新名先輩はかわいいから、
みもりゆゆ
新名先輩はかわいいから
「あら、慈くん」
立て付けが悪くてがたがた軋む扉を開けると、保健委員の新名先輩が僕に気づいてにこりと笑った。放課後の保健室にひとけはなく、もう四月も半ばだと言うのにここだけ少し肌寒く感じる。
「元気かい?」
「どうでしょうか」
保健室に来るのに元気もクソもあるか、と僕は思うけれども心に留めておく。新名先輩は僕の返事をどう受け取ったのか知らないけれども、相変わらずふわふわにこにこしている。去年、一年間新名先輩と一緒に保健委員をしていた時も思ったが、やはり新名先輩の思考回路は僕らのそれとは違う気がする。
僕は明るい橙色で満たされた保健室を見回す。狭い部屋の半分、ベッドのある方はセパレートカーテンが閉められている。けれども、その向こうにも人影は見えない。
「森埜先生は?」
「石鹸補充に行っているよ」
新名先輩が部屋の隅を指して言う。きれいに磨かれた白い洗面台に、真新しいレモン石鹸がちょこんとのせられている。
「で、慈くん。今日はどうしたの?」
新名先輩が退屈そうに足をぱたぱた動かしながら尋ねる。紺のスカートの端とソックスの間、日に焼けていない白い肌が見え隠れする。僕は新名先輩に気づかれないように、視線をついと逸らす。
「いつもの、鎮痛剤が欲しくて」
「具合悪いの? 大丈夫?」
今更になって、新名先輩は心配そうにあわあわおろおろとしだす。僕は鈍い痛みが新名先輩のせいで増していくのを感じる。きっと、勘違いなんかではないはずだ。
「…………ッ!」
「あ、あわあ、あわわ……!」
そのまま放っておいたら新名先輩は今にも僕が死にそうだと思いつめだしたのか、モバイル端末のロックを外そうとして――――けれどもテンパっているせいで外せず、見ていて悲惨な状況に陥っていた。一体どちらが病人なのか、わからなくなってくる。
「新名先輩!」
名前を呼んでもパニック状態の新名先輩には届いていないようで、僕はさらに声を張り上げる。自分の声が頭蓋骨の内側で反響してさらに痛みが悪化する。けれども、それよりも今は新名先輩の意識の救助をしなくてはいけない。僕は本当に、なんのために保健室に来たのだろうか。
「新名先輩、僕のこれ慢性的な偏頭痛なんで!」
「へ…………?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だから! 死なないから!」
「………………! そう……、そうなんだ! それならよかった!」
途端に新名先輩は安心したようで、ぐちょぐちょの顔に無邪気な笑顔が広がる。僕はけれども悪化する偏頭痛のせいなのか、心なしか笑顔がひきつる。そうして、鈍角な角度をつけてどうでもいい方へとそれていった会話――――それと新名先輩の意識――――を本題へと戻す。
「慢性的とはいっても痛いもんは痛いんで、いつも森埜先生に出してもらっている薬が欲しいんですけど…………」
僕は新名先輩の華奢な肩越し、大小さまざまな薬の入った棚を見る。予想していた通り、生徒が勝手に薬を持ち出せないよう鍵がかけられている。僕はあまり期待はせずに、それでも一応、新名先輩に聞いておく。
「新名先輩、後ろの薬棚の鍵って持っていますか?」
「鍵?」
新名先輩はがさごそと、制服の胸ポケットからスカートの裏のポケットまで、あらゆるポケットを上から順に探しだす。けれどもその表情はだんだん「あれー?」という感じに変化していく。
「あ、自転車の鍵! と、………………と、お家の鍵は今日は忘れたのか………………」
脳みそ会議もだだ漏れな新名先輩を、僕はどんな気持ちで見ていたらいいのか正解がわからない。仕方がないので、壁に貼られている真新しい防災知識に関するポスターをぼんやりと眺めて時間をつぶすことにした。
「慈くん聞いて!」
「ありましたか?」
五分程して、新名先輩は心行くまで鍵の捜索ができたのか、満足げな顔を僕の方に向けた。
「私、自転車の鍵しかない!」
