考えられる量を超え、自分でもよくわからなくなっていた。
「突然ですがあなたには世界を救ってもらいます」
典型的な理由で召還されたと思いながら混乱したまま話を聞くことにした。
「自分じゃ世界を救えないよと思ったそこのあなた、大丈夫です、あなたには特別な能力とステータスをプレゼントします」
アメリカの詐欺サイトの日本語訳みたいなしゃべり方と、はたまた典型的な異世界物のチート能力の話をされたところでふと我に返る、なぜ俺なのかと。
「別に俺じゃなくてもいいだろ」
「いいえ、あなたでなければいけないのです」
「なんでだよ!」
「あなたが一番合うんですよ、あなた、佐原レイは変化を望んでいるのですから」
確かに考えてみれば、何か変わったことが起きないかと常日頃考えていたところだった、いざ変化すると受け入れられないものだがこうやって考えてみるとありなんじゃないか……そう思いこんできた。
「わかったよ、その挑戦受けて立つ」
「ありがとうございます、それでは能力の説明に入りますね」
「おう」
状況が状況だったので多分俺は今までで一番適当な挨拶をしていたと思う。
その適当さ加減に気づいたのか、初老の男性はゆっくり近づきながら説明をする。
「あなたの能力は破壊、万物すべて……森羅万象を灰に変える能力です」
「そんなこと言ったらドアも開けられないじゃないか」
「大丈夫です、そこはちゃんとしてあります、これをつけてください」
そういうと初老の男性は革製の黒い手袋を渡してきた。
「なんだこれ」
「これをつけていればその間能力は発動しません、なのでドアも開けれますよ」
そう言われ、つけてみると割とかっこいいことに気づく、ありだなと。
「で、世界を救うって、どうすればいいんだ?」
「今現在、異世界では魔王軍が人間界を支配しようと地上を占領中です、このままだと人間は負ける……なのでそれを止めて全滅させてほしいわけですよ」
「いや無理だって! 一人で魔王軍を倒す? できるわけないだろ」
普通に考えればわかることだろう、一人で何万もいるであろう魔王軍を倒す、魔王軍がどんなものかすらわかってない俺にとって、未知を相手にすることは自分にとってとてつもない恐怖だった。
だが初老の男性はその言葉を待っていたかのような様子でツカツカと俺の周りを歩く。
「大丈夫です、魔王軍の出現の元となっている場所……終点 ラストポイントと呼ばれる場所に魔界と人間界をつなぐゲートがあります、そこをあなたが触ることができれば、破壊の能力により消滅します」
「そんなことができるのか」
まるで通販番組の商品紹介に対してすげぇ! と思うかのような反応をしたが、どうも胡散臭い感じがした。
「ええ、魔王軍の悪魔達は人間界に来るとき大量の魔力を消費するため、魔力の根源であるゲートを破壊されると消滅してしまいます、そこを狙っていくのです」
「……」
初老の男性が目の前に立つ、俺は否定も肯定もできなかった。
人生で思ってもみなかった状況が目の前にある、これが夢だったらどんなに良いことか……と同時に自分のこの平凡で退屈で平穏な毎日を無意味にすごしてきた日々を考えて見ると、新たなる運命を受け入れるのも、悪くない気がしてきたのだ。
さらに次の世界ではチート能力を手に入れることができるのだと聞くと、むしろこちらの方がいいのではと思い始めた。
「わかったよ、やってやるよ! あんたの要望に応えてやる」
「おお、わかっていただけましたか」
初老の男性はこの上ないうれしい表情で少し涙を浮かべながら上を向く。
「さぁ、俺の気分が変わらないうちに早く送ってくれよ」
俺は前の人生に終わりをつげ、新たなる人生を受け入れる。
初老の男性は何かの呪文が書かれている一枚の古びた紙を俺の前に置き少し離れる。
「それでは佐原レイ様、良い旅ができることを願っておりますよ」
初老の男性がそう言うと呪文が書かれている紙が燃え、そして自分の周りに光が包み込み次第に初老の男性見えなくなってゆく。
「おいアンタ! いったい何者なんだ」
俺は光に包まれ宙に浮き自由が利かなくなっているが最後の力を振り絞って聞く。
「秘密です」
「おい! ふざけん……な!」
はたまた意識がもうろうとしながら初老の男に文句を言う。
「はは、ステータスもサービスしといたので許してくださいな……ですがもしかしたら旅の途中にヒントが転がっている可能性もありますので、もしよければ私の正体でも探ってみてくださいな」
最後にその言葉を聞くと俺は完全に気を失った、初めの時との違いを言うのならば……
―――――――とても心地が良かった所だろう
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