夜の底を歩く
来条 恵夢
始、始まったことと始まっていないこと
無理! もう無理! 絶対無理!
ひょうと、風が吹く。
スカートの
少女は考えるように首を
「
凛とした声は、張り上げるわけでもないのによく響く。
急に立ち上った炎に、温度差で風が起こる。
燃え盛る炎の中から不意に、押しつぶされた獣のような声が聞こえた。続いて、人の頭ほどの大きさの何かが飛び上がる。
「キサマっ、何をするっ」
「大人しく出てこないから悪いんでしょ。勧告無視した奴には武力行使、ってのは常識じゃない。何、殺すつもりの相手あぶりだすのに手加減すると思った?」
毛を逆立てた何かは、猫に似た生き物だ。だが不自然にも、明らかに人とは異なる体から、
少女は、わかんないなーと呟いた。嫌味ではなく、本心だ。
その右手には、日本刀が握られていた。重いはずの鉄の塊を、少女は腕一本で軽々と支えている。しかし、筋肉質にも見えない。
そうしてひょいと、足場を蹴る。丸々、燃える空き地を挟んだ対面の、猫もどきの元へと跳んだ。
「罪状以下略っ」
緊張感のかけらもない宣言で、少女は刀を振り下ろした。猫もどきは逃げようとしたが、その足が、ブロック塀の裏から突き出た手につかまれている。
あっさりと切断された猫もどきの体は燃え上がる空き地に投げ入れられ、少女は、塀に着地して相棒に声をかけた。
「ごくろーさま」
「もっとねぎらえ。一人孤独に潜むのがどれだけつらかったか! 寒いし、馬鹿でかい結界張らされるし!」
「寒いのは一緒。つか、スカートなんかはかされてるせいで余計。大変だと思ってるから、リクエストに答えてわざわざこんな動きにくい格好してあげてるんじゃない。文句言うなら、スカートなんてはかないよ」
「えー、わざわざ調達してきてるのにー」
「それはそっちの勝手」
すぱっと断言した少女の手から、いつの間にか日本刀は姿を消していた。
そうして二人は、燃え盛る空き地を眺めやる。とっても勢いがいい。
ややあって、口を開いたのは少女の方だった。
「あと、よろしく」
「ええぇっ、後始末考えてないのかよ! 水出せ水!」
「
「わけわかんねーって! 無理! もう無理! 絶対無理! 消防署にお任せするからなっ?!」
「うっわー、それで補佐役なんて言っちゃうんだ。なっさけなー」
言い合いながらも、
二人が去った直後に、ようやく異変に気付いた隣近所がざわめき始める。消防車が出動するまでには、もう少し間があった。
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