どうして、…………どうして新名先輩はこれをこんなに誇らしげに言えるのだろうか。全てにおいて間違えている新名先輩の返答に、僕の偏頭痛はさらなる加速度を得て痛みを増していく。
「…………大変ですね?」
「うん! でも大丈夫。きっと、慈くんがちょうどいい時間になるまでファミレスかどこかで適当な暇つぶしに付き合ってくれると思うから」
ね! と、新名先輩はご丁寧に念押しまで付け加えてくる。ただ、ウィンクはお決まりのごとく可愛く失敗していたけれども。それにしても、僕の呆れ交じりの皮肉を、どんな回路を通してどう変換したらこんな返答が思いつくのだろうか。
校内で囁かれる「新名先輩は可愛ければ何でも許されるかどうかを実験するために神々が戯れに作った人間の内のひとりである」と言う噂も、真実のように思えてくる。
「…………はあ、」
無意識にため息が漏れる。これは脳の疲労感から来るものなのか、そこはかとない絶望感から来るものなのか、どちらなのだろう。
いや、両方かもしれない。
だって、新名先輩が「慈くんとこの後ファミレスに行く」と言ったのだから、僕は何を差し置いても行かねばならない。たとえ、鎮痛剤どころか新名先輩と言う痛み増幅剤をがばがば摂取させられた結果ぶっ倒れたとしても、だ。新名先輩なら悪気なく僕をファミレスまで連れていき、気を利かせてソファ側に寝かしといてくれることだろう。
「うん?」
新名先輩が可愛い顔をして僕の方を見上げてくる。僕は曖昧な笑みを浮かべる。
「慈くん、頭痛酷くなってきたの?」
「まあ、すこし」
やっとこさ僕の病状の悪化に気づいたのか、新名先輩はまた、心配そうに顔を曇らせる。ただし、その原因が自分にあることまでは察しがついていないらしい。喉元まで出かかった、それもこれも全部新名先輩のせいですけどね、という言葉はまた胸の内にしまっておく。
「ちょっとまってて……」
新名先輩が机に置いていた淡い桃色のティッシュケースのチャックを開け、中から小さな封筒を取り出す。そうして、封筒を逆さにして振ると、新名先輩の手のひらにパッケージされた錠剤が三錠落ちてくる。その、得体のしれない錠剤を新名先輩は躊躇うことなく僕に差し出す。
「はい、これ。私の鎮痛剤あげるね。よく効くよ!」
「いや、何言ってるんですか!」
見たこともないパステルカラーな色をした錠剤に、安心も安全もひとかけらも感じられない。それに、例え市販薬としても、そもそも他人に薬をあげてはいけないし、他人から薬を貰ってもいけない。常識だ。
「何って。慈くんがしんどそうだから、私の鎮痛剤で少しでも楽になったらいいなって、思っただけだよ……?」
新名先輩があまりの僕の剣幕に怯えた表情を浮かべる。わけのわからない出所不明の禍々しい錠剤をすすめてくる新名先輩にそっくりそのまま、なんなら七割増しでその表情を返してやりたい。
「あ! 慈くん聞いて!」
「なんですか?」
常識と倫理観のダブルパンチを、新名先輩のふっくらとしてほんのり赤くて愛らしい頬にお見舞いしてやりたい衝動と戦っていると、新名先輩がまた得意げな顔をする。僕はもうなけなしの心の余裕を総動員して、新名先輩の次の言葉を待つ。
「あのね、『よく効くよ』って、よく考えたら回文だよね! 偶然だけどすごくない?」
火に油どころか、油田そのものを地中から掘り起こして移築させてくるところが、さすが新名先輩だ。あまりの格の違いに、平凡な僕はダブルパンチをお見舞いする気力もそがれる。
「そうですね、ははは」
力のない、渇いた笑いが半開きの口から漏れる。新名先輩はけれどもそんな僕にはお構いなしに、恍惚とした表情で噛みしめるように何度も何度も、「よく効くよ、よく効くよ、……」と繰り返している。新名先輩は本当に幸せな人なんだな、と僕は強まる痛みと遠のく意識の中で思う。
「あ! 慈くん!」
新名先輩が驚いた表情を浮かべて、愛らしい睫毛に縁取られた目をさらに大きく見開く。新名先輩が揺らぐ僕の方へと手を伸ばして、僕は、僕は、……………………………………?
