Agent/Ill
非奈
Become a Bird
『こちら1番機、まもなくエリア26領空内に侵入』
『砂嵐の接近が予想される。支援は中止、投下が完了次第引き返せ』
『1番機了解、投下確認後帰投する』
『...聞いたか!今回は1人だぜ』
不思議と嬉しげな声で操縦士のハンクが語りかけてくる。
「おお、寂しいねぇ」
『英雄はいつだって孤独なもんだ』
「物語の読み過ぎだよ」
『降下地点を変更、後は徒歩』
「俺は年寄りだぞ?容赦無いな」
『まだまだ現役だろうが』
目の前の壁が開き、空が目に触れる。
『カウントダウンは割愛!行った行った!』
「地獄の釜に飛び込む気分だ」
『蜘蛛の糸を垂らして待っててやる』
「ジャンク品には厳しいね」
倒れるように翡翠の空に身を投げる。
吹き上げるような風を受けながら
真っ逆さまに落ちていく
見れば下は真っ赤な荒野
一色に禿げ上がった大地
「同志。今日は君にうってつけの仕事を持ってきた」
そう言って隣に座ったのは白髪隻眼の男...アダ名は中佐。
かれこれ十数年の付き合いになる。
「酔えない酒にも飽きたろう?」
「ああ、飽きた...」
笑みを浮かべて中佐は俺に端末を差し出した。
「ここから東に6000マイルの地を知っているか?」
「赤い
噂に聞いた事がある。
エリア20南西部からエリア28北部まで広がる荒野。
「放棄されたエネルギープラントを〔救済の徒〕その一派が占拠している」
「荒野で破滅主義者の祭典でもあるんじゃないか?好きにさせとけよ」
「現に上層部もそのつもりだった」
男の顔には苦虫を噛み潰したような
表情が浮かんでいた。
「
「...“聖遺物”ね」
「棄てられて久しい地だ...彼等以外に住民はいないだろうが...」
「如何なる状況下においても大量破壊兵器の使用は容認できない、だろ?」
この男、中佐の口癖だ。
この黙示録のご時世に殊勝なことでいらっしゃる。
「...君には先行して指導者の確保を任せたい」
空気が変化する感触にに意識が引き戻される。
荒野はすぐそこに迫っていた。
小高い丘に狙いを定め、
背部ユニットを切り離して着地する。
『無事に降下したようだな』
「無事じゃない。スカーフが鳥になって旅に出た」
『縁があればまた会える。
定期報告を忘れるな』
「...お気に入りだったのに」
眼前には荒野と埋もれた建造物の痕。
遠くに見えるプラントの影。
距離にして1.5マイル程度だろうか?
脚部ユニットの出力を引き上げ、
丘から足を踏み出す。
響く駆動音、身体が浮き上がる。
発射とでも言うべき猛烈な加速。
着地の衝撃を感じる間も無く再び跳び上る。
遠くに見えるばかりだった影が次第に大きさを増していく。
目的のプラント、その外壁。
資源戦争時に増設されたであろうそれを超えて、無造作に積まれたコンテナの上に着地する。
「あー報告報告、目的地に到着」
『こちらも回収部隊の準備を進めている。 手早く済ませてしまおう』
「簡単に言ってくれるね」
左手を側頭部に当てがう。
「熱源探知に磁場マッピング、心拍センサーと小型ドローン等々...相変わらず全部機能しない、と」
『偵察機の離陸許可は降りそうにない。大丈夫、自慢の目があるだろう』
「...,原始的だ」
『これが終われば君の機能修復について上層部に掛け合ってみよう』
「期待しないで待っとくよ」
...歩哨は見えない。
斜めに背負ったウェポンラックから
『そのプラントではかつて新型燃料の研究と保管を行なわれていた』
『だが紛争時に施設の殆どは損壊、
〔救済の徒〕は比較的被害の少ない
E棟に集まっていると予想される』
歩き出そうとした矢先、視界の端に
奇妙な風景が映り込んだ。
外壁の向こう側、荒野の東側から空を赤く染め上げて何かが迫って来る。
「アレが砂嵐、ねぇ...」
不気味なんてレベルじゃない
まともに浴びるなんて以ての外
急ぎ足に施設内に踏み入った。
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