一つのネガイ

柊 撫子

 昼休みの賑やかさの中に混じって、こんな話し声が聞こえてくる。

「ねぇ、これ聞いた事ある?」

おかっぱ頭の女子生徒は、少し強張った顔で友達に話しかけた。

「どうせまた怖い話でしょ」

三つ編みのお下げをした女子生徒が軽く流そうとする。

しかし、おかっぱ頭の方はちゃんと話を聞いてほしいらしい。引き留めるように強めの口調で続けた。

「そうだけど、これはすっごく特別なの!」

「ふぅーん、どんなの?」

少し興味を持ったのか、書く手を止めて話を聞く姿勢をとった。

「それでね、これ隣のクラスの子から聞いたんだけど……」


 そう言って語られたのは、学校の近所にある商店街の暗い路地の話だった。その路地というのも、この辺りの怪談話でよく舞台となる色々な曰くがある場所だ。

 何でも、今回の怪談はそこを十九時ちょうどに通りかかるとその路地に女子生徒の霊が見えるらしい。

そしてその霊は自分の姿を見た人の願いを何でも叶えてくれるという。

 しかし、それにも一つ条件があるのだとおかっぱ頭が語る。


「ここにいる女子生徒の霊は何でもお願いを叶えてくれる代わりに、お願いを一つ叶えなきゃいけないんだって」

「へぇ、一つって事はその霊からのお願いは変わらないのかな?」

「分かんない、そこまで詳しく聞かなかったから」

と、頬杖をついて答える。少し残念そうな素振りをしているのを見るに、情報提供者が非協力的だったんだろう。

ここまで半ば真剣に聞いていたお下げの方も興が削がれたらしい。

「なにそれ、つまんないの」

そう言ってまたノートに書き始めた。

 こうして他愛のない会話はここで終わり、丁度よく予鈴が学校中に鳴り響く。

ワラワラと集っていた集団も散り散りになって着席する。その一方で私は自分の席から動くことなく午後の授業を迎えた。


これはどこにでもある仄暗い噂話。これから私自身に起こる不思議な話―――。

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