。・。*・。*・。・
「あら、慈くん」
デジャヴ。ただし、記憶と比べると不特定多数の会話やバックに流れる音楽等、色々と雑音が多い気がする。
「慈くん、慈くん?」
おーい、やっほー、と。呑気な声が上から降ってきて、それには答えずにゆっくりと瞬きを繰り返していると、今度は、ほっそりとした形のいい手がひらひらと視界を横切る。だんだんと、面倒くささよりも鬱陶しさが勝ってくる。
「…………起きていますよ、新名先輩」
「あ、よかった!」
少し硬めのソファから起き上がると、鈍い痛みが頭で走った。そういえば、頭痛がひどくて保健室で倒れたんだったな、と思いだす。僕は、周囲を見渡す。そうして、うすうす気づいていたけれども、一応、新名先輩に質問する。
「新名先輩、僕は今どこにいるんですか?」
「へ…………?」
新名先輩が哀しい目をして僕を見てくる。どうやら誤解が生じているようだ。
「記憶喪失とかではなくて。あの、ここってファミレスですよね?」
「そうだよ!」
「僕は、倒れたのは保健室だったと思うんですけど?」
「うん、あってるよ」
新名先輩がにこりと笑う。僕は、でも、自分の言葉に反して記憶喪失なのかもしれないと思えてくる。
「あってるんですか……。それなら、どうして僕は、今、ファミレスで目が覚めたんですか?」
「ああ、そのこと?」
やだなあ、って感じのジェスチャーを交えて新名先輩は楽しそうに笑う。僕はそれでだいたいを理解する。予想していた通り、倒れた僕を連れて(それがどんな方法かは見当もつかないが)、当初の新名先輩の希望通りファミレスに来たみたいだ。有言実行――――いや、それはもはや新名先輩の性格故とか努力故とかの範囲を超えて、神々の力をもってして遂行されるのである。
何をしたところでもう、新名先輩の気が済むまでファミレスで時間つぶしに付き合わされる運命を変えることなど不可能だと、僕は早々と諦めモードに切り替える。新名先輩は空気を読んでか読まないでか知らないけれど、丁度いいタイミングでメニューを手渡してくれる。
「新名先輩が食べているのってどれですか?」
「これ? スペシャルギャラクシークライシスフルパワー☆パフェだよー」
名前だけではなにが入っているのか一切情報が得られない食べ物だな、と思う。ただ、カロリーがすごそうなことだけは、なんとなく察せられるが。
「慈くんもこれにするの?」
「いや、まだ頭痛が残っているのでアイス系はやめておきます」
僕は新名先輩のおすすめを丁重にお断りする。
「そうなんだ。じゃあ、無難にこのバナナマンゴーアロエラズベリードラゴンフルーツドキドキ十人十色★チョコサンデーとかは?」
名前を聞いただけでこんなにも頭痛が増す食べ物なんて他にあるだろうかって感じの商品名をぶつけられる。そして、それぞれの果物の個性を大事にするハートフルな名前に反して、結局チョコレートソースで全てを服従させているのも、気がつくと何とも言えない気持ちになる。
いや、僕が気にしなくてはいけないのは、そこじゃないのか。
「………………僕の言い方が悪かったですね。ソフトクリーム、アイス、ジェラートみたいな冷たいものは全般的に今日はやめておきます」
「そっか。せっかく一口貰おうと思ったのに…………」
僕から顔を逸らして、新名先輩が残念そうに呟く。僕は頭を抱えたくなるのを我慢する。新名先輩に言ったところでどうにもならないと思うけれども、それでも、自分の食欲よりも僕の体調のことをもっと考慮してほしい。その後も隙を見ては執拗にパフェやサンデーをすすめてくる新名先輩を受け流しつつ、僕は結局ドリンクバーと季節のパンケーキのハーフサイズに決める。
「あ、まって!」
「どうしました?」
メニューから顔をあげて呼び出しボタンを押そうと伸ばした手を、新名先輩に慌てて掴まれる。ちょっと熱っぽい体温と柔らかな皮膚の感触にどきっとする。けれども、そんな僕の動揺を打ち消すかのように、新名先輩の通常運転パンチがずっしり御見舞いされる。
「ボタンは私が押すからね! はい!」
ぽーん、と。止める間もなく、新名先輩が僕の手を掴んでいる方とは反対の手でボタンを押す。満面の笑みの新名先輩を前に、僕は呆気に取られて開いた口もふさがらない。
「あ、ごめん。慈くんも押したかった? でもね、私の方が先輩だから。ね!」
ちょっとむかつくような感じで新名先輩が僕の肩を叩く。僕はそれで断線していた思考回路がやっとつながって、正常な怒りと、それを上書きして諦めが脳にいきわたる。僕は無言で、ただ憐みの視線を新名先輩に送ってやる。どうせ何を言ったところで、僕の真意は新名先輩のアメージング思考回路で愉快に変換されて勝手に解釈されてしまうのだから。
