漫録千夜一夜
はらだいこまんまる
第1夜 眼の力
この眼の力は神話や講談、マンガの中だけのフィクションなのだろうか?
それが真実存在するなら、もし可能なら、是非とも身に付けたい。
あの上司に、あの先輩に、あいつにもこいつにも眼の力を行使する。
殴れば犯罪だが、睨んだだけでは捕まらない。
夢のような力。
結論から言うと、眼の力は存在すると断言してもいい。
まずはその力を持っている有名な人物を何人か挙げてみる。
古くはギリシア神話の怪物メドゥーサ。
その眼を見た者は石になる。
しかしあくまでも神話世界でのお話。
現実の世界から。
極真空手の
睨んだだけでチンピラが腰を抜かしたエピソードが『空手バカ一代』にある。
以下は鉄舟の内弟子、小倉鐡樹著『おれの師匠』より記憶を頼りに抜粋。
次郎長「しかし先生、やっとうの稽古なんか意味ないですね」
鉄舟「それはなぜだね?」
次郎長「だって出入りの時なんか俺が”この野郎!”と睨みつけると相手は動けなくなりやす」
鉄舟「ならば俺もお前を同じように動けなくさせてやろう」
次郎長「ウッ! 先生の眼から光が出て動けなくなった。これはいったい?」
鉄舟「お前が”この野郎!”と睨みつけたのと同じだ。そもそも稽古は眼から光を出すためにやっている。眼から光が出ねえ稽古じゃ意味がねえ」
この話を読んだ時に、剣術の奥深さを感じた。
体力、筋力、スピード、テクニックを超えた世界が在ることに。
最後は筆者自身の経験から。
筆者の武道の先生は古流剣術と沖縄空手の達人で、右翼の大物から可愛がられていた。先生自身も自分は右翼だと公言していた。
先生の弟子や後輩も、警察署長や刑事、アメリカの軍人やFBI、後にCIAに入った人などが当たり前のようにいた。
その稽古スタイルの一つとして先生に自由に攻めていく、フリーというのがあった。
殴ってもタックルしても自由。
何をしても子供扱いされるので、はたから見ている人がインチキだと陰口を叩くのを聞いたこともある。
しかし反論はしない。
筆者も先生にかかっていく度に、金縛りになり投げ飛ばされてきた。
その経験があればこそ、口での反論は空しい。
筆者はなぜか先生に可愛がってもらった。
ある合宿の夜、普段聞けないようなことを質問をしてみた。
「フリーの時、先生の手足の動きに幻惑されるから金縛りにあうのでしょうか? ならば盲目の剣豪・
「いや、逆にもっと効くだろう」
「遠くからピストルや弓矢を構えている人にも効きますか?」
「理論上はできる。その状況でブルブルと震えなければ、だが」
他にもたくさんの質問をしたが先生は面倒くさがらず丁寧に答えてくれた。
そして、
「波里くん、眼の力で人の動きをある程度は操れる。私の眼を見るんだ」
と先生は筆者に命じた。
チラッとその眼を見たが、本能が見てはいけないと警告している。
しかし、先生の命令でもあるし折角の機会なので両眼を凝視した。
それは例えるならブラックホール。
すべて吸い込まれる感覚。
これ以上は怖い。だから全力で視線を外した。
呼吸を忘れていたので、ハアハアと荒い呼吸がしばらく続いた。
「この力が自由自在に使えるようになった時、私の頭がおかしくなったのかと思った。だから万が一、波里くんがこの力に目覚めた時は私がちゃんと潰すので安心してほしい」
先生は微笑を浮かべながら優しく筆者に告げた。
まったく至れり尽くせりの教えではあるが、筆者が潰されるかもしれないという心配は杞憂だ。
眼の力を身に付けるには、相当の修行を積まなくてはいけないらしい。
また、身に付ける頃には眼の力はいらないのだろう。
大山倍達は極真空手の創設者。
山岡鉄舟は春風館を立ち上げ、剣と禅を極めた。
筆者の先生は、自身が右翼で若い衆をたくさん使える。
それくらいになれば、憎い上司を眼の力で倒そうなんて世界には住んでいない。
おまけに筆者は眼の力を使えるほど修行はしたくない。
まだ上司に罵倒される方がマシだ。
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