誰か書いて

ぴおに

ブラックホールの中に

橋の上は風が強く、欄干に登れば風に押されて勝手に落ちてしまうだろう。

落ちるために来たのだから、躊躇することはない。

そう思いながらも、足がすくんで動かない。

下を覗き込む。

真っ暗で何も見えない。

まるでブラックホール。

吸い込まれそうな暗闇。

ポケットに入れていたマスクが風で飛ばされる。

強風に翻弄されながら、あっという間に見えなくなる…

僕もあんなふうになるのだろうか。

ペラペラの、何も持たない僕は、きっとマスクのようにヒラヒラと落ちてゆくのだろう。

それでいい。

未練などない。

もう、疲れたのだ。

恐怖を押し殺して、欄干に足を掛けた時


「死ぬのか?」


背後から声がした。

振り返ると男が一人立っていた。

強風の中、一糸乱れぬその男は続けてこう言った。


「どうせ死ぬなら、私に協力して欲しい」


「…協力?何を…?」


「飛び込むんだよ。ブラックホールに」

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