「失礼いたします。ご注文お決まりでしょうか?」
そうこうしているうちにウエイトレスが注文を聞きに来る。僕はわきにやったメニューを手元に寄せて、デザートのページを探す。
「追加でこのバナナマンゴー……」
「え? 新名先輩、まだそのパフェ残っているのに新しいの頼むんですか?」
まだ三分の一程残っているのに、と驚いて聞くと、新名先輩は違うよ、と手を横にぶんぶん振る。僕はやっぱりか、と思うと同時に嫌な予感しかしない。
「慈くんの分だよ?」
「ですよね!」
またずきずきと頭痛がひどくなっていくのを感じる。一度意識が飛んだおかげか、せっかく痛みが和らいでいたというのに。
「ああ、もう、ほんと何勝手に言ってるんですか……あ、いや、すいません。パフェの追加はなしで」
困った表情を浮かべて僕と新名先輩のやり取りを聞いていたウエイトレスに、僕は強めに否定を伝える。それを聞いた新名先輩がチックショー的なジャスチャーを送ってくるけれども、付き合っていられないので無視して注文を続ける。
「追加でドリンクバーと、この季節のパンケーキのハーフサイズで、」
「まって! それ普通ので!」
「ちょっ、と」
新名先輩がまた強引に割り込んでくる。ウエイトレスがひきつらせた笑顔で「普通サイズでよろしかったですか?」と確認する。僕が何か言う前に新名先輩が大きく頷く。それでも一応、僕の方にも確認を求めてウエイトレスが視線を向ける。けれども、僕はもう一々訂正するのも面倒くさいしウエイトレスにも申し訳ないので、諦めて力なく頷いた。
注文の確認を一通りして、ウエイトレスが心なしか早足で席から離れていく。厨房に戻ったら、「面倒くさい客が何番の席にいるから気を付けろ」と、きっと他の店員に忠告してあげることだろう。僕はいたたまれない気持ちになる。そうして、向かいの席に座って幸せそうにパフェを食べるこの外的ストレス要因によって、また、頭痛が加速して増していく。
「ねえ、慈くん。季節のパンケーキ楽しみだね」
「楽しみだねって、……何がですか?」
「何がって、」
まったく気が利かない奴めやれやれ、って視線を新名先輩が僕へと投げかけてくる。鏡で反射させて、その視線をそっくりそのまま新名先輩自身に返してやりたい気持ちになる。
「もちろん、私も食べるからだよ!」
「…………そんなに食べて、太りますよ?」
せめてもの抵抗でぼそりと嫌味を呟くと、途端に鋭い痛みがつま先を襲う。びっくりして机の下をのぞき込むと、新名先輩のローファーの踵で僕のスニーカーのつま先が思いっきり踏まれていた。
「新名先輩!」
「なに?」
ぐりぐり、と。五センチくらいはあるローファーの踵が、僕の柔らかなスニーカーにゆっくりとさらに沈み込んでいく。
「……っ、僕が、わ……、悪かった、です……!」
僕は痛みにもだえながら、何とか謝罪の弁を言う。それを見る新名先輩は、どこか愉しそうな表情を浮かべる。
「具体的に? なにが?」
「……そ、れは、……ッ! イッ、たい…………」
口ごもっていると、さらにぐりぐりつま先を痛めつけられる。僕の薄く開いた口からは、ひゅうひゅう頼りない喘ぎ声とも呼吸ともわからない空気が漏れていく。
「うん?」
「…………新名先輩に失礼なことを言った、ことです…………すいません」
「そうだね。二度と体重の話はしないでね?」
「………………はい」
体重増加気にしていたのか、と僕は今更ながら自分の失言に後悔する。僕の謝罪と誓約をきいて気が落ち着いたのか、新名先輩の踵がやっと僕のつま先から離れていく。僕は足元の痛みからの開放に安心するとともに、抑えられていた頭痛の再来に再度苦しむ。
「あ、そうそう。慈くん」
「なんですか?」
「今度からパンケーキ頼むときには、ハーフサイズじゃなくて普通サイズの方にしてね! 私も半分食べるんだから」
駄目な後輩を叱るように、新名先輩がちょっと呆れたように言う。きっとパンケーキ代は全額僕持ちのくせになんでそんな考慮をしなくてはいけないのだろうか。今度からは新名先輩がトイレに行った隙にでも注文しようと、僕は声に出さずに心の中でひとり固く誓った。
。・。*・。*・。・
新名先輩がメロンソーダのおかわりが欲しいと言うので、僕は自分の飲み物を取りに行くついでに新名先輩のコップも一緒に持って行く。けれども、ドリンクバーには炭酸系はグレープソーダとジンジャエール、あとはコーラしかない。違うものを入れて持っていけば新名先輩にしこたま文句を言われることになるので、僕は面倒だけれども一度席に戻る。
「あれ、どうしたの?」
新名先輩が空のままのコップを見て不思議そうに言う。
「メロンソーダ、なかったんですけど」
「そう? さっきコーラのボタンを押したら出てきたんだけど」
「嘘でしょう」
「ほんとだよ! ほら、やってみて」
新名先輩が確信的に言うので、半信半疑のまま僕はもう一度ドリンクバーへと行く。コーラのボタンに手をかけたところで、コーラだったらちゃんと飲むのかな、と少し不安になる。けれども、ここで僕が悩んでいても仕方がないので、ええいままよとボタンを押す。
「おお…………!」
たぱぱぱ、とポップな緑色の液体が勢いよく泡を立てて出てくる。やはり、新名先輩は神々に愛されているのだと実感する。それはもう、人智を超えて。
「ね、本当だったでしょう!」
メロンソーダを並々と入れたコップを持って席へと行くと、新名先輩に勝ち誇ったように笑って言われる。僕はもう頷くしかない。
「…………新名先輩、すごいですね」
「まあね」
うれしそうにメロンソーダを飲む新名先輩が顔をあげる。その笑顔をみて、学校でまことしやかに囁かれている、新名先輩にまつわるオカルト的な噂も結構本当なのかもしれないと思えてくる。
「新名先輩、僕ずっと気になっていたんですけど」
「うん?」
くるくるくるくる、くるくるくるくる。新名先輩はストローを回して泡をつつきながら楽しそうにしている。傍から見ている僕には、それの何がそんなに楽しいのかわからない。
「あの噂って本当ですか?」
新名先輩が首を傾げる。心当たりがたくさんあるのか全くないのかどちらかはわからないが、僕の言う噂が何か特定できないらしい。
「その、…………新名先輩が失恋したからもうすぐ地球が滅亡するってやつです」
「…………まさか!」
一呼吸おいて、新名先輩が噴き出す。並びのいい白い歯の隙間から覗く舌が、微かに緑色を帯びている。
僕はでも、割と安心する。最近、ニュースで天変地異や自然災害の発生が頻繁に報道されているせいで、その噂が微妙に信憑性を得ていたからだ。それに、さすがに飛躍的な話だとは思っていたけれども、新名先輩なら、神々に愛されている彼女なら、ありえなくはないように感じられるのだ。
「半分は嘘だよー」
「へ?」
ぼんやりと聞き逃しそうになった言葉に、慌てて現実に意識が引き戻される。
「だから、その噂の半分は嘘だけれど、半分は本当なの」
新名先輩が、少し、陰りのある表情を見せる。途端に、僕はこんなことを聞いてしまったことをとてつもなく後悔する。天変地異や自然災害は関係なかったにしろ、どうやら、失恋の方は本当だったようだ。僕はとっさに足元を警戒して、スニーカーを引っ込める。けれども、いくらまっても新名先輩からの攻撃はやってくる気配がない。冷たい汗が背中を伝う。新名先輩の方を、見ることが出来ない。
「……すいません!」
僕は所々傷のあるテーブルを凝視しながら、精一杯の誠意をこめて謝る。もう、下手な小細工などしてもこの状況は改善するどころか、悪化するしかないのだから。
「新名先輩、すいません! 本当すいません!」
反応がないので、僕は兎に角全力をもってして、心の底から謝り続ける。
「へ? あ、うん、……大丈夫! 大丈夫だよ!」
僕のあまりの勢いに驚いて言葉を失っていた新名先輩が、少し引き気味に、それでも優しく僕をフォローしてくれる。思っていた対応との違いに、それはそれで不安が募る。僕はその後もしばらく謝り続け、新名先輩はそれに対してなぜか温かく励まし続けてくれ、結局平行線の会話の折衷案として、新名先輩が今食べているスペシャルギャラクシークライシスフルパワー☆パフェともう一つ好きなパフェを奢ることで双方合意を得た。
「あ、そういえば薬効いてきた?」
ドリンクバーで果汁十五パーセントオレンジジュースのおかわりをいれて席に戻ってくると、長いスプーンで器用にパフェを食べていた新名先輩に唐突に聞かれた。
背中に、冷たい汗が一筋伝う。
「…………薬って、何の薬ですか?」
「学校で見せた鎮痛剤。慈くんが急に倒れるから、私が飲ませてあげたんだよ」
新名先輩がさも当然のように言う。僕は頭痛に加えて眩暈までしてくる。
「あの、パステルグリーンのですか?」
「ううん」
新名先輩が首を横に振る。こんなにも救われた気持ちになる否定は初めてかもしれない。けれども、地獄はすぐにやって来る。
「黄緑じゃなくて紫のほう」
見えない関取に横っ面をひっ叩かれるような衝撃。クリーンヒットだ。…………よりにもよって、パステルパープルの方、あの、どうみても毒薬にしか見えない方を。
「あ、意識したら効いてきた?」
新名先輩が平常運転な会話を容赦なく投げつけてくる。けれども、衝撃が大きすぎて僕は返事が思いつかない。
「やっぱりよく効くよね、だって――」
「新名先輩!」
思わず大きな声が出て、隣に座る女子高生三人組がちらりと僕らの方を見る。新名先輩は「どうしたの?」と落ち着いて言う。
「さっき、保健室で僕は言いましたよね? 他人に薬をあげてはいけないし、他人から薬を貰ってもいけないって!」
「うん、そうだね」
ききわけのいい子供のように新名先輩が素直に頷く。悪意を持たない新名先輩に、正直恐怖すら覚えてくる。
「だったら! 新名先輩はなんで僕に薬を飲ませたんですか!」
「慈くんが辛そうだったから」
それ以上でも以下でもないよ、と新名先輩が付け足す。そこに嘘はないのだろうけれども、でも、と僕は中々思考が上手く纏まらない。
「あのね、大丈夫だよ?」
混乱する僕を宥めるように、新名先輩が言う。
「何が――――」
「あのお薬、気休めにしかならないから」
よーしよしよし、と。新名先輩が僕の頭を優しく撫でる。
隣の女子高生三人組がそれを見て、顔を寄せてひそひそと話し込む。僕の脳はしばらく停止する。その間、新名先輩は僕の頭を撫でながら薬の説明をしてくれる。
「痛いのは辛いよね。すごく、すごくわか
るよ。あのね、私、体質的な問題で鎮痛剤
が効かないの。普段は健康優良児だから鎮
痛剤が効かないことの不便はないんだけ
れど。ほら、私体育も得意だし、とくに…
…………………でも生理痛がひどくて、そ
れだけは我慢できないの。だから、その痛
みが少しでも和らぐように、私は慈くんに
もあげた、あの気休めの鎮痛剤を飲んでい
るんだ。あ、ちなみに色によって味が違う
んだよ。ピンクが宇宙一の幸福なレモン味、
キミドリが地球最後の初恋のイチゴ味、ミ
ズイロが甘酸っぱい青春のライチ味、ムラ
サキがもどかしい乙女の………………ま
あ、プラシーボ効果なのか、これがよく効
くんだよねえ。身体ってすごいよね! 身
体と言えば、この前のテレビの特番で……
………………」
ところどころ話がそれつつも、なんとなく事情がつかめた。僕が飲まされたのは、要するに、特異体質な新名先輩のための、なんの医学的効果もない、愉快な味がするだけの気休めの鎮痛剤だった…………、らしい。僕はひとまず安心する。
「新名先輩、」
過去に思いを馳せたまま帰ってきやしない新名先輩の名前を呼ぶ。トリップが深いのか呼んだだけでは無反応なので、タイミングを見て新名先輩の開いた口にパフェを入れてやる。
「――――スペシャルギャラクシークライシスフルパワー☆パフェ!」
呪文のような商品名を言いながら、新名先輩がこちらに帰ってくる。一瞬接続が上手くいっていないような表情を見せたので、僕は「気休めの鎮痛剤」と単語を教える。
「そう! そうそう、それ!」
新名先輩はやっと何の話をしていたか思い出す。指示語てんこ盛りで同意されたが、おそらくは大丈夫だろう。
「さすがに私もお薬を勝手に他人には飲ませはしないよ」
冗談っぽく笑うけれども、それは怪しいところだと思う。そもそも、気休めにしかならない薬なら、意識がない状態で飲ませたところで、って感じだ。
「で、頭痛は治った?」
新名先輩に言われて、僕はいつのまにかあんなにもひどかった頭痛がなくなっていることに気がつく。気休めの鎮痛剤への不信感が、逆に募っていく。
「ねえ?」
「どうでしょうね」
新名先輩が期待に満ちた表情でぐいぐい聞いてくる。これで治ったと言えば、新名先輩がほらほらほらー的な態度で押してくることは目に見えているし、それもなんだか癪に障るので僕は曖昧に答えを濁した。
。・。*・。*・。・
だんだんと窓の外が暗くなってくる。それに伴って、周りのテーブルに並ぶ食べ物も軽食やデザート系のものよりも、ハンバーグプレートやパスタなどご飯系のものが増えていく。僕は何度かそれとなくまだ帰らなくていいのかと新名先輩に聞く。そう、あからさまに聞くとたぶんちょっと拗ねられるか絡まれるかしそうなので、それとなく、決して僕はもう帰りたいとは思ってなどいないような文章で細心の注意を払って言葉を選び、あくまで自然な感じで。
けれども、何度聞いても新名先輩は「まだいいよ」と言うので、僕らはだらだらファミレスで時間をつぶし続ける。基本的には新名先輩が自由気ままに話すのを僕が適当な相槌を打ちながら聞いている。それでもさすがにそろそろ話題がなくなってきたのか、新名先輩は眠たそうに欠伸をした。
「ねえ、慈くんは何か心躍るような話題とかないの?」
追加で頼んだビッグメテオスターエクスプロージョン☆パフェも食べ終えて暇なのか、手持無沙汰にストローをくるくるとまわしながら新名先輩が聞く。ジュースもそろそろいらなくなってきたのか、コップに残る緑色のメロンソーダは三十分ほど前から全然減っていない。
「心躍る話題って、………………そんなのないですよ、特に」
一応考えてみるけれども、本当に思いつかない。強いてあげるなら、一昨日立ち読みした週刊誌の「三十一人の有名占い師が大予想! 地球滅亡のXデー」が面白かったくらいだ。
「えー、なんでもいいから」
「なんでも…………」
「そうだよー、心躍ればなんでもいいの」
新名先輩がぼんやり目をこすりながら言う。多くを望まないような望むような微妙な要求に、僕は渋々口を開く。
「この前見た週刊誌で――――
「キャーー――――――――――」
ずどん、と。
内蔵に響く突然の大きな揺れ、と少し遅れて地鳴りのような、大きな音。が、一瞬、何が起こったかわからなくて、
「へ? なに?」
「うっそ……?」
「ウワ――――――――――」
「ちょっと、」
「あ、あああああああ、ああああ!」
「いや、――――――――――たすけて!」
視界が不安定にまわる。新名先輩、がたぶん僕の名前を呼んだ気がするけれどもパニック状態の店内の悲鳴や怒声にかき消されて、僕、僕は、
「え…………どうしよう…………」
「キャ――――――――……」
「あ、」
「いや、だ、あ、ああああああああああああああああああああ」
「いたい、いいい、い――――――――――」
茫然とする僕の目の前、割れた蛍光灯の破片がきらきらと落ちてくる。その中、新名先輩はただ一人、泣くでもなく怯えるでもなく、微かな笑みを浮かべて立っている。僕は、飛びそうな意識を何とか手繰り寄せる。
「新名先輩!」
ゆっくりと、新名先輩が僕の方を向く。新名先輩の表情が陰る。きらきら、降りそそぐ硝子片の輝きが増すような気がする。けれども、それが、物理的な陰だということに気づいて、僕は力いっぱい新名先輩の腕を引く。そしてそのまま、いろんな色の液体が散乱するテーブルの下へと二人の体を押しやる。
がしゃん、と。少し遅れて鈍い音がして、硬いコンクリートの破片が床をはねる。
「新名先輩! 大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ」
柔らかに笑う新名先輩が、いつもと同じ口調と表情で言う。この異常事態の中でもいつもと変わらない新名先輩に、僕は一瞬眩暈を感じる。
「大丈夫そうなら、よかったです…………、何が起こったかわかりますか?」
狭いテーブルの下で、外がどうなっているのかわからない。けれども、崩れる天井からの落下物や蛍光灯の破片などが危なくて、テーブルの外を窺うことも出来ない。僕は混乱する脳で、とりあえず思いつく限りの可能性を列挙して口に出す。そうしていないと、狂ってしまいそうだった。
「地震? 噴火? 津波? 衝突? 暴走? 反乱? …………まさか、隕石?」
甲高い悲鳴や怒声、泣き声は途絶えることなく聞こえる。揺れも最初のものほど大きくはないが、それでも断続的に続いている。パニックも異常現象も収まるどころか、刻一刻時間が経つにつれてだんだんと過激になっていく。
「新名先輩…………?」
返事はない。心配になって新名先輩の顔を見ると、新名先輩は相変わらずうっすらと笑みを浮かべたままじっとしている。ぞわっ、と悪寒が走る。僕は何の液体がついたのかわからないけれどもべたべたになった手を無我夢中に伸ばして、新名先輩の華奢な肩を掴んで揺する。
「新名先輩! 意識ありますか! 怪我ですか! 何処か痛いんですか!」
僕は狂いそうな意識と理性を何とか保ちながら、沈黙を続ける新名先輩に声をかける。ざっと見たところ致命的な外傷はなさそうなので少し安心はしたものの、得体のしれない様子に不安が募る。
「新名先輩、大丈夫ですか!」
新名先輩の見開かれた大きな瞳から涙が一筋零れ落ちる。変らず、薄い笑みを貼り付けたまま。けれども、堰が壊れたように、それに続いて透明な滴がぼろぼろぼろぼろ紅潮した柔らかな頬を滑り落ちていく。
「…………きっと、私のせいなの」
「え?」
笑顔のまま、放心したように涙を流しながら新名先輩が話し出す。僕はわけがわからないまま、ただ、嘘みたいな言葉を聞くことしかできない。
「私のせいで、地球が終わるの」
「なんでですか!」
わけのわからない天変地異のさなか茫然自失として言葉をぼたぼた落とす新名先輩の異様な光景に気圧されながら、僕はなんとか声を絞り出す。
「新名先輩! 聞いて! 僕にはよくわからないんですけど、でも、たとえ新名先輩のせいだとしても、僕は、僕は! 新名先輩! あなたの味方ですから!」
僕の言葉に反応して、新名先輩が驚いたような表情をする。そうして、ぐちゃっと顔を歪ませた。
「…………私が、私が慈くんにキスしちゃったから。それで、初恋が実ってしまったから、だから、」
かち、と。音を立て、全ての歪な破片が寄り集まって繋がって、一つの仮説が組み上がりだす。僕はいくつも、大きな誤認と、見過ごしをしてしまっていたのだ――――――――最悪なことに、きっと、
…………。・。*。・。*。・。今にも僕が
死にそうだと思いつめだしたのか、――
――新名先輩は可愛ければ何でも許さ
れるかどうかを実験するために神々が
戯れに作った人間の内のひとり―――
―記憶喪失とかではなくて。――――失
恋したからもうすぐ地球が滅亡するっ
てやつです――――その噂の半分は嘘
だけれど、半分は本当なの――――慈
くんが急に倒れるから、私が飲ませてあ
げたんだよ。・。*。・。*。・。…………
「新名先輩、」
僕は優しく、壊れ物を扱うように、そっと。新名先輩のあたたかな頬を両手で包み込む。新名先輩は混乱が渦を巻く瞳を僕の方に向ける。
「意地悪な神さまがいたもんですね、まったく」
混乱している新名先輩は僕の言葉の真意をすぐには理解できなかったようで、ぽかんとしている。僕は構わず言葉を続ける。
「おおかた、大人子供な神々の嫉妬や独占欲なんでしょう? この悲惨な現状の原因を作っているのは」
やっと僕が何を言いたいのかわかってきたのか、新名先輩は静かに、けれども小さく頷いた。僕の仮説はだいたいあっているらしい。
「大丈夫ですよ、新名先輩。だって、よくあることじゃないですか。神々の癇癪で世界が滅亡することなんて」
もう、悲鳴も怒声も何もかも、僕には聞こえない。きっと、新名先輩も同じだろう。やっと落ち着いてきたのか、新名先輩が、新名先輩らしく、可愛く柔らかににこりと笑う。それを見て、僕も平常心を取り戻す。
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「うん?」
どん、と嫌な音がして頭上のテーブルが僅かにひしゃぐ。さっきから徐々に熱く、焦げ臭いにおいが蔓延してきている。もしかしたら厨房の方で火事が起こっているのかもしれない。
「新名先輩は、僕のどこが好きなんですか?」
「…………ストレートに聞くね」
耳まで真っ赤にして、新名先輩が苦し紛れに言う。僕は、だって非常時ですからね、と余裕たらしく笑って言う。
「んー………………と、改めてどこがって言われると難しいな」
「…………それはちょっと酷いんじゃないんですか?」
ここまできてそれじゃ、さすがに傷つく。けれども、そんな僕の気持ちを察してか、新名先輩は慌ててぶんぶん手を横に振る。
「いや、そうじゃなくて」
新名先輩が照れ隠しにはにかむ。そうして、赤い唇をもごもご動かして恥ずかしそうに言う。
「慈くんのこと、全体的に好きなの」
さすがに、僕の方も赤面する。新名先輩の方が、ストレートだし、強いし、可愛いし、やっぱり敵うわけがない。
。・。*・。*・。・
地鳴りのような低い音が徐々に強まって、それに相まって揺れの頻度と強さも大きくなる。気づけばあんなにも飛び交っていた人の声や騒音は聞こえなくなって、今はもう僕と新名先輩の呼吸音だけが不定期に静けさの訪れる空間に響く。心なしか、呼吸をするのが苦しくなってきている気がする。空気が薄くなっているのかもしれない。そろそろ、終わりの時間がせまってきているらしい。
「あ、そういえば」
「うん?」
僕はつないだ右手から伝わる新名先輩の柔らかな手の温度に幸せを感じつつ、唐突に思い出したことを聞く。新名先輩は少し首を傾げて僕の顔をのぞき込む。僕は、つないでいるのとは反対の手で、新名先輩の額を滑り落ちてきた髪の毛を払ってやる。新名先輩が、心地よさそうに目を細める。
「新名先輩、鎮痛剤ってまだ持っていますか?」
「うん、あと二つあるよ」
セーラー服の胸ポケットに反対の手を入れて、新名先輩は何度見ても慣れない非現実的な色合いの錠剤を取り出す。
「一つ、貰ってもいいですか?」
いいよ、と新名先輩がパステルグリーンの方を僕にくれる。僕はそれをありがたく受け取る。
「でも、どうして?」
新名先輩が不思議そうに聞く。僕は苦笑しながら言う。
「やっぱり、痛いのが怖いんで。だから、気休めでもなんでも、薬を飲んだらちょっとは楽になるかなって思って」
少し間をおいて、新名先輩が楽しそうに笑う。そうして、手の中に残ったパステルピンクの錠剤を飲み込んだ。僕も、それを見てパステルグリーンの錠剤を飲み込む。
今までに感じたこともないような揺れが起こる。ひどく、ながく、永遠のように続く。
体の感覚が徐々になくなっていく。けれども、新名先輩とつながる右手は温かくて、口の中には鎮痛剤の愉快な味が残っていて、僕は、幸福な気持ちに包まれたまま、僕は、僕らは、―――――――――――――――――――――――――――――
新名先輩はかわいいから、 みもりゆゆ @psyche_mimori
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